危篤
陛下の決断に驚きながら…
「初めに言っておくが、私が生涯愛するのは貴女だけだ」
「え?あ…はい」
陛下はそう言って立上り再度私の隣に座り手を握った。まだ状況が把握できない私は陛下のお顔を見ていた。すると甘いチョコ菓子を私の口に運び微笑みながら陛下はゆっくり話し出した。
「何から話そうか…そうだな。心の底から貴女を愛し求めているのに、何故王位を退くまで求婚しないからだな」
そう言い今度は私のティーカップを取りお茶を飲ませ、楽しそうに私の世話をしながら陛下は話を進める。
王妃様の元へ到着後に話す場を設け想いを素直に話し、互いに伴侶として愛情ある事。そして王妃様はグリード殿下を陛下は私を心から愛している事を告白した。そして王妃様は愛するグリード殿下が新たなパートナーを得て、幸せを掴む事を大変喜ばれグリード殿下を思い、病状と終わりが近い事を隠して欲しいと願ったそうだ。
「きっとグリードもシャーロットを心から愛しているはず。愛する者の最後を知らないのは酷な事なのはよく分かっている。しかし私は彼女の想いを尊重したい」
そう言いグリード殿下がバスグルに帰るまで王妃様の件は秘密にする事をお決めになった。
「ずっとシャーロットとまともに話しておらず、彼女も私も話したい事が多く、食事や休息も取らず語り合った」
そして王妃様が死を間近に恐れているはずなのに、気遣う事は陛下や殿下そしてモーブルの事ばかり。そうシャーロット様は王妃…国母として国を憂いていた。
「死を間近に自分の事より国を思う彼女をみて、私は恥ずかしくなったのだ。初めて得た愛に溺れ王としての自覚を失いかけていた。まずはバスグルとの関係を再構築し国を建て直さねばならない」
陛下はそう言い真っ直ぐ私を見据え真剣な眼差しで
「私は貴女の婚約者や求婚者達と立場が違う。妃に迎えるなら一番にモーブルを優先できる女性でなければならない。しかし貴女はリリスの役目と、複数の夫を迎える事を求められている。そんな貴女にモーブルの国母になって欲しいとは言えない。だから…」
つまり陛下は憂いなく私との縁を結ぶために、王位を王子に継ぐまで求婚しない事を決めたのだ。そう言えばアーサー殿下の求婚を断ったのは次期王である事が理由の一つだった。
色々考えお決めになった陛下。だけどこれだけはちゃんと伝えておかないと…
「陛下のお気持ちは分かりました。でも王を辞され求婚されてもお受けできるか今は分かりません。それにその時ここいるかも分からないし…」
そう言うと目を細め極甘な雰囲気を醸し出した陛下は私の頬を撫でて
「もう私の心は生涯貴女以外に向かない。もし受け入れてもらえなくてもだ。貴女はその時の素直な気持ちで決めればいい。勿論受け入れてくれれば私の人生は最高ものとなるだろう」
目の前の陛下は男の色気満載で視線を合わせられない。視線が泳ぐと陛下は私は頬を優しく両手を包み
「貴女の澄み綺麗な瞳に私を映して欲しい。そして長い試練に耐えれるように…」
そう言った陛下は更に顔を寄せて
「長きに渡り想いを封印し貴女に愛を囁かないのだ。その長い間耐え抜ける様に口付けを与えて欲しい」
普段の私なら想いを受けれるか分からなければ拒否するのに、何故か断る言葉が出てこない。無反応の私に陛下は拒んだと思ったようで少し離れた。
「あ…」
「多恵殿…」
少し離れた陛下に無意識に私から口付けた。自分でもなんでこんな事したのか理解不能だ。固まる私に陛下は微笑み優しく触れるだけの口付けをした。欲情を含まない優しいキス。口付けられると何故か優しい気持ちになる。
陛下は瞼や頬に口付けを落とし嬉しそうに微笑んだ。余りにも嬉しそうに微笑むから恥ずかしさが増す私。すると陛下は甘い甘いセリフを囁き見つめる。
「今与えてくれた口付けは、私を受け入れてくれたものでは無いのは理解している。だがやはり歓喜に心震え叫びたい気分だ」
口付けをやめた陛下は私を腕の中に閉じ込めた。陛下の腕の中は熱くその熱は陛下の想いなのだと感じていた。それに比べて中途半端な自分に凹んで俯いてしまう。すると陛下が
「やはり貴女は純粋で優しい。貴女の心が私に向かないのは、私の自身の問題で貴女に落ち度はないんだ。そこに罪悪感を感じないで欲しい」
「でも…」
「王位を退きただのダラスになるまで、男として精進し貴女が惚れる男になるよ」
今でも十分魅力的で素敵な男性だと伝えると、陛下は眉尻を下げて
「いや求婚するのは早くて15年先だ。どんなに精神を鍛えてもその頃には容姿は老いているだろうなぁ…」
「大丈夫です。その時は私もおばさんになってますから」
そう言うと頬を緩めて口付けいつもの陛下に戻った。それを見て安心した私は陛下のこけた頬が気になり
「お痩せになる程、大変だったのですか?」
「妖精王から何も聞いていないのか?」
聞いてないと答えると陛下は驚く事を話し出した。話を聞き一瞬息が止まり血の気が引き眩暈を起こした。陛下がすぐに支えてくれ
「安心してくれ。妖精王が妖精国の森深くにある、稀少な薬草を分けて下さり危険な状況は脱し今は落ち着いている」
そう。陛下のお戻りなられる朝に王妃様の容体が急変し、王妃様は危篤になっていたのだ。思わず心の中で
『そんな重大な事は教えてよ!』
と叫んだ。




