離岸
港に到着すると知り合いがいて…
客船の前には沢山の人が集まっている。どうやら第一陣で帰国する人達のようだ。その中にモナちゃんとジャスさんが。私に気づいた2人は手を振ってくれた。
馬車は静かに止まり降りて2人に駆け寄りハグをする。
「一緒の船だね」
「そうなの。嬉しいわ」
2人は腕が良く仕事の依頼が殺到し、ゴードンさんは2人が早くモーブルに戻って来れるように、コネを使い帰国の第一陣にねじ込んだと後で聞いた。彼がやりそうな事に苦笑いした。ハグを解き少し話していると、他の人達がモナちゃんに声をかけた。するとジャスさんが
「多恵様。同胞がお礼を言いたいと。少しだけいいですか?」
振り返ると数十人のバスグル人が遠巻きに見ている。頷き歩み寄ると年長者の男性が、胸に手を当て深々と頭を下げて丁寧にご挨拶してくれる。
「貴方様のお陰で我々は祖国に帰れます。皆は半ば諦めていたんです。それが…」
そう言い涙ぐんだ。思わずその男性の手を握り
「辛い思いされましたね。帰国されたらご家族との時間を過ごして下さいね。でもですね…」
皆さんにモーブルは労働基準を設け、バスグル人の受け入れが出来るように労働環境を改善した事を話し
「もしまた皆さんがまたモーブルで働く気持ちがあるなら、安心して働く事が出来ると思います」
そう言うと出稼ぎに前向きな人や少し不安な顔する人と反応は様々だった。長きに渡り詐取され虐げられてきたのだ。簡単に気持ちが切り替えれるわけない。でも
「またここで会えれば、こうしてお話ししましょうね」
そう言い微笑んだ。皆さんの笑顔を見ていてある事を思い出しモナちゃんに確認し
「あと、皆さんのお気持ちいただきました。ありがとうございます。あの織物は大切にしますね」
そうバスグルの皆さんが少しずつお金を出し合い、ジャスさんが染色しモナちゃんが織ってくれた生地のことだ。お礼を言い皆さんと打ち解けた頃、アッシュさんに促され港の管理事務所に移動を始め、そしてモナちゃん達は先に搭乗を始める。
管理事務所に着くと港を管理されているタバス伯爵が迎えてくれ、出発までこちらで過す事になる。タバス伯爵はアルディアのファーブス領から伝わった防御靴を大絶賛し、港での怪我人が減少していると嬉しそうに話した。そしてキースから教わった入港時の検疫も着々と準備されているそうだ。
『自分の知識が皆さんの役に立っているのを知れて嬉しい』
そう思うと思わず涙目になってしまう。相変らず涙腺は四十代のままの私である。するとタバス伯爵が焦りだし、何もしてないのに胸に手を当てて深々と頭を下げている。するとリチャードさんが
「多恵様は悲しいのではなく、港のお役に立てた事をお喜びになっておられるですよ」
「リチャードさんそれ!」
ハンカチで目頭を押さえながらそう言うと、伯爵は安堵の表情を浮かべ座り直をした。
この後半刻ほど事務所でタバス伯爵から乗船中の注意事項と、バスグルの予備知識を教えてもらいながら時間をつぶす。
「多恵様そろそろ乗船時間にございます。あと、船長がご挨拶申し上げたいと願っておりますが、如何なさいますか?」
「はい。是非」
そう応えると扉が開き船長がお見えになり立ち上がりご挨拶する。船長は風格のある初老のイケおじ。船長は1000回以上乗船経験のあり、王族が乗船する場合は必ず舵をとるそうだ。そして船長と話しながら客船に向かい乗船する。
私が乗るとタラップが外され間なく出港となる。始まる船旅に緊張してくるとリチャードさんが
「このままお部屋に向かいますか?それとも甲板から出航をご覧になりますか?」
「折角だから甲板から港で働く皆さんに手を振りたいわ」
そう言うと驚いた顔をしたリチャードさんは付き付き添っている船員に何か告げると、船員は足早に何処かに行ってしまった。私と護衛の3人はそのまま甲板に向かい、船が離岸するのを見ていた。港には出港後の後処理で沢山の人が忙しそうに働いている。数人が船から手を振る私に気付き、遠慮がちに手を振り返してくれる。その中にはタバス伯爵もいらっしゃり
「色々ありがとうございます。いってきまーす!」
届いたか分からないでも、皆さんの顔を見ていたら元気が出てきた。そして船はどんどん港から離れ、岸にいる人が見えないくらい小さくなった頃に、ケイスさんに促され船室に移動を始めた。部屋に着くと部屋付きの侍女さんがお茶を入れてくれ、一服すると文官責任者のクレイさんがスケジュールを伝えに来た。
船は明日の早朝にファーブス領に着き、キースとアルディアとレッグロッドの同行者が乗船する。キースから同乗はするがバスグルに到着後は別行動だと聞いている。でも何故レッグロッドは近いモーブルの港からでは無く、アルディアから乗船するのか疑問に思い質問すると、責任者のクレイさんも事情は知らないと話た。
『まぁ国家間で色々あるのだろう』
その位の認識でいた。するとクレイさんが王族の客船に他国の貴族を乗船させる事自体が異例であると言い、これは陛下の御心だと話す。意味が分からず聞き返すと
「陛下は慣れない船旅をなさる多恵様を想い、ご婚約者様の同乗を許可なさいました」
「そうなんですね。陛下のお心に感謝です」
そう言うとクレイさんはいい顔をされ、陛下が喜ぶ言いながら何かメモをとっている。
『もしかして今の発言陛下に報告するのだろうか…』
下手したらバスグル滞在中のつまらない冗談も全て報告されそうなので、文官さん達の前での余計なことは言わないでおこうと思った。話を終えたクレイさんが退室後は船内探索をしたり、看板で水平線を見ながら懐かしい潮風を堪能したり楽しい時間を過ごした。
こうして順調に船は進み、船酔いする事も無く客室でゆっくり休む事が出来た。そして翌朝…
「多恵…そろそろ起きて可愛い顔を見せてくれ」
「フィラ?」
目を開けると何故かフィラが私を見降ろしている。びっくりして奇声を上げそうになると、フィラが口付けで言葉を遮った。
「声を上げると騎士どもが入って来るだろう。もう目が覚めたか?」
「うん。でも何で居るの?」
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※モーブル編ですが話が収まらず、あと1話追加となります。次の1話で一旦区切り、少しお休みしてからバスグル編となります。
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