友達?親友?
やっとアレが届き…
部屋に戻るとアイリスさんがいて、荷物が届いたと教えてくれた。これこれ!待っていました。そして《A》の印が付いた箱を手に取り
「アイリスさんご婚約おめでとう。大した物ではないけど受け取って」
「いただいて宜しいのでしょうか?」
頷くと受け取ったアイリスさんは開封し開口一番に
「いゃーカワイイ!」
頬を染め両手でスローの置物をもって絶叫するアイリスさん。どうやら彼女のカワイイにクリーンヒットしたようだ。喜んでくれ胸を撫で下ろすと、喜んでいたアイリスさんはゆっくり置物を箱に戻し、真っ直ぐ私に視線を向け
「私のような者にこのようなご配慮を賜り幸甚の極みでございます。心より感謝と多恵様に永遠の忠誠を」
喜んでくれるのは嬉しいけど、永遠の忠誠は正直言って重すぎる… でもこれからも仲良くして欲しいから
「忠誠なんて仰々しいので、お友達になって欲しいなぁ」
「私のような者が親友なんて…」
【友達】て言ったのに何故か【親友】に変換されている辺りはアイリスさんらしくて、おもわず頬が緩んだ。そしてケイティさんにもお友達になってもらったと話すと
「この愛らしいスローのガラス細工も嬉しいのですが、多恵様の親友となれたことが何よりうれしゅうございます」
「私の方こそ友達になってくれてありがとう」
こうしてモーブルでも友達ができて、この世界で過ごすのが楽しくなってきた。そしてフィナさんにもお祝いを渡したいので、出発までにフィナさんと会えるように予定を調整して欲しいとお願いする。そして
「あとできるならモリーナさんも一緒に」
「モリーナ嬢もですか?」
そう専属侍女の2人の婚姻が決まりお祝いを用意したけど、モリーナさんはまだ(婚姻が)決まっていなくてお祝いは贈れない。分かっていても2人が貰っているのに自分だけ無いのは寂しいだろうから、お世話になったお礼にちょっとした品を買ってあったのだ。
『それに3人が一緒なら挨拶も出来るしね』
身近な人に挨拶する事でやっとここを離れる実感が湧いてきた。でも離れるって言っても長期出張の様なもので、1ヵ月程で一旦帰って来るんだけどね。
こうして出発まで部屋でのんびり過ごしていると、フィナさんとモリーナさんが部屋に来た。
揃った専属侍女さんにお世話になったお礼を述べて、帰って来たら友達になって欲しとお願いする。すると2人は別れを惜しみ涙してくれた。
しつこい位何度も言うがリリスの箱庭の住人はいい人しかいない。こんな人達ばかりなら、私の元の世界も争いごとは起きないかもしれない。
皆の涙がおさまりフィナさんにはアイリスさんと同じスローのガラスの置物を、そしてモリーナさんには真珠がアクセントの髪飾りを贈った。2人とも喜んでくれホッとする。
モリーナさんはこの髪飾りを着け、彼との距離を詰めると意気込んでいる。モリーナさんって案外肉食女子なのかも
『この調子なら帰って来る頃にはモリーナさんも(婚約が)決まっているかもね』
友達の幸せな顔を見てたら超高速でホームシックがやって来た。また慣れないバスグルで過すと思うと気が重い。リリスの箱庭の住人はいい人だったが、アリアの住人はどんな人達だろう。知り合ったバスグルの人もいい人だったけど、行ってみないと分からない。少し不安が顔に出たら急に3人が抱き付いてきて
「多恵様は皆を幸せへ導くお方。そんな貴女に悪意は向きませんわ」
そう言い励ましてくれる。アルディアからモーブルに移る時も不安で心細かった。でも”案ずるより産むが易し”だよ。
『多分何とかなる』
と自分に言い聞かせ、モーブルでの思い出話に花を咲かせていたら、誰か部屋に来たようだ。アイリスさんが応対するとグレン殿下とフィル殿下が来てくれたようだ。
部屋に入るなり駆け寄り抱き付くフィル殿下に癒され、少し背が伸びたグレン殿下に目を細めた。
殿下の成長を嬉しく思うと共に、幼いのに辛い別れを経験する事に心が痛む。2人には辛い試練だが陛下と共に母に向き合い悔いのない別れをして欲しいと強く思う。
抱き付く2人を抱きしめながら母性全開の私。ここで泣いては2人を不安にさせるので必死で笑顔で接する。
2人の話を聞いていると文官さんが殿下達を呼びに来た。フィル殿下が先に退室されると、グレン殿下が駆け寄り抱き付いて耳元で
「ちゃんと母上と向き合いお見送りします。だから多恵殿は安心してバスグルに行ってください」
「成長なさいましたね。王妃様もお喜びになられるでしょう。でもね無理に大人にならなくていいんですよ。我慢せずに母君に甘えて下さいね」
少し潤んだ瞳で大きく頷いた殿下は護衛騎士と退室して行った。
「あれ?」
気が付くと侍女の皆さんが退室し、グレン殿下に付き添って来たシリウスさんだけが残っていた。そしてシリウスさんはゆっくり歩み寄り抱きしめて
「遂に出発の日になりましたね。覚悟していたが未熟な俺は心がざわつき、貴女をどこかに連れ去りたい衝動に駆られている」
「1ヵ月なんてあっという間ですよ。あ…えっと…向こうでしっかり自分と向き合い、帰ったらお返事しますね」
するとシリウスさんは腕を緩めてすこし屈み視線を合わせて真剣な眼差しで
「まずは無事にお戻りを」
「はい。ちゃんと帰ってきますから」
そう言いシリウスさんの頬に口付けた。一瞬驚いた顔をしたシリウスさんは破顔し再度強く抱きしめた。シリウスさんの香りに包まれた私は、不安が消えていくのを感じていた。
"コンコン"
扉をノックしたリチャードさんが入室許可を求めてきた。返事するとシリウスさんの腕が緩み、同行してくれる騎士の3名が入室。シリウスさんは3人に声をかけ退室して行った。
この後出発までの予定をアッシュさんから聞き
「昼食後に陛下へご出発の挨拶をしていただき、直ぐの出発となります」
「はい。皆さんよろしくお願いします」
挨拶が終わるとタイミングを計っていた侍女さん達が入室し食事の準備をしてくれる。最後になるので我儘を言い侍女の皆さんと昼食をとる事に。
いつも1人だから一緒に食べるのは楽しく、この後長時間移動するのに食べすぎてしまった。そして食後にゆったりとしたワンピースに着替え謁見の間へ。
さぁ!バスグルに向けて出発しますよ!
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長かったモーブル編も後2話になりました。最後までお付き合い下さい。
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