独立
ユグラスから駆け付けたキースに驚いていると…
「え?なんで居るの」
「グリード殿下から文をいただき、仕事を終わらせて来たのです」
どうやらグリード殿下の文を受け予定を変更しバスグルに来たくれたのだ。いつもきちんとしているキースが、服も髪もヨレヨレになっていて急いで来てくれたのが分かる。
『ヨレヨレでズタボロでも元がいいからカッコイイのよね…』
真剣な眼差しで私を心配する婚約者を見惚れていたらキースは少し屈み視線を合わせて
「私は貴女以外の女性など考えられない。だから!」
キースの慌てぶりに落ち着いてもらう為に微笑んで
「私もキースじゃなきゃ嫌だよ」
「多恵!」
再度強く抱き付かれ背中から聞いた事も無い音が聞こえてきた。必死にパンチを繰り出し折れる前に開放してもらい、部屋の外で待機している侍女さんを呼ぶ。そして侍女さんに身なりを直してもらいお茶の用意を頼みキースの手を引きソファーに並んでかける。不安げにずっと私の手を離さないキースは幼い子に見えて母性が溢れ、キースの乱れた髪を撫で整えるとやっといつものキースに。
いいタイミングでお茶が用意され一息つくと、キースは触れるだけの優しい口付けをくれる。
「文を受けた時は目の前が真っ暗になり初めて絶望を味わいました」
「(伴侶候補)解消の時は絶望しなかったの?」
「あの時はショックは大きかったのですが、時間をかけ貴女を口説き落とす自信がありました。しかし今回は他国の王族からの縁組であり、当主である父や国王陛下ご意志に従わなければならない」
「じゃぁ…陛下と公爵が縁組を受けろと言えば…」
正直乙女である私の相手だから多少の無理は通ると思っていたが、キースが公爵や陛下の決定に従う意思があるのなら分からなくなってきた。不安が押し寄せるとキースは視線を合わせ微笑んで
「もしそうなれば廃嫡し自力で商いを始め独立すればいい。貴族ではなくなりますが、貴女を妻に向かえるだけの男になります。その時は迎えに行くのが遅れますが、待っていてくれますか?」
キースはそんな事は無い筈だと前置きしつつ、もし縁組を受けることになった時は家族や貴族の身分より私を選ぶと言ってくれた。こんな言葉を言われて嬉しくない女はいない。目頭が熱くなると瞼にキスを落とし優しく抱きしめるキース。きっとキースが平民になってもキースへの想いは変わらない。キースへの気持を再認識し幸せを感じていた。そしてバスグルに来てからの心労をキースの抱擁で癒してもらっていたら、誰か来たようで侍女さんが入室許可を求めてきた。返事をすると何とも言えない顔をして侍女さんが入って来て…
「え…断るとかありですか⁈」
「実は直々にお見えになられており…」
「私が来たのを王弟殿下からお聞きになったのでしょう…」
そう言いキースは眉間の皺を深め黙ってしまった。返事待ちの侍女さんは頻りに扉を気にしている。このまま部屋の前でお待たせする訳にいかずお受けする事にした。
戦々恐々でキースとお迎えをする。キースは牽制するかの様に私の腰に腕を回し引き寄せる。そしてキスをし微笑んで『大丈夫です』と言った。
そして…
「突然の面会をお受けいただき感謝いたします。ミリアーナと申します。リリスの乙女にお目通りいただけ光栄にございます」
「ご挨拶ありがとうございます。多恵と申します。えっと…そして…」
視線をキースに向けるとキースは腕を解き胸に手を当て令嬢に挨拶をした。形式的な挨拶を終えソファーに座り向き合う。ミリアーナ嬢は先日侍女さんから聞いた通り、お人形さんの様に可愛く誰からも愛される容姿をしている。いつも感じるがこの世界は顔面偏差値がとても高く日々劣等感を感じ、特に美しい女性に会うたびに心の中でやさぐれてしまう私。
そんな私はキースの反応が気になり見上げると目が合った。彼はずっと視線を私に向け彼女を見ていない?
「えっと…キース殿とミリアーナ嬢は面識はあるのですか?」
気になって聞くと事務的な口調で何度か会った事があると話すキース。ミリアーナ嬢は終始笑顔でキースとの接点を話している。
淡々と話す彼女に違和感を感じる。彼女の父親がキースとの縁組を薦めていているのに、何だろう彼女はキースに関心がある様に感じない。戸惑っていたら
「失礼ではございますが私はこの愛らしい女神の乙女に全てを捧げると決め、この世のどんな素晴らしい女性も受け入れる気はございません。正式にお父上にもお断りをさせていただくつもりでございます。故に多恵様に…」
「まぁ!そんな情熱的なお言葉を殿方からいただける多恵様が羨ましいですわ!」
「はぃ?」
まるで激甘な恋愛ドラマでも見ているかのようなミリアーナ嬢。キースの言葉に感動して悶えている。キースも呆気にとられ状況が見えない様で困っている。一頻くねくねしたミリアーナ嬢は座り直し、お茶を一口飲み大きく息を吸って
「私は幼いころからお慕いしている殿方がおりますの。今回のモーブルとの協定の件が無ければその方との縁組が進むはずでした。単刀直入に申しますわ。私も父上が薦めるこの縁組はお断りするつもりでございます。ですのでご安心くださいませ」
そう言いテーブルに並ぶ茶菓子を嬉しそうに選び私にも茶菓子を薦め、まるで友達の様に接するミリアーナ嬢。予想外の反応にキースと顔を合わせ首を傾げ固まり、意味不明過ぎて心の中で『誰か説明をして!』と叫んだ。
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