返事は…
やっと日が落ち後の予定は…
「はぁ〜すっきり」
久しぶりに湯浴みを手伝ってもらいマッサージを受けると、体の毒素が全部出たようで気持ちいい。
『着飾らなくても…』
今日の予定はあとシリウスさんの訪問だけ。だから着飾る必要ないと思うのだが、ドレスを着せられ髪も結い上げられた。せっかくリラックスしたのになぁ…
そして何故がまだソワソワ中の2人を横目にソファーでまったりしていると
「多恵様。シリウス様の先触れが参りました。ご準備を」
「はぁ〜い」
立ち上がりお迎えをすると?
「へ?」
正装したシリウスさんが両手一杯の花を抱え現れた。一瞬で状況を理解し顔が熱くなり慌てふためく私。そう誰が見ても分かる求婚だ。
初めてじゃないのにどうしていいか分からず、思わずフィナさんとモリーナさんに助けを求めると、2人は微笑んで会釈しそそくさと退室してしまった。
「多恵様…」
甘く囁くシリウスさんに視線を向けると、綺麗なライトブルーの百合似た花束を持っている。その花の香りは爽やかで部屋に良い香りか充満する。完全に目が泳ぐ私にシリウスさんは笑いながら
「そう身構えないで下さい。お察しのとおり貴女に求婚をしに参りました」
そう言いシリウスさんは花束を差し出した。一瞬躊躇し手を出すのが遅れる。でも花に罪は無いと思い受け取るとやっとシリウスさんは表情を緩めた。そして目の前に跪き手を差し伸べ
「まだお心を向けていただいていないのは分かっています。しかし明日出発なさる前に正式に求婚をしたかった」
未だバスグルに長期で行く実感が無く、また陛下が求婚しないと言った事で、シリウスさんから求婚されるなんて考えもしていなかった。真剣な眼差しを受けどうしていいか分からない。視線を外せず彼を見ていたら、綺麗な黒髪が目に入る。
『元々黒髪長髪はどストライクで出会った頃から好きなタイプだったのよね…』
そんな事を思いながら見ていたら、私の手を取り立ち上がったシリウスさんは抱き寄せ
「俺はまだまだ未熟かもしれない」
そう言い口籠る。どうやら出会った頃に私がモーブル男性の矜持を好ましく思っていない事を言っているようだ。確かに出会った頃は本当に皆さん過保護で、自分の意思を通すと我儘を言っている気がし気落ちしたりもした。しかし協力し問題に向き合ううちに、無謀な事も危険が伴わない限り見守り支えてくれ、好きにさせてくれた。今はそこに関しては思う所はない。
『あ…でも体力が無さ過ぎて、直ぐ運ばれちゃうんだよね』
やっぱり騎士さんに交じり運動した方がいいのかもしれない。この辺はレッグロッドに渡った時に改善したいな。
「多恵様」
「あ…ごめんなさい」
真剣に求婚してくれているのに思考が遠出していました。見上げたシリウスさんの綺麗な瞳を見ていて、出逢った時の事を思い出し思わず笑ってしまう。すると眉間に皺を寄せてシリウスさんが不安な顔をしてので
「ごめんなさい。初めて会った時の事を思い出していたんです。こうやって視線を合わすと逸らされ、私初めは嫌われているのだと思っていました」
「それは…貴女の黒く輝く瞳に酔い己を失いそうで、直視できず失礼な態度を取ってしまった」
そう言い気まずそうな顔をした。彼は国内でも五指に入る実力な上に、眉目秀麗で高位貴族の嫡男。そんなシリウスさんは超が付く優良物件だ。でも時折みせる拗ねた表情や不安げな表情は母性を擽られ可愛いと思ってしまう。
抱き締める腕を緩めて向き合い両手をとったシリウスさんは、深呼吸をし表情を引き締めて
「俺は貴女の夫になれるならば他に何もいらない。そして他の夫達を優先し俺には気が向いた時だけ愛を向けてくれればいい。それが叶えば他に何も望まない」
「そんなの寂しいし夫と言えないよ」
「貴女は優しく周りの者に愛を与える。しかし俺は他の者と違う愛が欲しいんだ」
そう言い強く手を握る。その手からシリウスさんの想いが伝わって来た。でも私はそこまでの想いは未だない。確かにシリウスさんは好ましく思っているし、抱きしめられたりするのは嫌じゃない。でも…
「私…シリウスさんの事は好きです。でもそれは愛か未だ分からない。真剣に心を向けてくれる貴方に安易な気持ちで応えたくないんです。だから…」
相手は真剣に気持ちを伝えてくれている。だから曖昧に返事せずきちんと応えないと。そう思い彼の目を見て言葉を発しようとした。
「!」
シリウスさんは大きくごつごつした手を翳し私の言葉を遮った。そして
「恐らく多恵様は俺を不快には想っていないが、まだ気持ちが定まっていないのでしょう。だから離れている間に俺との未来を考えてくれませんか」
「考える時間をくれるって事ですか?」
シリウスさんは微笑み頷いた。確かにシリウスさんに対する気持ちは分からない。アーサー殿下やヒューイ殿下の時の様に断る気は不思議と無い。でも即答できる気持ちも無くて…自分の事ながら想いは複雑。また樹海の入口まで来た私。するとシリウスさんが上着の胸ポケットから何かを取り出した。それは小さな皮袋。ここでなんでお金の登場?
