カナール国とユグラス共和国
アルディアの同行者を早く決めたいが…
夕食後にトーイ殿下がお見えになるので早めに食事を済ます。侍女の皆さんが痩せていく私を気遣い相撲取りの様に"食べろ食べろ"と沢山食事を用意する。元の体なら2人前くらいペロッと食べれるけど、この華奢な体に比例して胃も小さく食べれない。今晩も半分も残してしまった。
「あの…勿体無いから食事の量を減らして下さい」
「まぁ!これ以上減らしてしまうと、更にお痩せになってしまいますわ」
いやいや…出されても食べれないから意味ないのよ。そう思いながら頑張って食べ終え、お腹をさすりながら席を立ちソファーに移動する。食後は猛烈に眠い…気苦労の多い最近は特に疲れている様で、ダッシュで睡魔がやって来る。座りながら船をこいでいたらトーイ殿下の先触れが来た。
眠い目を擦りながらお迎えする。
「…」
私を見るなり溜息を吐き眉間の皺を深めるトーイ殿下。そして私の手を取りソファーに座る。
後にチェイス様から聞いたが、私の疲れ具合にトーイ殿下がモーブル側に配慮するように苦情を入れたようだ。
そんなに酷い顔してるのかなぁ…
「お疲れの所、お時間いただきありがとうございます」
「いえ。私が面会を願ったので気にしないで下さい」
そう応えると殿下が遅くならないようにと、雑談をせず本題に入る。
「夕刻に陛下から許可を得たのであの事に付いてお話させていただきます」
そう言い座り直した殿下につられ私も姿勢を正す。どうやら私がアリアの箱庭に渡ることを知った、アリアの箱庭のカナール国とユグラス共和国が取引のあるアルディアの貴族に接触を図り情報収集をしているらしい。
「この事に初めに気付いたのはキース殿。彼は直ぐに陛下に報告し、話を聞いた陛下が暗部の者に調べる様に命じられた。どうやらこの二国はあわよくば乙女の知識を得ようとバスグルへ秘密裏に使者を送った様です」
ルーク陛下はカナール国とユグラス共和国が私に接触し、自国の男性との縁を結び私をアリアの箱庭に呼ぼうとしているとお考えだ。だからアルディアはそれを阻止する為に同行者を増やしたい訳だ。
『アルディアはそんな誘惑に乗っちゃう女だと思ているって事?』
今でもこれ以上婚約者を増やさない為に苦労しているのに、アリアの箱庭で誰かと恋する訳がない。話を聞いてブルーになった私は拗ねてしまう。すると気が付いたトーイ殿下は慌て出した。そして一生懸命言い訳するトーイ殿下。
「多恵殿がリリスを敬愛し、この箱庭を大切に思い安寧を願っている事は重々承知しております。しかし貴女は魅力的だから我々は不安になる。その気持ちは理解いただきたい」
真剣な眼差しを向けるトーイ殿下。分からなくはないけど、だからってアルディア側の希望は受け入れられない。どうやってアルディア側をどう説得すればいいの? 早くバスグルに行き王妃様の最後の時間を作ってあげたい。だって私がバスグルに出発しないと陛下は王妃様の元へ行けない。
トーイ殿下の話を聞きながら、眠気がとんだ頭でフル回転して考える。そして
「経緯は申し上げられませんが、私は女神アリアに貸し?があります。アリアはカナール国とユグラス共和国に私が嫌がる事は絶対させないはずです。これについてはルーク陛下に報告いただいてもいいです。私はリリスが召喚した乙女。だからこの箱庭以外に行くつもりはありません。それよりバスグルの問題を解決するために早く渡りたいんです。同行者の人数で揉めている場合ではないの」
そう告げると驚いた顔をするトーイ殿下。そして視線を落とし考え出した。私は殿下の考え中の間に美味しいお茶を頂きながらお言葉を待つ。どの位待っただろう。やっと顔を上げた殿下は
「この件については私が陛下から一任されています。多恵殿のリリスの箱庭を思う気持ちはよく分かりました。我々アルディアは貴女に絶対の信頼がある。貴女の意思を尊重しましょう」
やっとアルディア側が折れてくれた。こうしてトーイ殿下と話し合い騎士を2名と侍女の代わりに女性騎士1名の同行を決めた。レッグロッドも同じでいいだろう。モーブル側は書類の作成やらで文官さんの同行が必要だから、もう少し増えるだろう。最終は総勢12名程で落ち着く?
やっと話がついて気が楽になり、だらしなくソファーに沈むと笑いながらトーイ殿下が
「レッグロッド側を説得する時も私が同席し加勢しましょう。そして1日でも早くバスグルへ」
「ありがとうございます」
こうしてアルディア側が折れてくれ次はレッグロッド。カイルさんは軽そうに見えて保守的な所がある。こっちの説得も骨を折りそうだ。
「バスグルへの同行者選任はお任せいただけますか?」
異論はないと告げるとまた考え込むトーイ殿下。トーイ殿下が主になり決めるなら、またトーナメントが行われるのだろう。皆さんが怪我のない様に決めてもらいたい。
やっと穏やかな表情になった殿下と暫く雑談した後に、ルーク陛下に報告すると言いトーイ殿下は部屋にお戻りになった。
一息付く間無くフィル殿下とグレン殿下の元は急ぐ。部屋を出ると付き添いのアッシュさんが無言で私を抱き上げ足早に廊下を歩く。“下ろして”なんて言える雰囲気では無く、お口チャックの私。そんなに窶れているかね⁈
やっとフィル殿下の部屋に着くと殿下は少し興奮気味で寝かしつけるのに時間を要した。目が合った乳母さんの目の下に隈が目立つ。お疲れの乳母さんを労い次はグレン殿下の元へ。途中合った従僕さんにフィル殿下の乳母さんに甘い物の差し入れをお願いしておいた。すると足早に歩くアッシュさんは真っ直ぐ前を見たまま
「人を思いやれる貴女は素晴らしい。ですがまずはご自分を大切になさって下さい」
とまた痩せた事を心配される。生まれて初めて”太りたい”と思った自分に驚いていると、廊下の先にグレン殿下とシリウスさんが目に入る。嫌な予感がするのは気のせいだろうか。
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