次世代へ
チェイスの疑惑の目にタジタジの多恵は…
「えっと…私何かやらかしたでしょうか?」
「…」
無表情で真っ直ぐ私を見据えるチェイス様に冷や汗が止まらない。まだ私へのスパイ疑惑は続行しているようだ。会話も無く従僕さんが給仕する音だけが部屋に響きわたり居心地が悪い。気まずくなり下を見ていたら誰か来たようだ。ゆっくり顔を上げると前にいたチェイス様が居ない? それにテーブルには3人分の食事が用意されている。
『?』
状況が分からず固まっていると、背後に気配を感じ振り向くと陛下が立っていた。慌てて立ち上がろうとしたら手で制され、陛下は横に来て跪き手に口付けを落とし微笑んだ。陛下の微笑みで私の緊張は少し解けた。そしてチェイス様が陛下に席を勧める。陛下は私の隣に座り意味が分からないまま昼食をいただく事になった。
少しすると何も無かったかの様にありふれた会話を交わし、チェイス様の表情が緩みいつものイケおじになった所で…
「チェイス。お前の実直さは仕事ではいいが女性を委縮させてしまう。もっと柔らかく接しなけれな誤解を招くと前から言っていただろう。多恵殿が困ってらっしゃるぞ」
「え?あ…」
陛下が笑いながらそう言うとチェイス様は眉間の皺を指で撫で気まずそうに微笑んだ。そして食事の途中なのにチェイス様は立上り、胸に手を当てて謝罪される。
「グリード殿下の事で多恵様に疑り、酷い態度を取ってしまった事を陳謝いたします」
突然の謝罪に唖然としていると陛下が、愛国心が強すぎるだけで悪意はないのだと弁護し、許してやって欲しいと口添えをされたので謝罪を受ける事にした。そしてチェイス様からグリード殿下と家臣の疑惑について話を聞く事になった。
どうやら各所の文官からグリード殿下と共にバスグルに渡る文官達が、資料や情報を纏めているとエルビス様を通して連絡が入り、チェイス様とエルビス様はその情報をバスグルに持ち出すのだと思い警戒し監視した。
そしてその文官達は書類や資料をグリード殿下の執務室に運びこんでいる事が分かり、グリード殿下の指示だと断定しグリード殿下も監視対象に。そこに私と密会していると報告が上がり、チェイス様が私に探りを入れた。
でもあの話は出来るわけなく誤魔化した事で、私も共犯とみなされた訳だ。
「多恵様を監視対象にした事が陛下のお耳に入り、陛下がグリード殿下を調べたところ…」
「ところ?」
気まずそうにグラスのワインを飲みほしたチェイス様は話しを続ける。
「グリード殿下はご自分の公務やお調べになった情報を文官達に整理させ執務室に保管。そしてその執務室を将来王弟になられるフィル殿下の為にご準備をなさっておいででした。私の早合点でグリード殿下や多恵様を疑い大変申し訳ございません」
「あ…よかったです。疑いが晴れて」
そう言いボロご出ないうちにこの話を切り上げた。そしてやっと緊張が解け味がわかるようになり、美味しい料理を味わうことができた。食後は明日の事を少し話し部屋に戻る。チェイス様の執務室を出ると何故か今度は陛下に拉致られる。
『今日は拉致るのが流行ってるの?』
そんな事を思いながら陛下に手を引かれ陛下の執務室へ。執務室には食後なのにチョコ菓子が山盛り用意されており、陛下が嬉しそうに私を餌付けしようとする。太るから食べるのを控えると
「貴女の太い基準が理解できない。細すぎて心配になる。もっと食べて体力を付けないと…」
「付けないと?」
「あ…いや…忘れてくれ」
何故か口籠る陛下を見ながら、これ以上は聞かない方がいい気がした。せっかく用意いただいたので、チョコケーキだけはいただく事にした。
陛下は微笑みずっと私が食べるのを見ていて、その眼差しは熱く甘い。思わず視線を逸らすとまた自分の頬を叩き、自分を諌めた陛下は姿勢を正し
「貴女と一緒に帰国するバスグル人は今日港に移動を始めた。バスグルまで船で7日ほどかかる。先ほどアルディアとレッグロッドから同行する者を報告をうけ…」
そう言い口籠る陛下に何か問題があるのかと思い視線を向けると、また頬を自分で叩いて
「キース殿が同乗するそうだ。羨ましい…」
「あ…」
退位するまで口説かないと宣言したのに、あからさまにキースにやきもちを妬く陛下。そう簡単に想いを抑えるのは難しいなのは分かるけど、その度にご自分の頬を叩くのはやめて欲しい。今誰か執務室に来たらまたビンタの疑いがかかってしまう。
そう思いながら陛下にやめる様にお願いすると、大きく深呼吸した陛下は
「貴女を我が国に迎えてからあっという間だったな。恐らく次に(箱庭に)戻る時はレッグロッドだろう。そうなるとモーブルは寂しくなる」
「バスグルとの労働規定も決まり益々忙しくなり、寂しいなんて思う暇ないかもしれませんよ。それにそのころには…」
恐らく王妃様は箱庭にはいない。モーブルは喪に服し別の寂しさで私の事なんて思う暇はないと思う。だから私が出発したら私の事なんて忘れて王妃様を弔って欲しい。そう思っていたら陛下が隣に移動し抱きしめた。そして暫く陛下の腕の中に閉じ込められる。この小さな私の体が陛下に安らぎを与えられるなら、ぬいぐるみになるよ…
どの位経っただろう。陛下の腕が緩むと優しい微笑みを向けて手を貸してくれる。そして外に控える護衛のアイクさんを呼び、部屋に戻る事になった。扉まで行くと陛下が
「明日モーブルに吉報が入る事を願っているよ」
「吉報?」
陛下の言っている意味が分からず頭に疑問符を付けたまま部屋に戻る事になった。陛下は吉報と言ったけど私は嫌な予感しかしないんだけど…
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