気になってシリウスさんの手元を凝視していたら、皮袋から出て来たのは…
「指輪?」
「はい」
そう言い手の平にそれを乗せ差し出した。よく見るとプラスに薄水色の石が嵌められた華奢なデザインの指輪だった。これって婚約指輪?
「貴女の左指にある3本のリング。恐らく石の色から婚約者に贈られたものでしょう。則ち婚約を表すものと察し俺も用意しました。勿論お返事いただいていないので、嵌めて欲しいとは言いません。だが受取ってもらえませんか」
「え…でも」
躊躇するとシリウスさんはお守りとしてバスグルに持って行って欲しいと懇願した。そしてモーブルに帰って来る時に気持ちに応えてくれるなら嵌めて欲しいと言い、私の手を取りリングを置いた。
石は元の世界のアクアマリンに似ていて淡いブルーの石。それは透明度が高くキラキラ輝きとても綺麗だ。リングも細めで恐らく他の婚約者の指輪と一緒に付けても邪魔にならない。
『よく見ていて着ける私の事を考えて作ってくれたのがよく分かる』
彼の気遣いに感動していたら、今度はポケットから細いチェーンを取り出しリングに通した。
「こうすれば首にかけておく事が出来ます。貴女を護る様に願を懸けしました。肌身離さずお持ちいただきたい」
そう言い私の首元に着けてくれた。そして私の胸元にある指輪を嬉しそう見つめる彼を愛おしく思い、また頬が熱くなって来た。もう…砂糖漬けどころか、蜂蜜のお風呂に入っている気分だ。
「お気遣いありがとうございます。バスグルから帰ってきたらお返事しますね。ただ…期待しないでください。今は前向きな気持ちでも、どうなるかは自分でも分からないので?」
そう応えると凄い勢いで抱き付かれ口付けされた。事故で触れるだけのキスはした事はあるが、この口付けは欲情をはらみ溶かされそうな熱烈な口付け。彼の熱を受けで力が抜けていく。本来なら未だ気持ちに応えていないのに、キスされたら怒るんだけど何故かそんな気は起こらなかった。
でも激しくなる口付けに思わずシリウスさんの胸元をパンチする。すると慌てて離れて跪いて謝罪するシリウスさん。
そして必死に謝っている。でも…
『謝っているけど凄い嬉しそうな顔してるんだよね…』
何故か謝っている彼を可愛く感じてしまう。どうやら私はアイリスさんの影響で、異性に可愛いさを求める様になってしまったようだ。取りあえず謝罪を受け、次無断でしたら嫌いになると釘を刺した。こうして求婚大作戦が終わったところで、フィナさんが申し訳なさそうに部屋に入って来て、陛下の遣いが来ていると告げる。するとシリウスさんは首にかけた指輪を手に取り指輪にキスし、極甘な視線を向け顔を近づけ耳元で
『忘れないで下さい。俺はいつも貴女と共にある』
もし私が漫画のキャラなら頭から大量の湯気が上がっているだろう。微笑んだシリウスさんはフィナさんに会釈し颯爽と退室して行った。残された私は体力を使い果たし、まるで試合を終えたボクサーの様にふらふらだ。そこに陛下の遣いの人が陛下からの手紙を渡し、すぐ返事が欲しいと言う。
ヘロヘロになりながら開封し読むと、明日の朝食を共にして欲しいと書かれていた。
明日出発になるので、お受けすると返事をした。
ここからはフィナさんに支えてもらいながら寝支度をし、やっとベッドに寝転がる。
「はぁ…やっと休めるわ…あれ?何か私忘れてる?」
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