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深い愛

視察に行く事が決まったが、帰国が延期になり罪悪感を感じた多恵は…

「ごめんね」

「?」


退室しようとしたケイスさんに謝ると、目の前に来て跪いて優しい眼差しを向けてくれる。新婚さんなのに式を挙げる間なくバスグルに来て愛しい人に会いたいだろう。いくら陛下の命とは言え帰りたいに決まっている。そう思うと無意識に謝罪の言葉が出た。


「多恵様はまだ彼女アイリスの事を分かっていませんね。今ここで彼女を優先すれば私は帰国後に即離縁になりますよ」

「りっ離縁⁈」


物騒な事を言うケイスさんを見ると笑いながら


「彼女は誰よりも多恵様を優先し、常に役に立ちたいと思っているのです。今回同行する事になった私に嫉妬するほどにね。ですから今回の新たな任務に私が同行する事を喜んでいる筈。彼女は貴女の次ぐらいに私を信頼してくれていますからね」

「ケイスさん2番目でいいんですか?」


思わず質問すると


「私は真摯に任務に向き合い、貴女を敬愛するアイリスに惚れたのです。私を優先する彼女は私が愛したアイリスではない」


ケイスさんの深い愛に感動していると、ケイスさんはお米の炊き方や研ぎ方をマスターしたいと言い、個人レッスンを申し込んできた。ケイスさんは私発信の情報や技術はアイリスさんが欲しがると言い、夫として先に習得しアイリスに伝えたいと言い妻への愛を語った。

ちょっと変わり者のアイリスさんを深く理解し、全てを受け止めるケイスさんの懐の深さに感心していたら、ケイスさんが少しはにかみながら


「実は多恵様があの穀物を調理された後に、親しくなったバスグルの騎士にお願いしあの土鍋を入手したのです。調理法を習い帰国したら一番に彼女にふるまってあげたいのです」

「ケイスさんは本当にアイリスさんが好きなんだね」


そう言うと大きな体を丸め真っ赤な顔をし照れるケイスさん。そのラブラブぶりを見てまた心が温かくなったのは言うまでもない。


この後アルディとレッグロッド側からもお米の産地視察の同意を得て正式に視察が決まった。後で聞いたがお米の輸入はアルディアもレッグロッドも早々に国王に報告が上がっていて、両陛下から輸入に向けて準備するように命を出ていたようだ。

リリスの3国が米の輸入を始めるなら、お米は日常食べれるようになるだろう。今でもこの世界の食事は口に合い不満は無いが、更に食生活が豊かになると思うと口元が綻んだ。


『でも調子こいて食べ過ぎたら、直ぐに元のゆるキャラ体型になってしまうから節制しないとな…』


そう想い気を引き締める。しかし実際は沢山の夫の愛を受け太る暇がない未来が待っているなんてこの時はまだ知らない。


「皆さん。ありがとうございます。よろしくお願いいたします」


翌日、今回バスグルに同行してくれたリリスの3国の皆さんが集まり、お米の視察の打合せが行われた。騎士の皆さんは全員同行し、文官さんは代表のクレイさんともう一人が同行。残りの文官さんは2日後に到着予定のモーブルの船で先に帰国するそうだ。


遅れてきたクレイさんが席に着くと駆け寄り、帰りを楽しみにしていたクレイさんに謝罪すると、自分の軽口で気を使わし申し訳ないと反対に謝られた。本当にリリスの箱庭にはいい人しかいないと改めて思っていたら、クレイさんがそっと近づいて小声で


「息子がパンが苦手で食が細く小柄で悩んでおりました。しかし多恵様が見いだされたお米が口に合えば、しっかり食べるようになり体も強くなるやもしれません。それを期待しているので、今回の視察は私にとっても有意義なのですよ」


そう言い帰国が延期になった事を気にしない様に言ってくれた。もしかしたらクレイさんの息子さんは小麦アレルギーなのかもしれない。そうならお米が輸入されれば、息子さんの食生活も豊かになる事だろう。私の興味から始まった事だが、リリスの箱庭の皆さんの役に立ちそうで少し気持ちが浮上した。


そして打ち合わせが終わると皆さん直ぐに視察の準備に入り、何もやる事の無い私は部屋で過す事になり、沢山の本とお菓子が持ち込まれ過ごす事に。流石に半日も部屋に籠っていると飽きて来て、リチャードさんの許可を得て散歩に出かける。侍女さんに教えてもらった使用人の宿舎側の花壇が見ごろらしく、そちらに向かっているとビルス殿下と出くわす。散歩中だと言うと何故かご一緒する事になった。

話し上手な殿下との会話は楽しく、いい気晴らしが出来たと思っていたら


「うわぁ!」


夕刻の水やりの後で地面がぬかるんでいて足を取られ体が傾くと殿下が抱き留めてくれた。どこの国の王子も騎士道を学ぶらしく、ひ弱な王子はおらず皆さん逞しい大胸筋と上腕二頭筋をお持ちだ。

直ぐにお礼を言い身を離し距離を取った時


「!」


頭上から大量の草が振って来て草まみれになった。そして風が吹き突然目の前に妖精女王のエルが現れ、目を吊り上げ私を指さし


「リリスの男共だけでは物足りず、アリアの男にも手を出すつもりか!」

「はぁ?」


どうやら転びかけた私を抱き留めてた殿下を見て、エルは抱き合っていると勘違いした様だ。護衛に就いてくれているレッグロッドとバスグルの騎士さんも、妖精女王エル登場に戸惑っている。

唯一エルに物申せるビルス殿下はエルに見とれ使いものにならない。偶々近くにいた女官さんが駆け寄り草を払うのを手伝ってくれた。早くこの場を離れたいが、この場を治めてくれないと着替えにも行けず、困っているとスコットさんがビルス殿下の元へ行き耳打ちをする。再起動した殿下は私に視線を向け慌てて


「多恵様。申し訳ございません。直ぐにお着替えを。エルの誤解は私が解くので」


ポンコツの殿下がイマイチ信用できない私はエルに


「何を勘違いしているのかは分かりませんが、転びそうになった私を殿下が抱き留めてくれただけです。私が誘惑した訳じゃない。それに私の様な貧相な女がバスグルの男性に好まれる訳ないでしょ!」


そう言い反論するがエルは怪訝な顔をし私を睨みつけ何も言わない。その態度に再度怒りが込上げ文句を言おうとしたら、スコットさんに抱き上げられその場を離れる事になった。遠ざかる殿下とエルは言い争っているように見えた。


『ビルス殿下!ちゃんと誤解解いてよね』


と心の中で叫んだ。

お読みいただき、ありがとうございます。

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