信頼
ライアンが部屋に凸してきて…
部屋に戻ると直ぐにライアン様が部屋に来た様で、部屋の外でスコットさんと揉めている。
ここ数日スコットさんとライアン様の仲が頗る悪い。他の騎士さんもライアン様に思うところが有る様だが、揉める事なく上手く対応している。
これ以上衝突する事なく無事旅を終える事を祈りつつ、まだ揉める2人が気になり扉を開けると
「乙女様。サイレス伯爵に何か言われたり、依頼されたのではありませんか?」
『近い!近い!』
スコットさんの制止を躱しライアン様に詰め寄られ仰け反る。一応私の心配してくれているようだが、実のところ貴族の動きが気なっているのだろう。
心配するライアン様にはバスグルの動植物に興味があって、伯爵領の特有の動植物を紹介してもらっていたと話し、協力要請やお願い事などはされていないと主張する。するとライアン様はやっと安堵の表情を浮かべ
「父上は多恵様にお米なる穀物に集中していただきたいのです。ですから他の貴族からの相談事などは耳を傾けないでいただきたい」
どうやらハイド様は私にお米の視察に集中してもらいたい様で、他の貴族や商人との接触に神経質になっている様だ。確かにお米は今のバスグルでは最優先事項だろうが、今回話を聞いたリーバン子爵もサイレス伯爵もお米や食物に関する情報提供だった。彼らは私利私欲で私に近づいたのでは無い。
でもその情報は今はハイド様に伝えるべきでは無いと判断した。何故ならその情報を聞いた王家が、その情報を国策と称し独占する可能性を感じたからだ。
子爵も伯爵も国を思って私に教えてくれたが、今後お米がこの国の主食となった時に、それは領地を豊かにするものだからだ。正直私はハイド様やバスグル王家に未だ信頼は置いていない。
だから今回の視察はバスグルでの米作を学び、お米を増産し主食とし食糧難を脱せる様に、出来る範囲でお手伝いをするのが目的だ。
だからハイド様の思惑通りに動く気は無い。そう思いながら適当な理由を付けライアン様を躱す。ライアン様は思う所がある様だが、強く言う事も出来ないみたいで何とも言えない顔をして戻って行った。
やっと一人になり気が抜けると、リチャードさんが部屋に来て話があると言う。何の話か見当が付かず、何かしてしまったのかと焦ると
「リーバン子爵に頂いた植物図鑑で、多恵様の故郷で食されていた植物を見つけになった様だと聞きました」
「はい。蓮という花で根の部分が食べる事が出来るんです」
レンコンを見つけた事を話すとリチャードさんは今後、見つけた動植物は取りあえずバスグル側に教えないで欲しいと願った。理由を聞くと…
「あ…そうなりますね」
「はい。益々帰国が遠のいてしまいます」
そう言いリチャードさんと顔を合わせて苦笑いをする。彼が話した内緒にする理由はこうだ。
新たな食物を見つけると十中八九食べ方や育て方を聞かれる。そしてまた産地に来て欲しいとなり、リリスの箱庭に帰るのが益々伸びてしまうのが理由だ。
現時点私の我儘で帰国が伸びている。これ以上同行してくれている皆さんに迷惑をかけたく無い。
「はい。頑張って隠します」
そう答えるとリチャードさんは微笑み就寝の挨拶をし退室した。疲れ切った私は侍女さんを呼んで湯浴みをし早目に休む事にした。
そして翌日。朝早いのに伯爵家の皆さんが見送ってくれ出発する。少しずつ疲れが溜まってきている様で、出発して暫くすると特大の睡魔に襲われる。
でもハイド様とライアン様が一緒だから必死に寝ない様に色々試すが、睡魔に負けて眠ってしまった。
「うぅ…ん?」
目が覚めると間近にハイド様のご尊顔が!驚いて叫びそうになり、慌てて口元を自分の手で塞いだ。驚き周りを見渡すと、どうやら昼休憩する街に着いたようだ。私を馬車で寝かしておく訳にいかず、ハイド様が運んでくれたようだ。
すっかり目が覚めは私はハイド様にお礼を言い下ろしてもらう。そして大きな宿泊施設のレストランの個室で昼食をいただく。王都から離れた街での食事はとても質素だ。昼食はパンとサラダとシチューの様なスープが出され、量がとても多く食べきれず残してしまう。するとハイド様が
「多恵様は痩せすぎです。もっとしっかりお召し上がりになるべきだ。バスグルの女性はこの倍の量を食べますよ」
ハイド様はそう言いパン籠から私の皿にパンを追加した。正直まだ食べられるが、これ以上食べたら確実に血糖値スパイクを起こす。そうしたらまた寝てしまうじゃないか!
食べるべきか悩んでいたらライアン様がそのパン取り、ご自分のお皿に置いてウィンクした。軽くお辞儀をして礼をする。
こうして昼休憩を取りまた馬車に乗り出発する。寝ない様にお昼も少な目にしたのに、やはり寝てしまったのは言うまでもない。
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