二日酔い
ファーブス領の港に早朝着くと、フィラが訪れて…
状況が全く分からずフィラの腕の中で固まる私。するとまたキスの雨をふらせたフィラは
「ここを離れると俺は多恵の元に行く事が出来ない。だから印を付けに来た」
「香りならこの前たっぷり付けたじゃん!」
思い出しただけで顔が熱くなる程の絡みをしたはずなのに更に付けようというの?
するとフィラは胸元の夜着のリボンを解き胸の谷間に顔を寄せ
「!」
「これでいい。あ…いい気分だ」
そう言い胸の谷間に付いたキスマークを指で撫でた。あまりにも嬉しそうな顔をするから怒る事が出来ない。なぜ今になって?と思っていたら、フィラはこの後に乗船して来るキースを事を話し出した。
「彼奴もそろそろ先に進みたい思っている筈。となるとお前の柔肌を見せる事になるやもしれん」
「そんな事…」
「無いと言い切れるか?彼奴が迫った時に拒めるのか」
「…」
真剣な顔で問い詰められ答える事が出来なかった。思わず俯くとフィラは大きな手で私の頬を包み、上を向かせて触れるだけのキスをして
「すまん。お前にそんな顔をさせるつもりは無かった。完全に俺の悋気だ。多恵の気持はたとえリリスであっても縛る事は出来ない。多恵は自分の気持に素直に生きればいい」
そう言い抱き寄せた。出会った頃のフィラならこんな事は言わなかった。私に合わせてくれているのがよく分かりまた涙ぐんでしまう。するとフィラは私の涙を拭い
「バスグルの男はとても女性を大切にする。まぁこの世界の男は皆そうだが、アリアの男は度が過ぎる。きっとお前に心酔し求婚してくれるだろう。だがこれ以上(婚約者を)は増やすのは勘弁してくれ」
そう言い不安げな顔をした。その顔にキュンとし自分から口付け抱き付き、暫しフィラの温もりを感じていると、寝室の扉を侍女さんがノックした。起きているかの確認と入室許可を求めてきたので、返事をし少し待って欲しいと答える。するとフィラは腕を解き、いきなり寝室の扉を開けたので侍女さんは驚き固まってしまう。そして侍女さんに
「多恵と朝食と共にする。用意を頼む」
「…あ!はぃ!」
『あ…フィラが頼むって言った…』
フィラの発言に驚いていると、慌てて退室した侍女さんと入れ替わりでリチャードさんが入って来た。こんな状況なのにリチャードさんは驚く事無くフィラに丁寧な挨拶をする。
『城勤めの侍女さんは朝フィラが来るのを知っているけど、船の侍女さんは知らないから驚いたよね…ごめんなさい』
と心の中で謝った。そしてフィラと朝食を食べ終わった頃にクレイさんが部屋に来て、キースと2国の同行者が乗船した事を知らせてくれ、そして何故か気まずそうに…
「予定には無く多恵様のご意向をお聞きしたく…」
「?」
どうやら見送りにグラントが来ているらしい。そして会いたいと。
それを聞いたフィラは笑いながら
「俺も大概だが多恵の婚約者は粘着質だな」
「笑わないでよ」
「だが奴の気持も分かる。キースが同乗するんだ。悋気を起こすに決まっている」
グラントの行動に理解があるフィラ。どうやら婚約者達は以前のようにいがみ合う事なく、仲間意識が芽生えているようだ。喧嘩されるよりはいいけど、変に団結されても困る。複雑な気持ちになっていたら、クレイさんが再度どうするか聞いてきた。すると何故かフィラが返事をし
「多恵は愛情深く婚約者達を平等に愛してくれる。そんな多恵が婚約者のグラントの訪問を断る訳ないだろう。つまらん窺がいを立てるな」
「失礼いたしました!ではご案内させていただきます」
そう言いクレイさんは青い顔して退室して行った。部屋に控えるリチャードさんは私を見て小さく笑っている。少し不貞腐れていたらいきなり扉が開き…
「「多恵!」」
凄い勢いで入って来たキースとグラントに抱き付かれ一瞬意識が遠のいた。それに気付いたフィラが2人の腕から解放してくれ、やっと私の意識は戻ってきた。危なかった…
改めて向き合うと2人共少し窶れ疲れた顔をしている。二人の頬に手を添え
「疲れているみたいだけど無理してない?」
すると破顔した2人は
「たった今絶好調になりました」
「貴女のその言葉で、3日は徹夜できる」
2人は鼻息荒くそう言い交代で口付けてくる。フィラはその様子を傍で見て鼻で笑っている。いやいや私からしたら貴方も同類だからね。再会を喜び少し落ち着くとキースが私の手をグラントに差し出し
「また暫く会えないのです。時間はあまりありませんよ」
「友の心遣いに感謝する」
グラントはそう言い私を抱き上げた。するとフィラが片眉をあげて
「多恵に無理はさせるなよ」
『はぁ?無理って何?』
困惑しているとグラントは微笑んで2人に
「努力はします」
そう言い私の部屋から出たグラントは、船員さんに案内を頼み何処かに移動する。キースとフィラはそのまま私の部屋で待つ様だ。見上げるグラントは少し窶れているが、相変わらず綺麗ですれ違う女子が頬を染めガン見している。そして私の視線に気づくと口付け耳元で
「あと少しで応接室に着きます。そこで愛を注ぐので暫しお待ちを」
「なっ!」
一気に顔が熱くなり両手で顔を覆い、指の隙間からグラントを見ると嬉しそうな顔をしていて何も言えない。そして…時間ギリギリまでグラントの愛をたんまり受け瀕死の私。ぐったりする私を満足気に抱き抱え部屋に戻るグラント。
「遅い!」
戻りが遅いとフィラが怒り、キースが間に入り宥めている。
『本当にいつの間に、こんなに仲良くなったの?』
婚約者達の仲の良さに戸惑いを隠せない。部屋でわちゃわちゃしていたらクレイさんが申し訳なさげに部屋に来て出航時間が来たと話し、グラントとフィラに下船を促す。2人は交代にキスと抱擁をし仲良く?船を降りた。キースにがっつり腰を抱かれながら、甲板から見送りに来てくれた皆さんに手を振る。
そして汽笛が鳴り響きゆっくりと船が動き出した。そして人がミニチア位になってきたら、フィラとグラントが馬車に乗り込むのが見えた、
『あれ?フィラは帰らないの?』
そう思っていたらキースが
「恐らく今晩は2人は飲み明かすのでしょう。多恵がモーブルに行った夜もそうだったので」
「?」
意味が分からない私にキースが口付けて
「愛する人が傍から去るのは心が凍え、寂しさが増すのですよ。だから同じ女性を愛する者同士で、愛する女性の話をして堪えるのです」
「キースとグラントとはそんな事してたの?」
驚いてそう言うとキースは楽しそうに笑いながら
「明日は2人共二日酔いで使い物にならないでしょうね」
「!」
笑うキースを見て固まっていたら、風の妖精声をかけてきた。直ぐに心を通わせ風の妖精に2人に伝言を頼む。
『"体に良くないから飲み過ぎないで。出来るだけ早く帰るから待ってて"と伝えて』
『たえ ようせいおう よわない』
『でもグラント酔うから…』
心配してそう言うと妖精は楽しそうに笑いながら港へと飛んで行った。直前にバタバタしたが無事バスグルに向け出港。こうして期待と不安が入り交じる旅が始まった。
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