ぞっこん!
面会を断ったはずのビルス殿下が…
ノックに返事するより早く扉が開き、制止するスコットさんを振り払いビルス殿下が部屋に入って来た。くつろぎモードの私はだらしない格好でソファーに寝そべっていて、突然の事に小さな悲鳴と上げると外にいた騎士さんが一斉に部屋になだれ込んできた。
訳が分からず固まると隣の控室にいるリチャードさんが飛び出してきて大きな溜息を吐いた。
「ビルス殿下。多恵様がお断りになったにも関わらず、強引に入室するなど王族であろうと許される事ではありませんぞ」
リチャードさんの言葉にリリス側の人達は大きく頷き、ビルス殿下と家臣達に鋭い視線を向ける。騒然とする中で先程面会を断った侍女さんは涙目で…いや半泣きで部屋の隅で震えている。その顔を見てやっと冷静になった私はリチャードさんの元に行き状況説明をした。リチャードさんは(面会を)断るべきだと言い静かに怒っている。だけと殿下がこんな強引な事するのには理由があるはず。
「ビルス殿下の面会をお受けします。あのですね侍女さんは朝から妖精王と妖精女王の訪問に疲れた私を気遣った事なので、侍女さんに叱責しない様にお願いします」
そう言い皆さんにお礼を言い一旦下がってもらう事にした。こうして急遽面会する事になったビルス殿下と向き合う。着席すると大きく深呼吸した殿下が眉尻を下げて
「誤解が無いように一言伝えたくて参りました。貴女の都合を考えず申し訳ございません」
そう言いまず強引な面会に謝罪をされた。そして何を言い出すのかと思えば妖精女王を事を話しだした。どうやら王の側近からロイドとグリード殿下の面会中にエルが凸し、失礼な振舞いをした事を聞きつけその謝罪に来たようだ。別に私はエルに何をされた訳でもなく、謝罪の必要は無いと告げると殿下は・・・
「あの方は誤解を受けやすく、それを受けても弁解もされず孤立する事が多いのです。あの方は愛を知らずずっと一人で過されてきた。私も似た境遇なので気持ちがよく分かるので…」
そう言い視線を落とし黙り込んでしまった。後にビビアン王女から聞いたがビルス殿下が言われて通り、妖精女王は先王とその番から愛を受ける事無く寂しい幼少期を過ごしたそうだ。それを聞き今朝のロイドとの会話に納得がいった。
「私は気にしていませんし、酷い事を言われとは思っていません。それより…エルの事をよくご存じなのですね。親交があるのですか?」
「!」
何気ない質問だったのに殿下の狼狽えように、悪戯心が芽生え思わず
「殿下の想い人だったりし…て?」
揶揄うつもりでそう言うと、真っ赤な顔をして殿下が壊れてしまった。挙動不審で誤魔化そうと必死に
「あのお方は自由奔放で行動や言動が予想できずいつも驚かされ、お会いするたびに新しい世界を見せていただき…」
『ビルス殿下エルにぞっこんですやん』
そう思いながら微笑ましく見ていたらビルス殿下は
「先代の妖精王と番様はいわば政略結婚。愛のない両親の間にお生まれになったあのお方は愛を知らない。そして父と母の温もりも与えられず、傍に居たのは妖精達でお世話も全て妖精が行ったと聞き及んでいます」
エルが妖精に近いのは人である実母に育てられず妖精達が世話をしたからなんだ。フィラも人の感覚と違う事が多いと感じるが、まだ理解している方なのだろう。フィラは母である先代の妖精女王が愛し育て愛を知っている。そう考えるとエルが不憫でならない。そんな事を思っていたらふと娘を思い出し思わず涙が出た。急に泣き出した私に慌てたビルス殿下は駆け寄り抱きしめてくれる。
忙しくて自分の子を忘れるなんて母親失格だと自分を責めていたら、殿下が背を撫でながら
「貴女は本当に優しく慈愛にみちている。全く関係ない娘の話を聞き涙するほど母性が強いのですね」
『いや…実際に子供がいるから当たり前の事なんだけど、そんな事殿下に言える訳も無いし…』
娘が今の私を見たら過保護で心配性だと笑うだろ。しっかり者で大人びているけど、寂しがり屋な面もある娘。大輔が寄り添ってくれているとは言え、母親がいない事で不便はないか心配になる。
暫く殿下の腕の中を借り娘への想いを募らせ一頻泣いた。
泣いて落ち着いた私を見て殿下は、許可も無く抱きしめた事を謝罪される。ナンパそうに見えて根は真面目なのが分かる。やっと話せるようになった私は、慰めてくれた事にお礼を言うと微笑んだ殿下が
「レディを慰めるのも紳士の務めなので、お気になされず。それより…」
「?」
「私はそんなに分かりやすいでしょうか?」
「エルに想いを寄せている事ですか?」
何も考えずにそう答えると真っ赤な顔をした殿下は俯いた。その様子があまりにも好色イメージの殿下と真逆で可愛らしく見える。狼狽えた殿下は必死で弁解するが墓穴を掘る一方で、言葉全てがエルへの愛の言葉になっていた。その様子を見て思わず笑ってしまう。すると少しムッとした殿下が
「何がそんなに楽しいのですか」
「気分を害したのなら謝ります。でも今の殿下はとても自然で、きっとこれが素の殿下なんですね」
そう言うと戸惑った顔をした殿下が停止した。沈黙に慌てた私は
「殿下が廃嫡し平民を望むのはエルの側にいる為ですか?」
そう聞くと少し考えて頷き想いを語りだした。殿下はあと数年後に向かえるエルの交代期(婚姻)にエルの側に居たいと言い、エルが拒まないなら番になりたいと話した。殿下が幼いころからエルとは交流があり、ずっと想いは告げてきているそうだ。しかし親からの愛を受けた事のないエルは番を持つ事に価値を見出せず、義務で番を迎え次の妖精王を産むのもだと考えている。そして責務を果たした後は子に妖精王を継がせ、早期に引退し妖精の森の土になる事を望んでいるという。
「命ある者は子孫を残すのが道理だが、やはり愛は必然だと私は考えます。私は複雑な立場に生まれましたが、母や傍に居る者が愛してくれた。この世に生を受けた者は愛されるべきだと思うのです。だからあの方にも愛される喜びを知って欲しい…」
真っ直ぐな眼差しでそう語るビルス殿下。エルへの思いが本物なのだと知り感動した反面、特急で寂しさが押し寄せホームシックになってしまったのだった。
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