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第六話 買い物

 カグヤがうちに来てから、おそよ半年が経った。

 季節は春。半年も期間があったからか、カグヤも大きくなった。身長は一四〇センチくらいまで成長していた。

 しかし、これからの彼女の成長はこれまでの成長速度より緩やかなものとなることを俺は知っている。どうにもカグヤは故郷に帰ることよりも、この星の食事を楽しむことが目標らしく、早く成長して嫁に出されたくないらしい。家出前に似たような経験があったのか、その点をすごく警戒しており、「成長ペース下げよ」という心の声を聞いてしまった次第だ。お兄様としては可愛い妹と一緒にいれるとあってありがたい。

 また、この半年間でカグヤは近隣のほとんどの探検を終えていた。竹藪にも行ったし、川にも行った。筍を採取して一緒に食べたり、川上で釣りをして魚を食べたり、山菜採りに行って、偶然見つけた自然薯を食べたり、お鯉一家のところで収穫された新米を腹いっぱい食べたり。

 つまり、大体食べてばかりいた。どうにも彼女はこの星の生態系とか植生とかにはまったくと言っていいほど興味や関心がないらしく、食事に結びつかないことは基本スルーされた。

 日を追うごとにカグヤはこの星の天然物? の食料資源の豊富さに感激していたようで、食への探求心が一層向上していった。

 冬になってからは家で冬籠りしていた。カグヤは寒いのが苦手らしく、冬は囲炉裏の前から離れなかった。かく言う俺もカグヤの面倒を見るという名目で一緒になって暖をとっていた。たまに横になって、何か一人で遊んでいるようだっだが、すごく楽しそうにしており、声を掛けるのも憚られて、俺が退屈になることもあったが……。

 うちには金銭的な余裕はなかったのだけれど、最近は臨時収入があって、むしろ金銭的に裕福にすらなっていたので、別に俺が働かなくても大丈夫なのだ。

 きっかけはちょうど今年の初冬のこと。いつものようにおじいさんと俺が一緒になって、竹藪で竹を伐採していたときのことだ。どういうわけか竹を切る度、中から金塊が出てきた。それも一つや二つじゃあない。家に帰る頃には、両手でも抱えきれないような莫大な量であり、それを月に一度、大きな町の商人に売り、大儲けといった具合である。本業の竹の加工と販売は中断し、金塊だけを持って町に行ってしまうくらいにはお金になった。どうにもこの世界でも、前世同様に金の価値は高かったようだ。

 いやー、不思議なことがあるものだ。やっぱりカグヤは竹の精霊なのかもしれない、とニコニコ笑顔のおじいさんとは裏腹に、俺はカグヤの仕業であることを確信していた。

 というのも、ある日の彼女の心の声曰く、


(色んな食べ物を食べるには金がいる。だから、この星で価値が高い鉱物を私のプライベート惑星から取り寄せてやったわ! 触媒を使用しない物質転移には転移するもの自体を媒介にするから、半分くらいは無駄にしてしまっているけれど、天然物の食料のためなら別にいいか。大して価値が高くもない金塊だけにいいなら安いものよ。あれ、私の惑星に山ほどあったから良い処分先が見つかったわ)


 らしい。

 ツッコミどころしかない。

 なんだ、プライベート惑星って。まさか、うちの妹は星を個人所有しているのか?

 それに物質転移って、プリズム銀河帝国ってそんなこともできるの?

 とまあ、妹のおかげらしい。心の声という本人の証言があるのだ。間違いないだろう。

 ありがたいことではあるが、普通の村人が金塊を度々持ってくるのは問題だと思う。具体的には、お偉いさんに金塊の在処を問い詰められ、接収されるのではなかろうか。一度、それとなくおじいさんに言ってみたが、「売らなきゃ金にならんぞ」と真顔で言われて、一蹴された。

 もうどうとでもなれ。

 …………。

 そして、今日はまだ朝日が上って間もない早朝から、俺とカグヤは家を飛び出した。

 家出ではない。

 今日は、村を二つ越えた先にある町の市に買い物に行くことになっている。町には片道で二時間くらい歩く必要があり、途中で森を抜けたりしないといけないので、わりと体力的に厳しい。だから、これまでカグヤは行ったことがなかったのだが、今回毎度のように行きたいという彼女に根負けする形で俺の同伴という条件の下、許可が下りたのだ。

 彼女の脳内は文字通り、食べ物一色。まだ村を出たばかりなのに、どんな食べ物があるのかということについて考えている。見た目は本当に綺麗なの中身が残念な妹である。

 小遣いはカグヤの計画通り、金塊を売ったお金から捻出され、少なくともよほど高価なものを買わない限り、金銭的に困ることはあるまい。

 ひたすら、歩いていると、手を繋いでいたカグヤが足を止めた。

 ちょうどこれから森に入るところだ。


「お兄様、足が疲れて動きません」

(まだ歩けるけど、平坦な道ならともかく、獣道なんてやってやれないわ)

「うん、じゃあ兄ちゃんがおんぶしてやる」


 なんだかなあ。

 森を抜けてから、数十分ほど歩き、俺達は町についた。

 この町は奥羽様の領地でも栄えている方なので市の品揃えもよく、川の水運を使って、物流もしっかりしている。そんなこともあって、入り口前には簡単な検問がある。とはいえ、俺は何度か来ているので門番の人とも顔見知りだ。

 奥羽領の平民であることを示す証明証を見せれば検問は通ることができる。

 証明証のないカグヤに関しては、捨て子であると説明して、新規に証明書を発行してもらった。証明書といっても氏名と住所を記録した簡易的なものである。基本的に検問のお兄さん方が警戒しているのは町を脅かすような不審な大人なので、子どもに対しては優しく接してくれる。

 治める領主によってはこういった戸籍管理が杜撰なところもあるらしい。

 中に入って、早速市に向かう。泊まりなら先に入り口近くで宿を探すが、今回は日帰りなのでその必要はない。

 市にはカグヤの目当ての食料はもちろん、他にも食器や陶磁器といった高価なもの、服屋や雑貨といったものまで大体ある。

 だが、俺達の目的は、というかカグヤの目的は食料一択である。未だに行き交う往来に慣れない俺を放って、魚を見に行き、振り返っては早くしろとばかりに手で招く。

 はしゃぎすぎである。

 市では白菜やキャベツ、人参といった野菜や油、塩に砂糖と贅沢にほいほい買っていき、合間にカグヤに強請られてキュウリの塩漬けを買い、最後に家で試してみたいことがあったので追加で買い物をし、町を後にした。


(ふふふふふふっ、この塩気がたまんないわ!)


 隣を歩くカグヤはハムスターのように頬を膨らませて、キュウリの塩漬けに齧りついている。

 そして、食べ終わったら速攻で俺におんぶをせがみ、幸せそうな顔で背中で寝るのだった。

 遠出した折、家族が眠る中、一人黙々と車を運転し、家へと帰るお父さんの辛さがわかったような気がした一日だった。


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