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米を炊く事が陛下の耳に入り、陛下に凸され慌てる多恵だが…

「はぁ…事情は分かりました。ですが陛下の訪問を断る事はできません」


眉間の皺を深くしたデュークさんがそう言うと、部屋付きの侍女さんが慌てて私を寝室へ連れて行き着替えとヘアメイクを施す。着替えが終わった頃に陛下がお見えになりご挨拶をする。

謁見の間でお会いした時よりラフな装いに少し緊張が緩み、ソファーに掛けて用向きを伺う。


「貴女があの穀物を調理されるのを待っていたのです。いやー嬉しくて興奮しております」

「えっと…そんな期待される物でもないのですが」

「否。あれが食する事が出来ればこの国は大きく変わる。さすればハイドが勧める政策を見直す事が出来る」


どうやら陛下はハイド様が進める政策に反対らしい。眉尻を下げ愚痴る陛下に相槌を打ちつつ、また厄介ごとに巻き込まれ遠い目をしてしまう。そして同席していたデュークさんと目が合うと、視線で説教された気がした。そして一頻愚痴った陛下は少し冷めたお茶を一気飲みし


「調理する場所は用意できている。今からでもよろしいか?」

「あっはい」


こうして陛下が持って来た新妻仕様の淡いピンクのフリフリエプロンを身に纏い、陛下にエスコートされ調理場に移動する事になる。廊下を歩いていると使用人や貴族が慌てて廊下の隅に行き、深々と頭を下げて私達の通過待ちをしている。気分は大名行列だ。


「うぁ!広い~高い~」


バスグルの調理場はとても広くて驚く。リリスの3国の王城の調理場を見た事があるが、ここまで大きくなかった。大きさに驚き口を開けて天井を見上げていたら


「女神の乙女様にご挨拶申し上げます」


声をかけられ視線を戻すとコック服のイケおじが胸に手を当てて微笑んでいる。どうやら彼が料理長のようだ。ご挨拶をすると料理長が調理場の見学を許可してくれた。


『なるほどね…』


広いと感じた調理場の半分が食材置場だった。自国で食物が育たないバスグルは他国からの輸入に頼っている。後で侍女さんに聞いたが貴族でも平民でも備蓄をする為に調理場が広く作られているそうだ。

調理場の次にその食材置場も見せてもらう。


「!」


()()()()を見つけ反射的に身が竦む。すると同行していたデュークさんが傍に来て…


「これは…」

「デュークさんも知っているんですか?」

「はい。モーブルからの()()()()()()ましたが、実物は初めてです」


そう食材置場で見つけた物はいわくつきの”スイマン”だった。なんで危険な食材があるのか料理長に聞くと、料理長は笑いながら


「確かにスイマンの葉に毒があり有害です。しかし下処理の仕方で食べれるのですよ」


そう言い料理長はスイマンの毒を抜く方法を教えてくれた。バスグルは食べれる食材が少なく、先人が身を挺し調理法を見つけ色んな食材を食べて来たそうだ。ここでは他では有害のスイマンも常備野菜として食べられている。

確かに日本でも毒がある食物でも調理法や下処理をする事で食べることができる。バスグル人の知恵に関心をしていると、料理長が他の料理人を呼び大きな瓶と小皿、そしてスプーンを持って来させた。そして瓶から茶色のクリームを小皿に移し食べてみせた。そして別の小皿に入れた()()を私に渡し味見を勧める。恐る恐る一口食べると…


「少しくせがありますが濃厚で旨味があり、お肉料理に合いそうですね」

「はい。スイマンの葉を塩漬けにする事で毒素が水分と一緒に排出され、香りと風味が残り旨味調味料になるのです」


調理法に感心していると料理長が、今晩の夕食にこのソースを使った料理を作ると言ってくれ、お腹が反応し小さく鳴く。初めての食材の出会いに、どんどん楽しくなってきた。食材を見て回っていたら調理場奥の棚に麻袋が沢山置いてあるのが目に入る。気になり近づくと…


「これは()()穀物です。陛下が乙女様が調理して下さると仰り、買い付ける様に指示を受け買い付けたのです」

「え!」


どうやら私が入城した日に陛下が料理長にお米の仕入れを指示していたのだ。陛下の期待は半端ない様だ。そう話す料理長も興奮気味だし。皆さんの期待の大きさに尻込みしてしまう。


「私も国の為に食糧不足を変えたく、安定し収穫できるこの穀物を何度も調理しましたが、匂いが独特な上に粘り気があり食べれなかった。ですから乙女様の調理法がどのようなものかとても興味があり楽しみにしていたのです」


興奮気味な料理長の圧が強くて一歩下がってしまうと、陛下が満面の笑みで調理に足りないものは無いか聞いてくる。これは早く作ってくれって事ね。プレッシャーに大きな溜息を吐くとデュークさんが


「気負わなくていいのですよ」


と声をかけてくれた。期待に沿えるか分からないが、主婦歴20年の腕のみを見せようじゃないか!


こうして用意してもらった器具とお米を前に緊張しながら、米を研ぐところから始めた。作業台の向かいに陛下が椅子に座り真剣な眼差しで私の手元を見ていて、隣には料理長が質問をしながらメモをとっている。始めは久しぶりの調理に手が震えたが、調理を始めたら体が覚えていてあっという間に研ぎ終わる。そして米を計量したカップで同量の水を土鍋にいれ


「暫く水に穀物を浸し吸水させます」

「そんな事をしたら水っぽくなりますよ」


気が付くと他の料理人も見学していて、米を水に浸けると言うと驚き質問された。親から教えられ(水に浸ける事を)疑問にも思ってなかったら、その質問に上手く答えられずにいると、料理長が出来るまで質問する事を禁じてくれ作業に戻る事が出来た。

お米の吸水タイム中は調理台に椅子が用意され、お茶をとお菓子をいただく。

そしてお米を炊き始めるにあたり慣れない火の扱いを教わった。緊張しながらコンロに土鍋を置き心の中で


『はじめちょろちょろ なかぱっぱ あかごがないても ふたとるな』


と米炊きの定番の歌を頭の中で歌う。昔土鍋で米を炊いたことがある。教えてくれた友人のアドバイスを思い出しながら、火加減に注意しているとご飯のいい匂いがして来た。

匂いからこの穀物がお米である事を確信し、頭の中でどう食べようか想像している内に炊き上げる。


「炊けました!…でもこのまま暫く蒸らすのでもう暫く待って下さいね」


ミトンと大きなスプーンを用意し味見する気満々の料理長は肩を落とし、陛下は何故すぐ食べれないのか質問してくる。調理場にご飯のいい匂いが充満し、この場にいるみんながご飯待ちしているのが滑稽で少し笑ってしまった。

お読みいただき、ありがとうございます。

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