婚約式
チェイスに怪しまれ困っていると救世主登場?
『グリード殿下は知らないフリをし、このまま去ろうとしている。だから』
グリード殿下と話した事はたとえ陛下であっても言わない。しかし何故かチェイス様の視線は厳しく、容赦なく私に突き刺さり疑いは晴れない。どう誤魔化そうか考えていたら救世主が現れた。嬉しい反面こちらも誤魔化さないといけなくて気が重い。タイミングよく部屋に来たのはダラス陛下で、入室するなり苦笑いをし
「チェイスよ。エルビスが探していたぞ」
そう言いチェイス様を下がらせようとする。まだ何か言いたげなチェイス様だったが、陛下の一言ですんなり退室して行った。すると陛下は私の隣に座り手を握り微笑む。
「チェイスは愛国心が強すぎるのだ。悪気はない故、許してやって欲しい」
「いえ…」
陛下はチェイス様が神経質になっている訳を話してくれた。
グリード殿下が先行してバスグルに渡った際に側近は数名しか同行しておらず、残りの側近は調整の為にモーブルに残っていた。その側近達は今回バスグルへ移住するグリード殿下と共に移り住む。どうやらその側近の数名がオーギス侯爵家やキーモス侯爵家の遠縁者だった。
事件後にオーギス侯爵家とキーモス侯爵家の家門は、進んで調査を受け潔白は証明されている。しかし過去に両家はバスグル貴族と取引し、農法や農具の技術を流出させていた事が分かっている。
「その者達は一族を恥じ改めてモーブル王家に忠誠を誓っている。しかし正直信頼は回復しておらず、慎重なチェイスは警戒しているのだろう。それ故に次期バスグルの王配となるグリードの動向が気になるのだ」
「事情は分かりました。疚しい事はしてませんから気にしていません」
そう言うと甘い微笑みをいただく。てっきり陛下にもグリード殿下と何を話したのか聞かれると思ったが、意外にも何も聞いてこない。そして約束した通り口説いてもこない陛下に戸惑っていると、陛下は二国の同行者も決まり5日後にバスグルへ渡る事が決まったと教えてくれた。アルディアとレッグロッドへは朝一に伝書鳥が飛び伝わっているそうだ。
そしてアルディア側はファーブス領の港に寄港するモーブルの船に乗り、レッグロッドはモーブル国境近くの街で同行予定の騎士が待機しており、モーブルの国営の港に移動を始めたそうだ。
問題山積でいつバスグルに渡れるのか不安だったけど、話が纏まるとあっという間にバスグル行きが決まった。ホッとしていたら私を見た陛下が優しい眼差しを向け
「貴女には感謝しかない。改めて礼を言おう」
そう言った陛下はハグをした。そしてベルを鳴らし入室した文官からバスグル行きの詳細が書かれた資料を受け取り渡してくれた。
「今急ピッチで同行する騎士と文官を決めている。恐らく騎士は専属の3名が同行する事になるだろう」
『えっ!ケイスさんはアイリスさんとの婚約があるのに…』
そう思い他の騎士さんをお願いしようとしたら、陛下は私の顔を覗き込んで笑いながら
「貴女の事だからホフマン卿を思い護衛から外す事を望んでいるのだろう⁈」
「!」
考えている事を言い当てられびっくりしていると、2人が急遽出発前に身内だけで婚約式を挙げる事を知らされた。
「多恵殿は自分の役目に集中してくれればいい。他の問題は我々が解決する」
「ありがとうございます」
皆さんの心遣いに感謝していたら、陛下の熱い視線に気付き困ってしまう。口説かないと宣言した陛下だが、眼差しはまだまだ甘く思わず視線を逸らすと突然!
“バチン!”
大きい音がして音のする方を見ると陛下の両頬が赤い。呆然としていると凄い勢いで部屋の外の騎士さんが突入してきた。実はこの音は陛下がご自分の頬を両手で叩いた音。凸して来た騎士さんは困惑しながら陛下と私を交互に見て対応に困っている。騎士さんの疑惑の視線が私に突き刺さり
『もしかして私が陛下を往復ビンタしたと思っている⁈』
慌てて事情を説明しようとするが、こんな時は言葉が上手く出て来ないし、陛下は胸に手を当て深呼吸し何も言わないし。益々ビンタ疑惑が深まると遅れて入って来たリチャードさんが状況見て苦笑いをし、一礼し他の騎士さん達を部屋の外へ連れて行ってくれた。
「陛下!何してるんですか⁈びっくりしましたよ」
「いや…私もまだまだだ。貴女への想いを封印したつもりだが、貴女の愛らしい顔を見ていたら想いが暴走しそうになってな… 己を戒める為に頬をだなぁ…」
陛下はそう言いバツが悪そうに笑いご自分の頬を撫でていた。直ぐにアイリスさんを呼び冷したタオルを用意してもらい陛下の頬を冷やす。両手で陛下の頬を冷やしタオルで包むと、また甘い視線をいただく。妙な空気にアイリスさんが咳払いをし思わず仰け反ると、陛下がしょんぼりしてしまった。気まずくなってきたら部屋に誰か来た。アイリスさんが応対すると、どうやら文官さんが陛下を呼びに来たようだ。陛下は溜息を吐きながらハグをし、私の髪をひと掬いし口付けを落とし帰って行かれた。
『口説かないって言ったのに甘いままなんだけど…』
まだ困惑している私に茶器を片付けていたアイリスさんが
「陛下からお聞きになっておられると思いますが、ケイス殿がバスグルに同行する事となりましたが…」
「が?」
一生に一度の婚約式を急遽挙げることになって悲しんいるのだと思ったら…
「私が同行したかったのです!ケイスだけ狡いわ」
そう言い地団駄を踏んでいるアイリスさん。愛しい人と離れ離れになるのを悲しむよりバスグルへの同行を望んでいたの? ブレないアイリスさんにほっこりしていたら、怖い顔して詰め寄りなぜ侍女は同伴しないのかと興奮気味に理由を聞いてくる。そんな事私に聞かれてもと思いながら荒ぶるアイリスさんを見ていた。暫くたってもアイリスさんの怒りは鎮火せずタジタジの私。そこに珍しい人が部屋に来た。
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