拉致
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一頻りグラント様が笑い場が和んだので、気になったお茶の事を聞いてみた。
「グラント様。睡眠薬紅茶の件をお聞きしたいのですが」
「あれは全貌が分かり後は罪人の自白と、背後関係の裏どり、逃げた者の確保が出来ればこの事件も解決します」
「はっ早いですね!てっきりもっと時間がかかると思って、ちょっとでも早く協力したくて帰って来たのに…優秀な方が多いんですね!」
「皆んな多恵様に手を出した者に怒り、いつも以上によく働いてくれました」
「サリナさんとライカさんは⁈」
グラント様は座り直し事件の全貌を話し出した。
「今回の事件は2つの思惑が同時進行していました。一つはサマンサが主体となり多恵様の誘拐。
二つ目は誘拐された多恵様を他国の者が自国へ拉致
多恵様の質問にお応えするならば、サリナ嬢はライカ嬢に名前を利用され無実で、ライカ嬢はサマンサに手を貸し睡眠薬紅茶を荷物に紛れ込ませ、多恵様の連れ去りに手を貸しています」
「えっ!何でライカさんが!」
「罪は認めているが動機は黙秘していてまだ不明です」
信じられず疑問をグラント様にぶつけた
「確かにライカさんが用意した茶葉が原因でした。しかしライカさんが入れ忘れたショールの袋に茶葉が入っていました。私が休憩中にショールを使わないと気付きもしない状況です。
それに騎士団の茶葉がたまたま無かったとか、すごい偶然です。無理があります」
「ライカ嬢は騎士に休憩場の場所を聞き、実際現地を見に行っています。そうして当日御者に多恵様は木陰を好まれると話し馬車の停泊場所を木陰に誘導したのです。木陰に居れば車内が冷えるのを見通し、そうすれば多恵様がショールを使うと思ったのでしょう」
「ショールの袋に茶葉を入れた意図は理解しましたが、騎士団の茶葉が無かったのは予測出来ないでしょう!」最後までライカさんを信じたい
「出発直前にライカ嬢はショールを多恵様に渡して直ぐに従者にサリナ嬢の茶葉を入れ忘れたと言い、茶器箱を触っていたのを目撃されています。その際に茶葉を抜いた。全て計算しショールに忍ばせた茶葉を使う様に仕向けたのです」
「多恵様のライカ嬢を信じたい気持ちは分かりますが、本人も認めているので事実です」
「…うそ」
「多恵様!」
グラント様は慌てて私の横に座り、抱き寄せてきます
「グラント様。離して下さい」
「その様に涙する貴女を放っておけない!」
「…あ…」
目元に手をやると濡れている。サリナさんほど打ち解けて無かったけど、こっちに来て約1ヶ月信用していたのだ…
「すみません。衝撃的で」
「貴女が落ち着くまで、抱き締める事をお許し下さい」
グラント様は何も言わず、私が落ち着くまで側に居てくれた。
「すみません。もう大丈夫です」
グラント様の胸元を軽く押し離す様に促す。
「もういいのですか⁈いつ迄でもお抱きしますよ」
そのとろける様な微笑みは目に毒です。
グラント様と少し距離をとり仕切り直す。
「お茶の件は分かりました。サマンサさんが誘拐する動機も何となくわかりますが、他国が拉致とか物騒な話ですね。全く想像出来ないのですが」
「他国とは女神の加護を受けていない近海の島国。チャイラ島といいます。チャイラ島は加護が無いので、アルディアに比べ技術も文化も遅れています。
国交は無くチャイラ島の政府からの依頼で一部の技術実習生を受け入れています。
チャイラ島は粗暴で利己主義な者が多い。輸出入で取引があるファーブス家のキース殿の話では、チャイラ島では小さな虫の大量発生により、虫を媒介した病が流行っているらしく、アルディアでは近日中に輸入と実習生の受け入れを中断する事になりそうです」
『小さい虫は蚊かなぁ…蚊が媒介するなら、デング熱やマラリアとか⁈どっちにせよ怖い病気が多い』
「多恵様?」
「その小さな虫が蚊なら厄介な病気を運ぶので、輸入時に検疫と消毒を徹底しないとこの国でも増えますよ」
目を見開き驚いたグラント様が
「その辺の知識もお持ちですか⁈」
「専門家では無いので、大まかにですが」
『本当は木板があるから調べる事がら出来るぞ!』
「直ぐ、イザーク様とキース殿に時間調整をし多恵様からお話をお聞きしたい。よろしいか⁈」
「あっはい」
グラント様はエレナさんを呼び紙とペンを用意させ、イザーク様とキース様に手紙をしたため、外の護衛騎士に運ばせた。
席に戻ったグラント様は話を再開する
「女神の乙女の召喚の前触れがあってから、急激にチャイラ島からの来国申請が増え、表向きは実習生ですが身元を調べると軍出身者が殆どでした。
恐らく多恵様の拉致を目論んでの潜伏でしょう。我が王国の暗部隊が監視を続けていました。
その輩共がオブルライト家のお茶会が決まってから活動が活発になり、オブルライト家の者に接触し、手を貸し多恵様誘拐を実行。後に秘密裏にチャイラ島に拉致を企てていた様です」
「こっこわ!」
身震いした私をまたグラント様が抱き寄せます。
「あの大丈夫です。隙を見つけて抱き付くのやめて下さい」
「私は好機は逃しません」
立ち席を移動する。グラント様は楽しそうに見つめてきます。
話を早く進めましょう。
「閉じ込められていた部屋は窓も無く、時間感覚が麻痺して分からなっかったのですが、乗り込まれたのが早かったですね」
「デューク殿とガイ殿が安全確認に出ていて紅茶を飲まなかったのが大きいです。彼らの初動が早くデューク殿が城へガイ殿がオブルライト別邸に報告した為、第2騎士団と公爵家騎士団がすぐ多恵様の捜索に出ることが出来ました」
「あっ!紅茶を飲んだ騎士の皆さんは大丈夫でしたか?」
「かなり強い睡眠薬で1刻ほど覚醒しませんでしたが、覚醒後はすぐに捜索に合流しています。体に影響が出ている者はいません。
…がしかし精神的に参っている者が多いのは否めません」
「えっ!精神に作用する薬だったのですか⁈」
「いえ、多恵様をお守り出来なかったのが大きいです」
「特にミリア嬢の落ち込み方は酷かった。お時間があれば面会していただけると助かります。アーサー殿下が使い物にならないと嘆いておられましたから」
「もちろんです。すぐにでも伺いしたいです」
「アーサー殿下に連絡し調整いたします」
取りあえず騎士の皆さんが無事でよかった。
誤字脱字があります。お気付きになられたら、ご指摘いただけると嬉しいです。
よろしくお願いします。




