第八話 フードファイターカグヤ
フライドポテトというジャンクフードとの出会いがカグヤの食への探求心へと火を点けた。
その日を境に彼女はフードファイターとして目覚めたのだ。
幸いというべきか必然というべきか、今の若竹一家にはお金があった。
おじいさんがせっせと竹藪から金塊を持ち帰ってくるものだから、風通しの良い家に住んでいるのに食事はたっぷり食べられるし、その上でまだお金が余っているのだ。
加えて、うちはカグヤ以外は物欲も旺盛ではなく、満場一致で彼女のしたいようにお金を使わせてあげる案が採用にされた。
俺はカグヤの付き添いとして、三日に一度は片道二時間かかる町へと向かうようになった。疲れないのかと聞いたことがあるのだが、そのときのカグヤの返答には啞然としたものだ。
「食べたら復活する!」
らしい。まあ、カグヤは宇宙人で、俺には及びもつかないような技術で栄養を瞬間チャージすることができるのだろう。
町に行き、市で買い食いをしたり、蕎麦屋に行ったり、まあ基本的に食べ物関連を回った。食い物への探求心は恐ろしいもので、カグヤはもう町の地理を完全に把握してしまっている。しかも覚え方が独特でどこにどの食べ物が売っているだの、何軒先には美味しい料理屋があるだのといった食関連で全てを把握しているのだ。なので、彼女に場所を聞くときは目的地の近くにある料理屋などを提示しないと伝わらない。どころか、同じ町の話をしていても、「私の知らないところです」なんて言われる。
既に十回は町の店を周回しているのに、カグヤは飽きもせず、いつも楽しげだ。最近では猫を被るのが面倒になってきたのか、時折俺のことを若竹と呼び捨てしてしまい、慌てて訂正したりなんてこともある。堅苦しさがなくなったと思えば嬉しいが、お兄様呼びはまだ続けてほしい。だから、俺はいつだって呼び捨てされても聞こえていないフリをしている。
彼女の食への探求は続く。
しかし、振り回される身にもなってほしいものだ。これまでならば、カグヤに村を案内したり、村の近隣の植物の植生を教えてあげたり、田んぼのカエルが気味が悪いと怯えるカグヤにカエルを近づけて、見た目は合わない剛力で殴られたり、冬には自作で将棋の駒をつくってルールを教えて遊んでみたり、なんだかんだと一緒に遊んでいたのだ。
しかし、カグヤがフードファイターにジョブチェンジしてからというもの、毎日毎日食べて食べて食べて……休憩ついでに食べて、妹のことは可愛いと思っているし、彼女のモンスターペアレントのこともあって、雑に扱ってはいけない存在だとわかっている。……いるのだが。
端的に言って、辛い。俺は別に食道楽というわけではないから暇でしょうがない。
まあ、一応俺にもたまには活躍する場面はあるのだ。
彼女の町へ行くサイクルの中には馬鈴薯を買って、フライドポテトを作ってあげるという予定も当然のように組み込まれている。
そのときはまあ兄として、自作の料理で妹が喜んでくれるのは嬉しいから楽しいといえばこのときくらいのものだ。
「やっぱり若竹……といけない、いけない。お兄様のフライドポテトは美味しいです」
(本当にここ楽園だわー。家出して正解だったかも……)
「そうかい」
呼び捨てはやめてくれよ、聞こえてるんだから。