しつこい人
豪商モルヘン氏に詰め寄られあたふたしていたら…
お米の流通を独占しているモルヘン氏は、騎士であるデュークさんの圧に負ける事なくお米の流通について熱く語る。困った私はハイド様とライアン様を探すが、他の貴族に囲まれていて2人は気付いていない。
「農作物が育たない貧しいこの国で、唯一安定して採れるあの穀物を家畜の飼料として輸出し、外貨を得れるようにしたのは我が商会なんです」
そう言いモルヘン氏は自分の商会が今後優先されるべきだと語義を強める。私はあの飼料がお米だと分かった時点で色々調べモルハン商会の事は知っていた。
お米が家畜の餌になると分かった当時は、バスグル国王が若くして急死し、成人したての若い王に代わったばかりで王政は混乱していた。そんな中で王家は主食にならない作物にまで気を回す事はできなかった。
そんな時代少しでも外貨得るために動いたモルヘン商会の功績は認めるが、主食になると分かった今は先ず国内の供給を優先しなければならない。それにこんな重要な事案に外部の私が口を出す訳にいかない。
お米が存在する事を知り、いずれリリスの箱庭でも食べれたらと思ってはいる。だがまずはバスグル国内に行きたわり国内が安定した後に、リリスの箱庭にも輸入できれば嬉しいなくらいにしか考えてない。
モルヘン氏は商人だけありしつこい…もとい粘り強く絡んで来て、護衛してくれる騎士さん達が殺気だした。このままだと揉めそうで嫌な汗が出てきたら
「ベンジャミン・モルヘン。下がりなさい!乙女様がお困りだ。ここは商談の場では無い。事前に話してあったはずだ。乙女様に礼を欠いた貴殿は退室なさい」
背後からの声に慌てて振り返ると、冷たい視線をモルヘン氏に向けるランタナ侯爵様が立っていた。後で聞いた話だが、お米が今後主食になりうる事を知った貴族が、今日宿泊予定のランタナ侯爵家にアポなく押しかけて来たのだ。貴族の来襲にランタナ侯爵様は私の負担にならない様に、集まった貴族に事前にお米の話題は禁止してあったそうだ。
それを破ったモルヘン氏を退室させた侯爵様は、胸に手を当て謝罪され部屋に戻る事を勧めてくれた。
「あの者は経営者としての才があり、この国が得る外貨の多くに関わっております。そして平民でありながら発言力があり、その上怖いもの知らずで陛下にも物申す程です」
そう言い苦い顔をした。そして侯爵様は次の宿泊予定のリーバン子爵邸で同じ事にならない様に、朝一で伝書鳥をリーバン子爵様に飛ばすと話した。
モルヘン氏はかなり強引な人らしく、私がここに来る前にアルディア王の反感を買い、アルディアとの取引が禁止されているそうだ。そんな人が今日の注意喚起くらいで大人しくなるのだろうか?
不安に思いつつハイド様に一声かけて部屋に戻る。部屋に着くと湯浴みの準備がされていて、湯浴み後は侍女さん達のマッサージのおかげで7割ほど心身ともに回復した。
湯あみ後はユキエさんが入れてくれたハーブティーで癒されていると、部屋の外で警備中のスコットさんがライアン様が部屋に来ていると言い面会を受けるか確認をする。
少し回復し心に余裕の出た私は、ユキエさんが用意してくれた厚手のガウンを着てライアン様をお迎えする。晩餐会会場から直接来た様で疲れが見てとれるライアン様。どうやらランタナ侯爵様からモルヘン氏との事を聞き、心配で顔を見に来てくれた様だ。ライアン様はソファーに座る私の前で跪いて手を取り眉を顰めて…
「貴女には忠誠心の強い騎士殿が付いていると過信した私の落ち度です。視察中にこのような事が起きない様に、明日からは私が貴女の専属騎士となり常にお傍でお守りいたします」
明らかに護衛騎士さん達をディスったライアン様にスコットさんが眉を顰める。その視線にライアン様は気にも止めず微笑みを私に向ける。
「えっと…お気持ちは嬉しいのですが、ライアン様はハイド様の護衛と補佐がお有りでしょう。申し訳ないので…」
そう言いやんわり断るが、空気を読む習慣がないこの世界で私の気持ちが通じる訳がなく断れない。半泣きでスコットさんを見ると
「ライアン様申し訳ございません。多恵様はお疲れですのでこの辺で…」
そう言い早足で扉まで行き無表情で扉を開けて退室を促した。一瞬ライアン様が険しい顔をし緊張が走ったが、ライアン様は私の手に口付けを落として帰っていった。
ライアン様が帰りソファーに沈む私。馬車が一緒で気を使うのに始終一緒だと気が休まらない。またダメージを受けた私にスコットさんが
「この件に関しては私共で対処いたしますのでご安心ください」
そう言い凄い勢いで退室した。結果から言えば翌日から事あるごとに、うちの騎士達とライアン様の小競り合いが勃発し更に頭を悩ますことになった。
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