拒否権
同衾するだけなのにエロい夜着を用意されて困り…
「なっ何か勘違いしてます。いつもの夜着にして下さい」
焦ってそう答えるが食い下がる侍女さん。押し問答をしていたら誰かが部屋に来た。侍女さんが応対すると、訪問者はキースの部屋付きの侍女さんだった。戻ってきた侍女さんがキースからの荷物を手を渡してくれる。綺麗な箱を受け取り開封すると…
「これ夜着?」
箱には淡いピンクの夜着が入っていた。手に取り広げてみると飾りは少なく手触りがとてもいい。触れただけで上質なのが分かる。そして箱の中にカードが入っていて
『多恵が好むシンプルなデザインに着心地重視で用意しました。婚姻後の初夜の時はまた別の物を用意します。その時は私色に染まって欲しい…』
直ぐにカードを封筒に直し熱くなる頬を押えた。私の事を一番に考えてくれるキース。彼の人柄がよく分かる。ニヤけそうになるのを抑えながら、侍女さんにキースの夜着を着ると言い湯あみの為に浴室へ。
自室で湯浴みをしガウン+ローブを上に羽織りキースの部屋に移動する。誰も気になどしていないと分かっていても、同じ部屋で夜を過ごすと思うと後ろめたさが顔を出し、無意識に忍び足になりエスコートしてくれるスコットさんが困った顔をしている。
長い廊下を歩きやっとキースの部屋に着くと、キースも就寝準備が終わっている様で、ゆったりとしたシャツとスラックスで出迎えてくれた。そして緊張している私を見て笑っている。
部屋に入ると優しい香りがする。ソファーに座るとハーブティーが出てきた。寝るにはまだ早く互い最近あった事を話し過ごす。相変らず忙しいキースはあまり休めていない様だ。
「ちゃんと休まないと過労死しちゃうよ」
「大丈夫。偶にグラントと酒を酌み交わし息抜きをしていますから」
私がモーブルに行ってからキースとグラントは仲良くなり、お酒を酌み交わすほどになっていた。酒のつまみに私の話をするのは止めて欲しいけど、信頼できる友が出来たのは嬉しい。
「いつもどこで飲んでいるの?」
「新しく出来た多恵の屋敷ですよ。あそこには婚約者の私室が設けられていますからね」
そう私の領地に屋敷ができ、3人の婚約者の部屋が用意されている。でも…婚約者の部屋はあと3部屋あるらしい。イザーク様が念の為に多く作ったとの事。そしてもし部屋が空いた場合は子供部屋にリホームすると手紙に書いてあった。
『婚約者を6人も迎えると思っているのだろうか…いや…ないわ』
そう思いながらキースの話を聞いていた。
屋敷は本館と別館があり婚約者の部屋と客間が本館にあり、私の部屋は別館にあるそうだ。別館へは渡廊下を使う。しかし別館の内側から施錠でき、私が拒めば行く事は出来ない仕組みになっているそうだ。則ち夜這い防止策がとられているのだ。
『沢山の婚約者がいたら毎日お相手してたら体がもたない。拒否権はほしい』
キースから屋敷の話を聞き、配慮下さったイザーク様に感謝する。そんな話をしていたら7刻半になり、キースがソワソワしだした。いつも冷静沈着のキースがソワソワしてるのが可愛らしくて思わず抱き付くと
「あまり私を刺激しないでください。必死で己の欲を抑えているのですから」
「あ…すみません」
思わす謝ると笑うキース。そしてキースはてん君を呼んで欲しいと言い呼ぶ。現れたてん君は鼻息荒く気合が入っている。そして私の元に来て
『たえ しんぱい ない てん てっぺき まかす』
『頼りにしてます』
そして次にキースの元に行くと、キースは膝を着いててん君と話している。超かわいいと超カッコいいのコラボに目が幸せだ。
てん君と話し終えてキースはいきなり私を抱き上げ寝室に向かう。そして私をベッドに下ろすと、てん君と部屋の外に待機するレッグロッドの騎士の元へ行ってしまった。残された私はベッドの上で落ち着かない。
「ベッドの中に入っておくべきか、このまま待ってるべきか…どうすりゃいいの…」
すると笑い声が聞こえ扉を見ると、キースが扉に寄りかかり、声を出して笑っている。するとてん君が前足でキースの脚を連打し怒っている様だ。てん君の声を聞こうとすると
『たえ ちょぼ ない もっと かわいい』
「ちょぼ?」
すると驚いたキースがベッドに駆け寄り手を取って謝罪した。この後キースに話を聞くと、ベッドで挙動不審だった私の様子が、”ちょぼ”という鳥の求愛行動に似ていた様だ。
「ちょぼは愛玩動物でとても小さく目が大きく可愛らしい小鳥です。そして求愛ダンスは小さい体を揺らし踊るので本当に可愛いんです」
「可愛いのはいいけど少し複雑…」
そう言い少し拗ねた。慌てたキースとてん君が謝ってくれたので、許してあげる事にした。そして…
「えっと自分で脱げるから!」
「婚約者の特権を奪わないで下さいね」
キースはそう言い私のガウンを脱がそうとする。初めての事に恥ずかしくて死にそうだ。その様子をみたてん君は静かに寝室を出て、後ろ脚で扉を閉めた。
とうとう同衾します。私のガウンを椅子に掛けたキースは色っぽい視線を送って躙り寄り
「今度は私のガウンを脱がして下さい」
「えっと…」
エロイ雰囲気になってきた。色々経験済みのアラフィフのおばちゃんは焦る。そして戸惑っていると
「多恵は私に喜びを与えてくれないのですか」
「あ…がんばります」
そう言いキースのガウンの腰紐を解きガウンを脱がす。すると風呂上りのキースは香水を付けていない様で、キースの香りがダイレクトにして一気に体温が上がる。落ち着こうとキースのガウンを持ってベットを降りようとしたら、後ろから抱きつかれそのままベッドに押し倒された。
「!」
キースは私の手を取り自分の左胸に押し当てる。手のひらからキースの早い鼓動を感じ、釣られて私の鼓動も跳ね上がる。
「こんなに緊張したのは生まれて初めてで、カッコ悪い所を見せてしまうかもしれません」
キースはいつもと違う顔をし眼差しは熱い。そんなキースを見て緊張すると、気付いたキースは優しい口付けをし抱きしめた。
どんな時も私に合わせてくれるキースは、優しい手つきで私に触れる。そして慣れて来ると結構ギリギリを攻めてくる。…でも嫌じゃない。
こうしてドキドキの長い夜が始まったのだった。
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