繋いだ思い
苦痛の長時間移動に疲労困憊の多恵。やっと宿泊する貴族屋敷に着き…
苦痛な車内にずっと意識は遠い旅に出ていた私。時折ライアン様に名前を呼ばれ現実に戻るのを繰り返し、やっと今日宿泊する侯爵家に着いた。ハイド様の手を取り馬車から下りるとふらつく。すると直ぐにハイド様が膝を折り抱き上げようとしたが、咄嗟に手を振り大丈夫だとアピールし歩き出す。
目の前には今日と帰路でお世話になるランタナ侯爵家の皆さんが出迎えてくれる。ランタナ侯爵様がハイド様に小難しい言葉でご挨拶している間に子供の様に辺りを見渡していた。高位貴族だけあり屋敷も立派で使用人も多い。観察していたらハイド様の挨拶が終わり、ハイド様が侯爵様に私を紹介してくれご挨拶する。そして挨拶を済ますとランタナ侯爵様は驚く事を話しだした。
「今回の視察地域は遥か昔にバロッス辺境伯家が整備した水田がある地域です。聖人様亡き後に聖人様の言葉を受けた者が意思を継いだと聞いております」
「えっ!そうなんですか」
思わぬ情報に声のボリュームを間違え皆さん驚かせてしまう。もっと詳しく聞きたいと思ったが、日が傾き薄暗くなってきたので部屋に案内された。部屋に入ると侯爵家の侍女さんが世話をしてくれるが、ユキエさんが後を引き継ぎ侍女さん達は退室した。ユキエさんにずっと聞きたかった事が沢山ある。何から聞くか考え込んでいたら、ユキエさんは笑いながら
「まずは私の先祖の話をさせていただきます」
そう言い正清さんとの関係を話し出した。ユキエさんのご先祖は正清さんが妻にと望んだ子爵令嬢で、マッケン王が正清さんから遠ざける為に辺境伯に嫁がせた子爵令嬢のマリエッタさんだ。
「私はマリエッタの末娘のアイコの子孫になります。マリエッタは3人の娘を産み正清様の話をし意思を継ぐ様に言い残しました」
そうマリエッタさんは嫁いでも正清さんを愛していて、正清さんの意思を継ぎ自分がバスグルを救う役目を担った。しかし正清さんから資料などは受け取れず、話に聞いた情報のみだったそうだ。バスグルに来て1月以上経って初めて得た正清さんの情報に興奮する。そんな私をやさしい眼差しで見ていたユキエさんは
「祖母からいつの日か聖人が召喚され、その時が来たら聖人様の意思をお伝えすれば、この国は救われると幼いころから聞かされて来ました。やっと私の代でその役目が果たせますわ」
ユキエさんはそう言い涙ぐんだ。きっと王様絶対主義貴族の中で圧力を受けて来たのだろう。彼女の涙にこれまでの苦労が見て取れた。そしてもっと話しを聞きたいと思ったら侯爵家の侍女さんが食事の準備が出来たと呼びに来た。ユキエさんからもっと話を聞きたい私は、食事どころでは無く正直行きたくないが、パスする訳にもいかず重い足取りで廊下を歩く。そして会場の前でライアン様と会いライアン様に手を引かれ入室する。
「あ…」
案内された部屋はとても大きなホールで沢山のテーブルと椅子が並び、沢山の人が座っていた。食事会規模では無く晩餐会規模だ。そして沢山の視線を受け怯むと後ろから支えてくれたアッシュさんが苦笑いをして
『恐らく何処に行っても同じだと思います』
『失念していました。こうなるの…』
そう呟くと護衛の皆さん苦笑いをする。ここまで来て回れ右する訳にいかず、案内されたお誕生日席に座る。そして無難にやり過ごそうとして出来るか分からないが気配を消してみる。そんな私を見て後ろに控えるリチャードさんが笑っていた。
本当に目立つ事はしたくないのだ。話しかけられたら応えるが極力話をせず黙々と食事に集中していたら、ランタナ侯爵様が心配そうに
「食事はお口に合いませんか?」
「いえ。とても美味しいです。お気遣いありがとうございます。すみません。私人の多い場所が苦手で、人見知り発動しちゃうんです。少しすると慣れるのでお気になさらず」
そう答えると安心した様子の侯爵様。すると隣に座るハイド様が侯爵様に話を振り話題を変えてくれた。ハイド様の気遣いに心の中で感謝する。そしてやっと食事が終わり隣のホールに移ると挨拶待ちの列ができて沢山の人から挨拶を受ける事に。そろそろ作り笑顔に限界がきたら、豪商モルヘン商会の会頭が鼻息荒く
「この度の視察は辺境地の穀物の視察だとお聞きしました。あの穀物は我が商会がユグラスと国外に輸出しております。是非視察後に一度お話させていただきたい」
そう言い前のめりに時間が欲しいと懇願した。凄い圧に完全に逃げ腰になっていたら、後ろに控えていたデュークさんが私の前に立ち視線を遮ってくれた。そしてドスの効いた声で
「多恵様は穀物の視察をなさいますが商売をされるわけでは無い。商談を持ち掛ける相手をお間違えではないか」
デュークさんの大きな背中に護られながら、心の中で『流石!兄貴』と拍手喝采した私だった。
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