感謝の品
バスグルまで後少し。急ピッチで準備する?
朝目が覚めるとフィラがベッドに腰掛け、私の頭を撫でながら資料を読んでいる。それは先日陛下から渡されたバスグル行きの資料だ。私も一通り目を通したが機密事項も無くフィラが読んでも問題ないだろう。起きた私に気付いたフィラは触れるだけのキスをして背中に手を添え起こし、背にクッションを置いてくれる。本当にこの世界の男性は女性をとても丁寧に扱ってくれる。それは貴族男性だけで無く平民の男性もだ。
『この習慣は元の世界にお持ち帰りしたい…』
そう思いながら甘いフィラの視線を受けていた。
「(バスグル行きの)資料を読んでいたの?」
「あぁ…ここでの事で何か不穏な動きがあれば妖精が知らせるが、バスグルではそうはいかないからな」
そう言い表情を曇らせた。その表情の真意が分からなくて戸惑っているとてん君が
『バスグル ようせいおうも ようせいも やんちゃ フィラ しんぱい』
するとフィラは溜息を吐いて真顔で向き合い
「アリアの妖精女王はまだ若い上に妖精の気質が強く、俺以上に奔放で人の機微に疎い。そして妖精達もここの妖精に比べ気が強いんだ。そんな処に行きお前が嫌な思いをするのではないかと不安でたまらない」
そう言い強く抱きしめた。バスグルについては本で読んだりグリード殿下から聞いていて何となく分かったけど、アリアの箱庭の妖精女王と妖精についての情報は無く全く分からない。フィラの発言を聞き不安が芽を出したら
「リリスもアリアと連絡を取り対処しているから心配するな…」
心配するなと言いつつ言葉を濁すフィラに不安を感じていたら、てん君が擦り寄りアリアの箱庭の妖精女王はイタズラ好きだから面倒だという。その言葉に面倒な事が起こる気しかしない。でもリリスやフィラ達が私の為に動いていてくれている事が嬉しい。
暖かい毛玉とフィラの抱擁にまったりしていたら、てん君がメイナさんが扉の外で困っていると言い、フィラに帰る様に言う。少し不満気なフィラは眉を顰めながら帰って行った。そして
「メイナさん起きてますよ。入って下さい」
そう告げると小さくノックをして恐る恐る入ってくるメイナさん。どうやらフィナさんやモリーナさんから朝フィラが来る事を聞いていたのだろう。疾しい事は無いのに真っ赤な顔をして現れたメイナさんに苦笑いし、身支度を手伝って貰う。
そして食事をしながら今日の予定を聞きバスグル行きを改めて実感する。食後直ぐにフィナさんとモリーナさんそしてお手伝いの侍女さんがわんさか来て賑やかにぎやかになる。
そうバスグルへは長期滞在の為、荷物がとても多い。今日は侍女さん5人がかりで身の回りの荷造りを行うそうだ。荷物は出発前日に港に送られるため、急ピッチで準備される。当初はもう少し後にバスグルへ渡るはずだったがグリード殿下の帰国が早まったり、3国の会談が予定より早く終わった為に出国も早まった訳。そのせいでお仕えの皆さんは上へ下への大忙し。
手伝おうと一緒に衣装室に行けばフィナさんに手を取られて部屋に戻された。お邪魔虫になってしまった私は、何処かに避難する事にした。どこに行こうか考えて…
フィル殿下の遊び相手になろうと部屋の外の騎士さんにお伺いを立てると、この時間は学びの時間で無理だと言われ行くところが無くなってしまった。仕方なく昼まで寝室で本でも読もうとしたら誰か来た。メイナさんが応対すると針子の責任者さんで、ゴードンさんの作業場まで来て欲しい言われた。
ゴードンさんはちゃんとエルビス様の許可を得ているし、何より暇なので受ける事に。
身なりを整え騎士さんに同行してもらい王城一番奥の針子の作業場へ。道すがら騎士さんと他愛もない話で盛り上がり、気分よく作業場まで来た。部屋の扉をノックするとゴードンさんが顔を出し、嬉しそうに部屋に招き入れてくれた。すると部屋には久しぶりの顔が見えて
「モナちゃん」
「多恵ちゃん」
モナちゃんと恋人のジャスさんが笑顔で迎えてくれた。手を取り合い久しぶりの再会に喜ぶ。興奮気味にモナちゃんが早口で近況を話す。
『元気になって良かった。って言うかやっぱり元がいいから凄い美人だ』
しっかり食べて睡眠が取れている様で、モナちゃんもジャスさんも凄いスタイルも良く美男美女で眩しい。2人が幸せそうで泣きそうになっていたら
「モナ嬢。嬉しいのは分かるが、まずは落ち着き座ろう」
ゴードンさんが珍しく冷静に声をかけてくれ、モナちゃんに手を取られソファーに腰掛ける。モナちゃんはずっと私の手を握りくっ付いてくる。
「急に御呼び立ていたしまして申し訳ございません。モナ嬢とジャスが帰国前に多恵様にお礼が言いたいと懇願しまして」
ゴードンさんは王室御用達の機織りの作業場で頑張っている2人に為に、エルビス様にかけ合ってくれた様だ。私も2人に会いたかったから嬉しい。ゴードンさんは2人の仕事ぶりを褒め、2人は恐縮し照れている。
モナちゃんの機織りの技術は知っていたが、どうやらジャスさんの染色センスも優れているらしく、貴族からの依頼が絶えないらしい。2人を褒めるゴードンさんを見ながら、いい出会いが出来た3人に心が温かくなる。
ほっこりした所に急にゴードンさんが表情を曇らせ、なぜか気まずそうだ。不思議に思い見ていたら、徐にゴードンさんが手を上げた。すると作業場の奥から針子さんがトルソーを運んで来て…
「へ?」
「禁止されているのは重々承知しておりますが、これだけはお許しください」
そうトルソーに綺麗なデイドレスが。エメラルドグリードとクリーム色のグラデーションがとても綺麗だ。デイドレスに目を奪われていると針子さんに試着を勧められて袖を通す。着心地が良く何より小柄な私が品素に見えない。感動していると
「これはジャスが染色しモナ嬢が織り上げました。2人からバスグルに向かう多恵様にプレゼントしたいと相談されまして」
これは2人からのプレゼントだった。嬉しくて2人と抱きつきお礼を言うと自分達だけでなく、繋がりのあるバスグル人達が少しづつお金を出し合ったそうだ。
「仕立てとデザインはゴードン様が無償で受けていただいたんです。私も今初めて見たんですが、流石王家御用達のデザイナーですね。多恵ちゃん綺麗だよ」
そっか…ドレス作成を禁止されていたから、申し訳なさそうだったのねゴードンさん。サプライズしてくれた2人と協力してくれたバスグルの皆さんに感謝し
「バスグルで(このドレス)を着ますね」
こうして暖かい気持ちで暫く3人との会話を楽しみお昼前に部屋に戻った。部屋に戻るとまだ荷造りは終わっておらず、いつもと違い従僕さんがお昼の準備をしてくれている。
メイナさんを呼んで先程のドレスも荷物に入れて貰う様にお願いする。するとメイナさんがアルディアからの伝書鳥が来たと言い手紙を渡してくれる。鳥が運ぶので手紙は小さい筒に入れられ文章は長く無い。筒から手紙を出すと、それはキースからだった。
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