襲撃?
予定外の夜会に参加し心身ともに疲れ果て…
『たえ かえる おきて』
『う…ん』
眠くて目が開かないし、体も怠く起き上がれない。こんな時リリスの箱庭ではフィラが薬草を持って来てくれ、美味しくないスムージーにして飲ませてくれた。弱っている時は癒しを求めるもので、フィラが恋しく泣きそうになる。
おかしいなぁ…私は意地っ張りで自分で強いと思っていたけど、婚約者達に甘やかされ弱くなったようだ。
寂しくなり俯くとてん君が頬を舐め慰めてくれる。一頻り泣き自分の頬を叩いて気合を入れて起き上がる。部屋に行くと侍女さんが慌ただしく走り回っている。そして私に気付き直ぐに身支度を促す。
そうバスグル城に帰るために朝早く出発しなければならない。朝食は領主様からのお誘いを受け食卓を共にする事になった。お迎えに来てくれたデュークさんが、目を合わすなり眉を顰め、少し屈み目線を合わせて
「何かございましたか?」
「え?」
侍女さんにお願いしてメイクで目の腫れを隠してもらったが、鋭いデュークさんを誤魔化せなかった。
デュークさんは他の騎士もすぐ気づくと言い、何かあったのなら頼って欲しいと言ってくれた。だから…
「えっと…あえて言うなら…ホームシックかなぁ」
そう答えると優しい眼差しのデュークさんは何も言わずハグをした。それ以上聞かない優しさに少し心が軽くなる。傍で見守っていたスコットさんが、領主様が待っていると言い食堂へ急ぐ。
食堂に着くと深々と頭を下げて領主様が昨晩の強行夜会を謝罪された。領主様も自分より格上の貴族が約束もなく訪問し迷惑を被ったのだ。そんな領主様に怒る気にはなれず、お世話になった事のお礼を述べ和やかに朝食をいただいた。
「やはり王弟殿下の圧力はあるのですね」
「はい。我が領は織物が特産品で織り場が多いので…」
気不味そうにそう答える領主様。領主様は多くの領民が飢えに耐えきれず、モーブルに違法入国している事を知っていたが、止める術も助ける術も無かったと自分を責めた。
「私は豊かなモーブルで働きたい者を止める事はできません。領民の意思を尊重してやりたいのです。しかし爵位が低く力のない私では王弟殿下に意見する事も出来ない」
そう言い肩を落とし人払いをした。またとんでもない事を頼まれるのだと思い身構えると
「お恥ずかしい話しなのですが、私は働き盛りの若い領民がモーブルに行き仕送りをする事で、その家族が外貨を得て領内で消費し経済が回復する事を望んでいるのです」
そう言い苦笑いをした。でも恥ずかしがる事ないと思う。それも経済回復のきっかけになるだろう。そう告げると領主様は眉尻を下げ礼を述べられた。
部外者の私がどれだけ関与できるか分からない。でもできる事はしたいと思い、領主様の考えに賛同している事を伝え食事を終えた。
そして一旦部屋に戻り帰り支度をし玄関へ。馬車前には領主様ご一家が見送り来て下さりご挨拶をし、直ぐに出発をする。少し危惧していたが帰りもグリード殿下の馬車に一人で安心だ。こうして予定どおり王都に向け馬車は進むが…
「何かに掴まって下さい!」
御者さんがそう叫ぶと馬が嘶き馬車が急停車し、その勢いで前の座先に吹っ飛んだ。丁度眠くなってきて大きめのクッションを抱きかかえていたので、前の座先に激突しても大きなクッションのお陰で怪我は免れた。
直ぐにスコットさんが扉を開けて車内に飛びこんできた。そしてクッションを抱え床に転がっている私を見つけ、直ぐに抱き上げシートに下してくれた。そして心配そうに怪我が無いか確認をする。
何度も大丈夫だと告げたが、スコットさんの心配は止まず服を脱がされそうな勢いに困っていると
「そこをどけ!」
「いや!直接乙女様にお渡しさせてください!」
外からライアン様と数名に男性の怒号が聞こえてくる。どうやら馬車の列に誰かが立ちはだったようだ。私が乗っているのを知って陳情に来たのかもしれない。
『私はリリスの乙女で、ここでは力のないおばちゃんなんだけど』
そんな事を思いながらスコットさんに外の状況を見て来て欲しいとお願いし、一旦スコットさんか介抱の手から免れた。それにしても言い争っている声は聞き覚えある気が… するとバスグルの騎士が馬車に来て
「多恵様。ジャスと名乗る男が多恵様の友人だと言い、お目にかかりたいと一行の前に立ちはだかりまして。ご存知でしょうか」
「ジャスさんが」
驚き車内のカーテンを開け外を見ると、取り押さえられているジャスさんが見えた。手には書状?を持っているのが見える。止めるデュークさんを振り払い馬車から飛び下りジャスさんの元へ。
すると私に気付いたライアン様が私を抱き留めジャスさんから遠ざける。
「ジャスさん!」
「多恵様。この者をご存じなのですか?」
「はい。友人です。放してあげてください」
そう言うとライアン様が手を上げ、やっと騎士さんからジャスさんは解放される。やっとジャスさんの話が聞けると思ったのに、ライアン様が私の前に立ち壁を作ってしまった。そして
「どうやらお前の言った通り、乙女様とは顔見知りのようだ。しかし乙女様は急ぎ帰城される所で、お前に時間を与える事は出来ない」
時間が無いのは分かっているけど、ジャスさんが持っている書状を受け取る位の時間は有るはずだ。どうやらジャスさんを私に接触させたくない様だ。だったら尚更ジャスさんと話をしなければ…
デュークさんに目配せするとライアン様の壁から助け出してくれる。そしてライアン様に少しでいいので話す時間が欲しいと伝えると渋々許可してくれた。
駆け寄り座り込むジャスさんの前に屈み書状を受け取る。後ろではスコットさんがライアン様を牽制し、遠ざけてくれている。感謝しながら手短にジャスさんと話すと
「詳しくはここに書いているので、後で読んでください。ただ…このままだと俺たちはまたモーブルに不法入国する事になってしまう」
「!」
紆余曲折ありやっと進み出した労働協定。付添い位の認識でバスグルに来たのに、実際は水面下でまた問題を抱えている事を知り気が遠くなってしまう。
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