制限
機織り場の視察はスタートから問題だらけで…
「タエちゃんごめんね…嬉しくて思わず…」
眉尻をさげ謝るモナちゃん。大丈夫だと何度も伝えやっと落ち着いた所で、責任者のジョンさんから挨拶を受け、やっと機織り場を見学させてもらう事になった。
機織り場は想像していたより狭く、織機が密集して配置されており、作業場は人ひとりがやっと通れるスペースしかない。
ジョンさんに案内され狭い通路を作業の邪魔にならない様に慎重に歩く。作業場はリズミカルな機織りの音が響き渡る。織子さんは10代の若い子からおばあちゃん世代の方まで幅広い世代が従事している。
織子さんは女性ばかりで、王都から来た騎士やライアン様に目を奪われ頬を染めながら作業をしている。
ジョンさんの説明を受け織りあがる生地を見てある事に気付く。
「モナちゃんに織ってもらったグラデーションの生地はここでは織っていないのですか?」
そう聞くとジョンさんが少し困った顔をしライアン様の視線を気にしている。これは何かありそうだ。デュークさんに耳打ちをし、ライアン様を少しの間だけ遠ざけてもらう。そしてモナちゃんとジョンさんに話しを聞くと
「この織り方はニーシジで昔から織られており、私共には当たり前の生地でございます。それがモナがモーブルで織った事でモーブルに認められ、王弟殿下様がこの織り方に価値を見出され、この技術の流出をさせないために、我ら機織り場に圧力をかける様になったのです。そして…」
そう言いジョンさんはモナちゃんに視線を送る。どうやらモーブルで王家御用達の機織り場に戻る予定のモナちゃんに、色んな方面から圧力がかかっているそうだ。そして大きな溜息をついてジョンさんは
「モナだけではありません。あの織り方ができる者達にも圧力がかかって来ています」
「そうなんですか…」
不安そうな顔をしたモナちゃんは私の手を強く握る。船内でモナちゃんに聞いた話では帰国後に恋人のジャスさんのご両親に会い結婚の承諾を得たら、モーブルに戻る前にバスグルで先を挙げ、夫婦でモーブルへの出稼ぎを申請する予定らしい。それがモナちゃんだけ足止めされて、お姉さんとベンさんと同じ様になるのではないかと心配している。
「事情は分かったわ。どこまで私が介入できるか分からないけど、色々調べてみるわ」
モナちゃんはお礼を言い私に抱き付いた。このタイミングでデュークさんに足止めしてもらっていたライアン様が戻り視察が再開する。例の特別な生地を織っている機織り場はライアン様が意図して避け、他の機織り場でも見せてもらえなかった。バスグル側の考えも分かるだけに何とも言えない。
モーブルに出稼ぎに行った者が期せずして自国の生産品の価値を上げてくて、外貨獲得のチャンスとなったのだ。このまま優秀な織子がモーブルに出稼ぎに行ってしまうと、そのチャンスを逃してしまう。
そうでなくてもアルディアの生糸の輸入を増やし、織物の生産を増やそうとしているハイド様の事だ、既に対策をしているだろう。
『モーブルは経済的に苦しく国策としては最優先事項なのは分かってる。だから部外者の私が口を出す事は出来ない。でも本人達の意思も尊重してあげたいし…』
また難しい問題を受けてしまった。正直言ってバスグルの問題は受け無くていい。でも仲良くなった友達を放っておけない。
こうして問題を抱え視察を終えた。気落ちしながら今日お世話になる領主邸に戻る。気がつくと日は傾き少し肌寒くなって来た。するとライアン様がご自分のマントを外し、そのマントで私を包んだ。
温かくそしていい香りがする。どうやらアリアの箱庭でも男臭い人はいない様だ。そんな事をぼんやり考えていたら
「父上はバスグルの織物は他の箱庭にも受け入れらると知り、バスグル再建になるとお考えです。私は民のために豊かな国にしたい」
ライアン様はそう話しそれ以上は語らなかった。恐らく織り場の皆さんが私に陳情した事を察し、口出ししない様に釘を刺したのだろう。
そう私はアリアの乙女ではない。モーブル側で付き添いで来ただけなのだ。
「…」
私が黙り込むとライアン様は気をつかい話題を変え、それ以上その話はしなかった。そして日が暮れ薄暗い中やっと屋敷に着く。どっと疲れ早く休みたいと思っていたのに…
「あ…そうですか…」
どうやらニーシジ領にリリスの乙女が訪問した事を知った近隣の貴族が挨拶をしに押しかけて来たらしく、屋敷に着くと小規模な夜会が催されており、着くなり3人がかりで湯浴みさせられドレスアップし、ライアン様にエスコートされ夜会に出ている。
事前の連絡と私に窺いも無い事にデュークさんとスコットさんがニーシジ領主に猛烈に抗議していた。
結局ライアン様が間に入り、挨拶だけ受ける事を条件に参加する事になってしまった。
圧の強いお年頃の男性から挨拶を受け疲労はMAX。解放され部屋に戻る頃には日付が変わっていた。
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