望み
サキーダ小公爵に挨拶を受けるとやっぱりお願い事されてしまった多恵。一人で受けた事を後悔していると…
結局挨拶だけと言いつつ、ちゃっかりお願い事をするアダム様。人当たりが良く押しつけがましくないせいか、断りにくい空気を醸し出している。やっぱり誰かに付き添ってもらった方がよかったと後悔しだした時
「ふっ」
「?」
アダム様が笑った。今笑うトコ無いと思うんだけど? するとアダム様はお茶を一口飲み微笑んで
「我がユグラス共和国は元はバスグル。我々も元はバスグル人なのです。バスグル王家が不甲斐ない為、先祖が未開の土地を切り開き同士を集めて国としました。正直未だバスグル王家は信用していません。しかし貧困に苦しむ同朋に心痛めているのです。是非バスグルを救っていただきたい。そしてそれは望む事を諦めた従弟の幸せに繋がります」
「…」
私にはリリスの箱庭を救う役目がある。バスグルはモーブルを救うために手を貸すだけ。バスグルの全てを任されても困る。そこはアリアの箱庭の人達に認識してもらわなければならない。言い難いが姿勢を正し感情を乗せないように淡々とアダム様に伝える。すると
「申し訳ございません。乙女様に救っていただきたと思ってはおりません。これは私個人の想い。ですから私の話は聞き流して下さって結構でございます」
「いやいや。こんな話し聞き流せないですよ。その為だけに動く事はできませんが、バスグルがいい方向に向けば、ビルス殿下の望みも叶うと思うので…えっと頑張りま…す!」
そう答えるとアダム様が立ち上がり、目の前に来て跪いて手を取り感謝を述べた。突然の事で声を上げそうになった。そんな事したらリチャードさん達がなだれ込んでえらい事になる。我慢した自分を心の中で褒めていたら、私をじっと見ていたアダム様が
「やはり女神の乙女を記録した文献で読んだ通り、乙女は慈悲深く人々を魅了する。私には愛する妻がおりますが、もし独り身であったなら貴女に惹かれたでしょう」
「いやおべんちゃらは要りませんよ。取りあえずお話は頭に入れておきますから」
そう言い話を切り上げようとした。それに気付いたアダム様は立ち上げり胸に手を当ててお礼を言い退室して行った。直ぐにデュークさんが部屋に来て心配そうに様子を窺って来る。微笑んで大丈夫だと言い侍女さんを呼び片付けてもらい、バスグル到着まで寝室で仮眠をとる。
何故ならモーブルの港に着くのが夕方近く、今日中にバスグル城に着く事ができず、港近くの伯爵家の屋敷で1泊する事になった。慣れない国な上に知らない人の家で1泊するのだ、気疲れするのは間違いない。少しでも回復しようと寝室で休む。そして…
「多恵様。間もなくバスグルの港に着岸致します。ご準備を…」
「はぁ…い」
起こし来た侍女さんに身支度を手伝ってもらい下船の準備をする。このモーブルの船は私達が下りた後に一旦モーブルへ帰り、第2陣のバスグル帰国者を運ぶ。
身支度出来た部屋に行くと従僕さん達が荷物を運び出し、騎士さん達が待っている。着岸するまでソファーに座り待って居ると大きく揺れた。どうやら着岸し碇が下りたようだ。そして少しすると船員さんが下船準備ができたと呼びに来た。そして迎えに来たクレイさんと一緒にタラップへ移動。そして見送りに来た船長にお礼を言いここで別れる。
「女神の乙女様。我が国にお越しいただき誠にありがとうございます。お迎えに参りました」
声をかけられ振り返るとバスグルの騎士が出迎えてくれる。それもぱっと見た感じ30人近くいて、大きな彼らの威圧感は半端ない。思わず後づ去りするとスコットさんが私の前に立ち視界を遮り、デュークさんが隣に立ってくれる。そしてリチャードさんとアッシュさんが対応してくれる。皆さんに護られやっと気持ちが落ち着いた。そして…
「ご無沙汰しております」
「?」
そう言われスコットさんの壁から覗き込むと、ビビアン王女専属騎士のウィルソンさんが微笑み立っていた。知っている顔に安心すると
「長旅お疲れ様でございました。我が主はこの日を大変楽しみにしておられました。ご滞在中はご不便が無い様、誠心誠意お仕えいたします故、何なりとお申し付けくださいませ」
「ありがとうございます。お世話になります」
そう言いお辞儀し挨拶するとバスグルの騎士からどよめきが上がり、驚いてまたスコットさんの後ろに避難する。するとケイスさんが隣に来て大丈夫だと言い
「皆、多恵様のお人柄に感嘆の声を上げたのです。悪意ではありませんよ」
そう言い手を握ってくれる。今回の護衛騎士の中でも体の大きなケイスさんだが、とても繊細で優しく彼と話すとほのぼのし密かに私の癒しになっている。お礼をいい姿勢を正しスコットさんの横に移動する。
『お迎えしてくれたのに、子供の様にいつまでも隠れてたらダメだよね…』
注目を浴び緊張するが頑張って挨拶を受ける。そして一通り挨拶が終わると馬車が目の前に来た。専属の騎士さん達の馬は一緒に船でこちらに来ていて、皆さん馴れた自分の馬で移動となる。流石に馬車は大きすぎて船に乗せれないので、バスグルの馬車をお借りする。
「お…」
バスグルの馬車はリリスの箱庭の馬車と違いシンプルで飾りが無い。私的にはこっちの方が好みだ。
「多恵様。お手を…」
「あっありがとうございます」
アッシュさんの手を借り馬車に乗り込む。車内もやはりシンプルで煌びやかさはない。でも落ち着きいい感じ! 車内をチェックしていたらゆっくり馬車が動き出した。慌てて座ると窓の外でリチャードさんが笑っている。こうして無事にバスグルに着き、王都に向けて出発した。
暫く潮の匂いを感じながら車内でのんびりしていると、光の玉が沢山集まって来た。恐らくアリアの妖精達だろう。妖精女王との契りが無い私は妖精達の言葉は分からない。しかし私の回りを飛び回り話しかけている様だ。するとてん君が
『ここ ようせい うるさい むし いい』
『なんて言ってるの?』
『いい たえ きにしない』
てん君がこんな風に言う時は決まって良くない事が多い。もしかしたら妖精や妖精女王に嫌われているのかもしれない。そう思うとバスグル滞在が少し不安になるのだった。
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