婚姻の約束
突然現れたミリアーナ嬢に困惑していると…
「多恵様。このフルーツはバスグルにしかない果物なのです。是非召し上がって下さいまし」
唖然とする私に笑顔でフルーツケーキを勧めるミリアーナ嬢。やっとキースが再起動しミリアーナ嬢に説明を求めている。お腹が満たされたミリアーナ嬢は優雅にお茶を飲み
「私はビビアン姉様の専属騎士のウィルソン様と恋仲で、幼い頃に婚姻の約束を交わしておりますの」
「えっ!マジで!」
てっきりウィルソン様はビビアン王女を慕っていると思っていた。ミリアーナ嬢は嬉しそうに頬を染め、ウィルソンとの恋バナを饒舌に語る。
一頻りミリアーナ嬢の恋バナを聞くと、安堵の表情をしたキースが不意打ちに口付けた。
「きゃぁ!」
いきなりのキスシーンにミリアーナ嬢が声を上げ、外に待機していた騎士とミリアーナ嬢の従者が部屋に突入し恥ずかしい思いをする事に。騒然とする場を治める為に何も無い事を説明し大丈夫だと告げると、アルディア騎士の皆さんから温かい眼差しを向けられる。片やまだ興奮冷めぬミリアーナ嬢を心配しオタオタしている従者に、ミリアーナ嬢が私とキースのラブラブぶりを興奮しながら話している。
『恥ずかしい…』
両手で顔を隠すとキースが引き寄せキースの腕の中に収まる。やっと落ち着くと騎士と従者は退室。するとミリアーナ嬢が
「王族である私が拒めばこの縁は無くなる筈ですが、父上は一度口にした事を曲げる事をなさらない。ですから今回の縁組は簡単には破談にならないと思います」
そう語るミリアーナ嬢はさっき程までのキャピキャピ感はない。その表情からまた一悶着起きるのが想像でき、キースと顔を合わせて苦笑いをする。真剣な顔のミリアーナ嬢はキースを見て何か言おうとした時、扉から言い争う大きな声がした。不安になりキースの手を握るとキースは握り返してくれる
”バン!”
大きな音と共に扉が開くとそこには険しい顔をしたハイド様が立ち、その後ろでアルディアの騎士達が困った顔をしていた。ハイド様はデュークさんの制止を無視しミリアーナ嬢の元へ。そして
「顔合わせの場を設けるまでキース殿に会うのを控える様に言ってあったであろう。お前は何をしている」
「…」
低く怒りを含んだハイド様の声は冷たく恐怖を覚え、握ったキースの手に力が入る。するとキースは頬に口付けてからゆっくり立上り、ハイド様の前に行き丁寧な挨拶をする。ハイド様の表情は冷たくこの場に幼子が居たなら号泣レベルだ。
「娘が失礼な事をしたようだ。この子が何を話したのかは大方予想がつく。まだまだ王族としての自覚が足りぬ故に、この子の話は現実の分からん幼子の戯言と思ってくれ。其方の元に嫁がせるまでにしっかりと教育しよう」
「父上!」
先程までと違い青い顔をしたミリアーナ嬢が立ち上がりハイド様に詰め寄ると、ハイド様が手を上げ従者にミリアーナ嬢の退室を命じだ。あまりにも横暴な態度に苛立った私は思わず
「失礼なのはハイド様の方です」
私の発言に部屋にいる人たちの顔が強張ったのが見えたが、去り際に青い顔し大きな瞳に涙を溜めたミリアーナ嬢を思い出すと黙っていれなかった。
それにこの場でハイド様に何か言えるのは私しかいない。膝を叩き自分を鼓舞し立ち上がると、不安げな顔をしたキースと目が合う。キースに視線で大丈夫だと告げ、ゆっくりハイド様の前に立った。
ハイド様はとても大きくフィラ位背が高く見上げないと視線が合わない。怖い…でも
「お約束が無かったミリアーナ嬢ですが面会を申込まれ、それを私がお受けしお話させていただきました。ですがハイド様はこの部屋に滞在する私に断りも無く無断で入室し、私のお客様を私の許可無く退室させたのです。
私は女神アリアが認めた”女神の乙女”です。謂わば国王と同等に扱われる身分のはず。その乙女に対して失礼ではありませんか!」
ありったけの勇気をふり絞りそう言うと、ハイド様はアリアが認めた事は聞いていないと語義を強め反論してきた。確かに大ぴらに女神アリアと妖精女王エルの加護を受けた事は知られていないが、それでも他の女神の加護を受ける乙女に対してハイド様の態度は褒められたものではない。
「!」
急に部屋中に花の香りが満ちた。部屋にいる皆も気付いたようで困惑していると…
「気弱そうに見えて、案外気が強いのね」
「エル⁈」
そう妖精女王エルが現れソファに座り茶菓子を選んでいる。そしてチョコ菓子を一つ食べて
「アリアが多恵が困っているから助けて来いって煩いから来たのよ」
面倒くさそうにエルがそう言うと、ハイド様はじめ部屋の皆が妖精女王エルに礼をする。ぽかーんとし口を開けて固まる私の口に、エルがチョコを一個入れて微笑み
「ハイド。前から思っていたけどお前は真面目過ぎて面白みがないのよ。先ほど多恵が言ったとおり、アリアはこの箱庭に手を差し伸べてくれた多恵を大切に想い、私に多恵を護り手伝う様に命じたわ。これで多恵の話が本当だって分かっただろう。ハイド多恵に謝罪を」
面倒くさそうにエルはそう言いハイド様に謝罪を促した。何とも言えない顔をしたハイド様は胸に手を当て深々と頭を下げ謝罪され私はそれを受けた。ハイド様の謝罪で場は治まりエルはテーブルの茶菓子を持って帰って行った。
『気まずい…』
誰も言葉を発せず気まずくて困っていると
「多恵様。この後お時間をいただけませんでしょうか」
そう言いハイド様が手を差し伸べた。視界に入るキースは眉間の皺を深め、目が断れと言っている。
でも一度ハイド様とじっくり話した方がいいと感じお受けする事にした。
直ぐにキースが同席を求めたがハイド様がそれを許さなかった。
「大丈夫。ハイド様と少し話をしてくるだけだよ」
「ですか!」
心配するキースに抱き付き夕飯を共にする事を約束し、私の部屋で待ってもらう事にした。正直言ってどんな話がされるのか全く予想が出来ないが、何故か不安はなくハイド様の執務室に向かった。
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