ファイナリスト
長い馬車移動。自生している植物を観察し過ごし、意外にも移動を楽しむ多恵だった。
『あっあれ!』
王都を出発し馬車移動にも慣れてきたが、悪路の為に予定より遅れている。王都を離れていくほど道は整備されておらずガタガタ。大きな馬車は悪路に車輪を持っていかれ激しく揺れ、大きな揺れに何度か座席から落ちそうになり、前に座っているライアン様に受け止めてもらう事もあった。
そんな状況にハイド様が御者に指示を出し速度を落とし揺れの軽減を図るが、状況は良くならない。そんな日が数日続き体のあちこちが痛い。
そんな私を見ていたスコットさんが、(バスグルの)あまりの道の悪さに怒りを露わにする。でも私は整備された王都では見れなかったこの国の現状を見れて良かったと思っているし、スピードが落ちた事で外を眺める事ができ、新たに食べれる植物が自生している事に気付けたのだ。
先程見つけた菜の花がそうだ。思わずユキエさんに花の名前を聞くと”ナノ”だと教えてくれた。ユキエさん曰く華やかな花ではない為、摘むのは平民くらいで見向きもされていない。こんな感じで日本で食べていた野菜を沢山発見したし、リーバン子爵に貰った植物図鑑にも知っている野菜が沢山載っていた。
本当は直ぐにでも教えてあげたいが、リチャードさんが言った様にその話をするときっと後2か月は帰国が遅れだろう。
『帰国時にこの図鑑と資料(調理法)を渡して、後は自分たちでなんとかしてもらおう』
そう思いながら目に入る野草と野花そして図鑑を見て過ごした。だがこの時私をハイド様が注視していた事に気付いていなかった。こうして最後の宿泊地であるファルス男爵邸に到着した。馬車を降り伸びをして体の強張りを解消すると、ライアン様が来てこの後の予定を教えてくれる。
予定では明日お米の産地に到着する。ユキエさん曰くお米の生産を管理するバロッス辺境伯が出迎えてくれるそうだ。やっと着くと思うと気が抜けてぼーっとしていると
「多恵様にご負担をおかけして申し訳ないのですが、ここから先は更に道が悪い。速度を落とすとさらに時間がかかる。そこで相談なのですが…」
ハイド様が眉尻を下げある事を提案してきた。その提案とは馬車を今日宿泊予定のファルス男爵邸に留め置き移動を馬に代える事。馬なら悪路の影響も少なく予定通り現地に着く事が出来る。
しかし荷物を多く運ぶことが出来ないので長く滞在できないとの事。確かに馬車は王族専用の物で一般的な貴族の物より大きい上に装飾が施され重厚だ。故に馬車は重く悪路に車輪が食い込み更にスピードが出ない。それにここ数日で車輪を2回交換するくらいダメージは大きい。
確かに馬の方が身軽で速いだろう。私的にはモーブルで馬移動も経験済みだから問題が無いが、それを知らないアルディアとレッグロッドの騎士達は私の体の負担を危惧し反対した。
しかし最後は私が馬でいいと主張し折れてくれ、馬に乗りかえる事になった。だがまた直ぐに揉め事が勃発する。
それは誰の馬に乗るかだ。勿論ハイド様とライアンさんが名乗り出てくれたが、リリスの騎士が黙っている訳も無く中々決まらない。結果苛ついた私の提案で例のじゃんけんで決めてもらう事に。
初めて聞くじゃんけんにバスグルの皆さんが目を丸くし、既にじゃんけんを知っているアルディアの騎士3名が張り切って実演する。モーブルとレッグロッドそしてバスグルの騎士の皆さんは、剣無しで優劣決める事が出来るじゃんけんに感動している。そしていがみ合ってた騎士達が楽しそうにじゃんけん大会を始めた。その様子を微笑ましく見たいた私にユキエさんが
『ウチの一族でも”じゃんけん”は聖人様から伝えられ知っております』
そうユキエさんも”じゃんけん”を知っていたのだ。しかしバロッス家は王家を信用できない事から、正清さんから得た知識は秘匿したきたそうだ。
『じゃんけんくらい…』
と思う私の頭は平和なのだろうか…
そんな事を考えている間に、総当たりで勝ち上がった二人の騎士が最期のじゃんけんを始めようとしている。ファイナリストを確認するとバスグルの若い騎士とモーブル騎士のケイスさんだ。
「ここで勝たねば愛妻に顔向けできない」
「大丈夫ですか?俺…場違いな気が…」
温度差が大きい二人が最後のじゃんけんを始め…
「うぉ~!」
勝者となったケイスさんが両手を上げ雄叫びを上げる。負けたバスグルの若い騎士さんは安堵の表情をし何故かライアン様が舌打ちをした。こうして私の相乗りの相手が決まった。
じゃんけんバトルに戸惑いながら待っていてくれた、ファルス男爵にお礼とご挨拶し今晩お世話になる。諸事情を聞いた男爵が気遣ってくれ、貴族との顔合わせや晩餐は無くゆっくり休む事が出来た。
そして翌日。目的地に向け出発する。乗馬しやすい服装で相乗りしてくれるケイスさん元にくると、満面の笑みのケイスさんから乗馬中の注意事項を聞く。そして出発時間となりケイスさんに馬上に引き上げてもらい出発。
ハイド様が私の体を気遣いはじめはゆっくり走っていたが、大丈夫だと判断したハイド様がスピードを上げる。久しぶりの乗馬に早くも体だが痛い。きっと明日は確実に筋肉痛だ。そう思っていたら
「良かったです」
「?」
ケイスさんがそう呟き昨日のじゃんけんに並々ならぬ気合が入ったと話し出した。
「実はアイリスから多恵様に関する事は、何があっても他の騎士に負けるなと発破をかけられていました。だから約束を守れホッとしましたよ」
何処までも嫁LOVEなケイスさんの惚気話を聞き、その甘さに少し体が楽になった気がした。
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