挨拶回り
別れ際の陛下の言葉が気になったが、時間がなく挨拶回りを再開し…
陛下の執務室を出て部屋に戻ろうと思ったが、このまま挨拶回りを続ける事にした。アルディア一行が帰るまで半刻ほどあるから少しは回れる。そう思い謁見の間に近い書物庫と医務室を回る。各所でお礼を述べ少し雑談をすると、皆さんお世辞にも寂しいと言って下さり、いいご縁を結んでくれたリリスに感謝をする。
悪役もほんの少しはいたけど、大半のモーブルの人はとても愛情深くいい人ばかり。いっぱい励まされ助けてもらった。色々思い出すと涙目になる私は益々涙腺が緩くなってきているようだ。するとアイクさんがハンカチを差し出してくれた。
「あっありがとうございます」
貸していただいたハンカチを見ると明らかに女物で驚いていると、リチャードさんから私が涙もろいから護衛する時は携帯するように申し送りがあったと話した。私如きに気を使わせて申し訳ない。
こうしてモーブルであった事を思い出しながら各所を回り挨拶を終え、そろそろアルディアのお見送りの時間になる。今回は殿下の帰国になる為、謁見に立ち会う事になった。
そろそろ疲れて来て足取りが重い。するとアイクさんが両手を広げた。
『あ…抱っこかぁ…でも慣れていないアイクさんに抱っこされるのは少し…』
少し躊躇してやんわりと断り謁見の間に急ぐ。やっと着くと直ぐに陛下も入場され謁見が始まる。恙なく退城の挨拶が終わり陛下が退室されると、皆さん馬車の待機場へと移動を始める。アイクさんと移動を始めるとトーイ殿下が来て手を差し伸べた。また暫くお会いできないので、殿下の手を取り話しながら馬車へ向かう。
「お疲れ様でした。アルディアの皆さんによろしくお伝えください。あと手紙もよろしくお願いします」
「多恵殿こそバスグルへはお気をつけて…願うなら新たな虫は付けて来ないでいただきたい」
「虫…はっ!ある訳ないじゃないですか!」
殿下の言う所の虫とは男性の事だろ。リリスの乙女だから箱庭ではモテモテだけど、アリアの箱庭に行けば、貧相で容姿も残念な女ですからそんな事ある訳がない。そう話すが殿下は苦笑いし
「まぁ、行きの船にはキース殿が同乗するので大丈夫でしょう。ですがバスグルでは十分の気を付け下さい」
「あ!そう言えばアルディアからは何方が同行して下さるのですか?」
そう聞くと意地悪そうな顔をした殿下が
「ファーブスの港に着いてからのお楽しみです」
そう言い何度聞いても教えてくれなかった。こんな時は何かあるに違いない。"余計なサプライズ"はノーサンキュだよ。そう思っている内に出発準備ができトーイ殿下待ちのレオさんと第3騎士団の皆さんが見えて来た。帰国される皆さんにご挨拶をし、帰路の無事を祈りアルディア御一行を見送った。
そして一息つく間もなく未だ挨拶できていない騎士棟へと向かい、日が暮れるまで城内を歩き挨拶をして回った。日が傾きだし部屋に戻ろうとすると
「大丈夫ですか?無理なさらず…」
そう言い再度両手を差し出すアイクさん。あまり拒否ばかりすると悪いかもと思い出したら
「ぎゃぁ!」
急に体が浮き間近にアッシュさんの顔がある。突然の事でフリーズするとアッシュさんは
「多恵様は遠慮深く我々騎士にも気遣われる。陛下から無理させる前に対処するように言われていただろう。こんな時は後で責めを受け、まずは無理をさせない事だ」
そう言いアイクさんに注意を促す。私が気まずいから断ったのにアイクさんが悪者になってしまい申し訳なくてアイクさんに謝る。それより休暇中のアッシュさんが何故ここに居るの? その疑問は顔に出ていた様でアッシュさんは笑いながら
「明日の最終確認に登城しておりました。帰る前に多恵様にご挨拶させていただきたく、お探しておりました」
「そうですが。えっと…いつもご迷惑おかけします」
と言うと微笑み部屋まで送ってくれた。部屋の前に来るとリチャードさんとケイスさんもいた。お2人も明日の確認で登城していたようだ。
まずはケイスさんに婚約のお祝いの言葉を述べると、真っ赤な顔をして照れくさそうに笑う。その様子を微笑ましく見ていたら、部屋からモリーナさんが顔をだした。皆さんをお招きしお茶をいただき明日の予定について話す。
未だ実感のない私と違いすっかりお仕事モードの3人。文官さんとの連携も取れている様で、安心して皆さんにお任せできそうだ。そう思いながら話していてふと
「任務とは言えご家族と長い間、離れるのは寂しいですね」
「いえ。家族は乙女様のお役に立て誇りに思っております」
そう言ってくれるが、家族は寂しいに決まっている。だから
『バスグルでの仕事を早く終わらせさっさと帰って来よう』
そう強く思った。そして暫く話をしていると夕食の時間になり3人は帰って行った。一人になりやっと一息つくと
『あれ?てん君?』
ずっとボリスの元に行っていたてん君が帰って来た。顔を見ると疲れ切っている。よたよたしながら私の膝の上に来て撫でもふを要求する。私も疲れ気味だけど名一杯撫でた。すると少し元気になったてん君が
『はなし へいこうせん たえ がんばる』
『はぁ?意味不明なんだけど』
何の話か全く分からず聞き返すがてん君は寝てしまった。そして高速で嫌な予感がやって来た。話しって言うのは恐らくフィラが夜来るって言ってた事だろう。
『何が平行線なの?ボリスでも解決出来なかったって事?』
眠るてん君を撫でながらまた思考が樹海入りした所で、モリーナさんが夕食準備が出来たと呼びに来た。一旦眠るてん君に戻ってもらい、糖が足りていない頭に糖分チャージする事にした。
頭はまだもやもやしているが、沢山歩いてお腹は空腹Max。しっかり食べてからまた悩む事にした。
そして食後に何故かもじもじしたモリーナさんが湯浴みを促す。まだ6刻半なのに早過ぎると言うと
「本日は私とフィナ嬢がお手伝い致しますのでお時間がかかります故…」
また意味不明が増えたよ!
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