輸出
ハイド殿下からの申し出に動揺した多恵は…
部屋に戻るとリチャードさんは侍女を退室させ、アルディアとレッグロッドの騎士さんを呼んだ。
集まった皆さんは険しい顔をしている。何故ならハイド様の面会を受けた事を知っていて、モーブルの騎士の雰囲気から察したのだろう。私をソファーに下ろしたケイスさんは膝をつき目線を合わせて
「大丈夫ですか? お疲れなら話は後ほどでもいいのですよ」
ケイスさんがそう言うと皆さんが心配そうに見ている。まだ動揺はしているけど、リリスの箱庭に関わる事だからきちんと話さないと。深呼吸をし顔を上げ大丈夫だといい、自分を落ち着かせるためにゆっくり話出す。
「生糸の輸出が増えていると聞いていましたが、それがバスグルに繋がるとは思ってもいませんでした…」
「確かにバスグルの織子が来てから、質のいい織物が市場に出る様になったと耳にした事がありますよ」
そうハイド様からの提案はキースとの婚約解消だった。
事の発端は私が提案した賃金形態の改善により、バース領の綿花の生産量が増えた事で生糸が増産され、輸出先と輸出量が大幅に増加した。これについてはキースやサリナさんから聞いていて知ってはいた。
そしてバスグルはモナちゃん達のような技術の高い織子が多く、バスグルはアルディアから生糸を輸入し高級織物の生産を始めたそうだ。
ハイド様はバスグル再建の為に出稼ぎだけでは無く、自国の生産品に力を入れアルディアからの生糸の輸入を増やしたのだ。その為に港を管理するファーブス公爵家と繋がりを持ち取引を有利に計りたいのだろう。
今も昔も家同士の結び付きを強めるには婚姻が一番。嫡男のキースもまだ未婚だしハイド様には16歳の娘さんがいる。
確かにバスグルへ輸出が増えれば増収となりアルディアにとっていい話だ。
『それは分かっているけど… 』
冷静に感情的にならない様に話していたが、解消の二文字が現実味を帯び黙り込んでしまった。
俯いて自分の膝を見ていたら手が温かくなり顔を上げると、デュークさんが手を握り微笑んで
「キース殿を愛しておいでなのですね」
「えっと…」
恥ずかしくて顔が熱くなるとデュークさんは頭を撫で
「アルディア王は多恵様の事を娘の様に想い愛しておいでです。そんな陛下が娘が望まむ事を命じると思いますか?」
「でもアルディアにとってプラスになるなら…」
国王は己の感情より国を優先すると陛下は言っていたし、キースの婚約が解消されてもアルディアにはグラントがいて私との縁は切れない。だから今回のハイド様の提案も乗った方がいいと思うだろう。それに真面目で忠誠心が強いキースの事だから国の為になるなら、泣く泣く?でも解消を受けると…思う…
そう言うと自然と涙が出てきた。直ぐに真横に居たケイスさんがハンカチで涙を拭ってくれる。
ずっと険しい顔をして話を聞いていたスコットさんは発言許可を求め、許可すると
「リリスの3国は他の箱庭の国に比べ豊かです。その上女神の乙女が居て下さる今、バスグルの取引に頼る必要は無い筈です。それに聡明なルーク陛下が乙女が悲しむ選択をするとは考え難い」
胸を張ってそう言い心配する事はないと話した。するとアルディアとモーブルの騎士さんもスコットさんに同調した。皆さんの言葉に少し気分が良くなり、やっと皆さんの顔を見る事ができた。場の雰囲気が良くなると騎士の皆さんは
「もっと酷い取引を持ちかけられたり、(ハイド様かライアン様に)迫られたのではないかと焦りましたよ」
そう言い安堵の表情を浮かべる。
『あれ?』
少し穏やかになった騎士の中で、1人だけ険しい顔の人が居る。それは
「アッシュさん?」
「大した取引ができる訳でもないのに、キースの婚約破棄を求めるとは… 失礼にも程がある」
低い声でアッシュさんはそう言い怒りを露わにする。そうだアッシュさんはキースと親戚で婚姻を楽しみにしていたんだ。そしてアッシュさんに同調したデュークさんは微笑んでいるのに目が笑っていなくて
「アルディアの輸出はアリアの箱庭が一番少なく、イリアとカノの箱庭が多いのです。それに輸出は頻度や量も安定しており、ここでバスグルと揉めたとて心配には及びませんよ」
皆さんハイド様の申し出は気にすることはないと口を揃えて言う。平和主義者の私は揉めてほしくないし…やっぱり(婚約)解消はしたくないなぁ
『とは言えキースが(婚約解消)すると言ったならば、私は止める事は出来ないよ』
皆さんの言葉を信じたい反面、【もしかして】は捨てきれなかった。なぜ安心できないかと言うと、あの時のハイド様の高圧的な態度は自信ありげに見えたから。何か隠し玉があるのかもしれない。
『まだ為人を知らないけど、【曲者】感半端なかったもんなぁ…』
“コンコン”
扉をノックし侍女さんが入室を求めて来た。どうやら昼食の準備をしたい様だ。話は一応終わり解散し、食欲のない私は少しだけ食べて後は寝室でふて寝をした。そして目が覚めると窓の外は薄暗くなっていた。
部屋の方へ行くと侍女さんが手紙が届いたと言い渡してくれる。裏返して差出人を見るとグリード殿下からだった。
『なんか嫌な予感しかしないんだけど…』
手紙を手に読むのを躊躇していると部屋の外の騎士さんが来客を知らせる。
「ビビアン王女殿下がお見えでございます」
「…」
またまた嫌な予感しかしないんだけど!
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