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彼女編3

家に帰ってから改めて手帳を広げて見ると、パラリと何かが落ちました。

手帳に挟まるサイズに折りたたまれた便箋です。


「これは、手紙?」


広げてみれば不思議な青い色の文字で書かれていました。

インクじゃないのでボールペンではないですし、線の細さから言ってシャーペンだと思うのですが、青?

調べてみれば確かにシャープの芯は黒以外にもあるみたいです。

でもそんなのを使っている人って見たことがありません。

この手紙を書いた人、秋風さんというのはどんな人なんでしょうか。

とにかくまずは手紙の内容です。


『まずお願いです。

もしこの手帳の持ち主以外の方が読んでいた場合は手帳を元の場所に戻して頂けると幸いです。

この先は持ち主宛てに書いています。(別に持ち主で無くても読んでも問題はありません)』


なんでしょう。もう冒頭部分で秋風さんの人となりが分かる気がします。

物凄く気遣いが出来る人でしょう。

そして次の文章です。


『手帳の持ち主さんへ。

このような遠回りな形で手帳をお返しすることになってごめんなさい。

というのも、僕はあなたの走り去る後ろ姿を一瞬見ただけで、女生徒だとは分かったのですが誰かまでは分からなかったからです。

それに付随して謝らないといけないのですが、誰の手帳かを知る為に手帳の内容を読んでしまいました。

でも結局どこにも名前は書いて無かったので、ただ内容を盗み見るだけになってしまったのですが。

多分あなたとしては他人には読まれたくなかったんじゃないかなって思っています。

だから僕は決して内容を他言しませんし、あなたが誰かを詮索することもしません。

今後もあなたが楽しく手帳を使ってくれることだけを願っています。

秋風より。


追伸:

許されるなら読んだ感想を書かせてください。

次のページにそれを書いたので、読みたくない場合はそのままゴミ箱に捨ててください』


感想って、私が手帳に今まで書き留めていた童話について、ですよね。

読んでみたいような、ちょっと怖いような、昨日以上にドキドキしている私がいます。

恐る恐る2枚目を見た私は、まずその文章量に驚きました。

ほんの一言二言書いてあるだけかなと思ったらびっしりと書いてあるんです。

しかもこれは、曰くファンレターです。


『面白かった』『心がぽかぽかした』『思わず手に汗握って応援してしまった』『これはハンカチが必要』などなど。

具体的に、どこがどう良かったのかが細かく書いてあって、この内容を読んだ私が思わず飛び跳ねたくなるくらい喜ぶことが手紙いっぱい書いてあります。

でも多分分かりにくかったりおかしな部分もあったと思うんですけど、批判であったり嘲笑であったりダメだしだったり、そういったマイナスな事が全然書いて無いんです。

そして締めの一言を読んで思わず涙ぐんでしまいました。


『次のお話が凄く楽しみです。でもそれを読むことが出来ない事だけが残念です』


この人は、秋風さんは本当に一片の見返りも求めていません。

それなのに私にはめいっぱい与えてくるんです。

ひどい人です。

これで何もしなかったら、私ひとでなしじゃないですか。


「でも、何をしたらいいでしょうか」


この秋風さんを探し出して直接お礼を言いに行くのは……だめですね。

せっかくここまで慎重に私の身元がばれない様に配慮してもらったのにそれを無為にするわけには行きません。

それでもどうにかして伝えないと。

手帳を拾ってくれてありがとう。素敵な感想をありがとう。私の作品を気に入ってくれてありがとうって。

せめてどこの誰かが分かれば手紙を出せるのですが。


「手紙……そうです!」


私がこうして手紙を受け取れたように秋風さんにだけ分かる場所に手紙を隠せば良いんです。

そこでふと携帯が目につきました。


「そうです。何はともあれ、まずは無事に手帳を受け取った事を掲示板に返信しましょう」


携帯を手に取りあの掲示板を開きました。

さて、どんな風に書くのが良いでしょう。

ここはやっぱり物語風に書いた方が良いでしょうか。


『子供は無事に親鳥が保護してくれました。

親鳥は子供を助けてくれたひとにお礼をしたいなと思いました。

でもゾウのおばあさんに聞いても、おばあさんは目が悪くて誰が子供を届けてくれたのか分かりませんでした。

そこで親鳥は考えました。

そうだ、あの猫ならそのひとを見ているかもしれない。

猫さん手紙をどうか届けてください。明日のお昼に持っていきますから。

え、忙しい?

いつものお気に入りのベンチの下で寝てばかりじゃないですか』


これで後は手紙を書いて明日の昼休みまでに中庭のベンチの裏に貼り付けておきましょう。

うーん、ちゃんと伝わるでしょうか。

私が中庭で猫に遭遇したのは知ってそうなのできっと大丈夫ですよね。

私はお礼の手紙を書いてカバンにしまった後、ドキドキする胸を押さえてベッドに潜り込みました。


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