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製紙

ハイドは何を語るのだろう…

「「…」」


直ぐ続く廊下は私達の靴音しかせず静かだ。この世界に来てエスコートをしてもらうのが当たり前になった。初めての男性(ひと)でもエスコート中は他愛もない会話をするものだと思っていたが、エスコートしてくれるハイド様は眉間に皺を寄せ会話できる雰囲気ではない。


『それに男性はみんな手が温かいと思っていた』


手を引いてくれているハイド様の手はとても冷たく、どんどん気分テンションが下がっていくのを感じ、やっぱり面会は断った方が良かったのかもと思っていたら


「私も親ですから()の幸せを願っています」

「はぁ…」


そう言ったハイド様は私を見て寂しそうに微笑み


「私は貴女が思うほど悪人ではありません。っと先に自己申告しておきます」

「あっ悪人だなんて思っていませんよ。ただ…」


そう言うと小さく笑い


「私の執務室で話をお聞きいただければ、貴女なら分かっていただけるかと」


そう言い私の手を握った。驚いて身が強張ると警戒MAXのデュークさんが隣に並び何か言おうとした。私は直ぐに手で制し口パクで”大丈夫よ”と伝えると、デュークさんは礼をして下がる。

そして気まずいまま歩きやっと騎士が立っている部屋が見えて来た。恐らくあそこがハイド様の執務室なのだろう。気まずいエスコートが終わる事に安堵すると、私の顔を見てハイド様が微笑んだ。

その表情はとても柔らかく甘々なイケおじ。その美しい御尊顔に警戒心が解けてしまうちょろい私である。


執務室着くと先触れが出ていた様で、直ぐに従僕がお茶を用意し退室した。護衛責任者のデュークさんが何度も誰か1人騎士の同席を願ったが、ハイド様は許可せず執務室でハイド様と対面する事になった。


「お時間いただきありがとうございます」


ハイド様は感謝を述べ茶菓子を勧めてくれたが食べる気にならずお茶だけいただく。緊張してキョロキョロしていたら…


『あ…図書館みたい』


そう執務室の四方壁一面が本棚で天井まで本あり、一番上の本を取る為に本棚に梯子も付いている。よく見るとバスグルだけでは無く他の箱庭の本も沢山ある。私の視線に気づいたハイド様は


「我が国は貧しい。私はこの国を豊かにし国民を幸せにしたいのです。糸口を見つける為に世界各国の様々な本を取寄せ読み漁りました」


他の国の王族や貴族の執務室に入った事があるが、こんなに沢山の本があるのは初めてだ。ハイド様が心からバスグルの繁栄を願われているのがよく分かる。所蔵している本が気になり見せてもらう事にした。


「!」

「気になる本はお部屋にお持ちになって結構ですよ」

「いえ、そうでは無くてこの本だけ痛み具合が違うので…」


多くの本の中である本が目にとまる。古くは無いが痛みが激しい事から何度も読んだことが分かる。気になり本を開くと…


「製紙に関する本ですね…」


そう本の内容は製紙について書かれた本だった。私が興味を示すと


「流石ですね。丁度お話ししようと思っていた事柄の本をお選びになるとは」


そう言いハイド様は私の手を取りソファーに誘導した。私は本をローテーブルに置いてハイド様に耳を向ける。するとハイド様はソファーに深く座り、キースのお母様との事を話し出した。


「私が(当時)横恋慕しているのはよく分かっていました。しかしバスグルには必要な技術だったのです。しかしクライズ伯爵家との繋がりはなく、婚姻による縁が最良と考え求婚したのです」


そうキースのお母様のご実家の伯爵家が治める領地では、広大な森林があり製紙を主な産業としていた。バスグルにも製紙産業はあるが品質はクライズ領の物に劣るらしい。国内で消費するには問題無いが、質が悪く国外に出せず文学、研究にも影響し他国に遅れを取っている様だ。


「私は何をおいても国の発展を優先させる。故に今回バスグル伝統の織物が国の主産業となり得る可能性が出てきたのなら、政略的な婚姻を結んででも我が国を豊かにせねばならない」

「政略結婚だけだ術では無いでしょう⁈」


話せば話すほどハイド様の人柄が見えてくる。ハイド様は国益を優先にお考えだが、それでは国民に我慢を強いる事になり、聖人(正清さん)が望んだ国から遠のいてしまうだろう。もどかしさを感じながらハイド様の話を聞いていた。

話しを聞いて思った事がある。それは聖人の供養を優先する保守的な国王と豊かさを優先するハイド様。どちらにしても本当の豊かさには繋がらない気がした。


『国を治めるのって本当に難しいなぁ…』


ぼんやりとそんな事を考えていた。するとハイド様は声のトーンを抑え


「貴女は女神リリスの乙女。我がバスグルにはモーブルの為に訪問されている事は分かっています。しかし…もし…お知恵をお持ちならお貸しいただきたい」


ハイド様は立上り私の前に跪いて胸に手を当ててそう願った。私も縁あって知り合いになったバスグルの人々の役に立てるなら何かしたい。でも何か出来ることがあるのだろうか…

腕組みをして考え込むと、目の前にいるハイド様は


「ビルス殿下が仰っていた通り慈悲深く真面目で愛らしい。貴女を見ていると心が和みます」

「あの…愛玩動物扱いしないでもらえます⁈」


場を和ませるために少しお道化てそう言うと、ハイド様は微笑み小さく笑った。ここに来る前にハイド様が言った通り、ハイド様は悪い人ではなく真っ直ぐでただ不器用なだけ。

私はバスクルとアルディア間の貿易でいい案が無いか少し考えてみると告げると、ハイド様からお礼を言われる。

こうしてハイド様との面会を終え部屋に戻る事に。今日はよく働きお腹が大合唱していると、ハイド様が外に控える騎士を呼び入れた。やっと帰れると安堵し退室の挨拶をすると不意打ちにハグをされる。びっくりして固まると殺気立ったデュークさんが詰め寄り険悪な雰囲気になってしまった。いい感じで終われる思ったのになぁ…

お読みいただき、ありがとうございます。

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