贈り物
避けていた王妃の話を振られて挙動不審になる多恵。上手く誤魔化せるのか?
必死に平然を装い微笑みながら
「どこがですか?」
「まずシャーロットが身内を理由に城を空けるのはおかしい」
緘口令が出されグリード殿下の耳に王妃様の件は入っていない。しかし皆さん殿下に知らせない為に、気を張り口を閉ざしている。その様子は反対に殿下に違和感を持たせたようだ。
「でも流石にお父様の調子が悪いとなれば、見舞に行くのは当然だと思いますよ」
必死にそれなりの理由付けをして話題を逸らす。だが殿下は王妃様は強い決意で王国に嫁ぎ国を優先すると誓った。その彼女の行動とは思えないと言い出す。確かに王妃様も同じような事を言いっていた。
鋭い殿下を誤魔化す為の話術も知識もない私は返答に困り、必死で話題を変えるがすぐ王妃様の話に戻ってしまう。それにあまり露骨に話題を変えると、反対に怪しまれるので難しい。
『ダメだ…長く話すとポロリしちゃう!』
とても卑怯で気の小さい私はグリード殿下の気持ちよりこの場を凌ぐ事しか頭にない。ない頭をフル回転しながら攻防戦を耐えていた。すると…まじまじと私を見ていた殿下は
「私は乙女の伴侶に決まった時にシャーロットに会いに話しをしました。そしてお互いの想いを素直に語り合い、まだ心から愛し合っている事を確かめ合いました。しかし私達は結ばれる運命に無くお互い別のパートナーを得た。これからはパートナーを慈しみお互い自分の責務を果たす事を誓い合ったのです。それなのに国賓を迎えるこの時期に城を空けるなんて信じられない」
そう言い私の返しを待つ殿下。ここまで話してくれたのに言えない事に罪悪感を感じ何度も真実を言いそうになる。でもあと数日で陛下が帰城されるんだ。それまで何とか貝になり耐え抜きたい。そして作り笑いを続ける私の表情筋がそろそろ限界が来た。心の中で『助けてー』と叫んでいると、溜息を吐いたグリード殿下が…
「ここに来る前にチェイスから2日後に陛下が帰城されると聞きました。兄上が戻ったらまず素直な多恵殿に緘口令を出した事を抗議します。恐らくシャーロットと兄上に何かあったのでしょう。本当は気になって仕方ないのですが、兄上が帰って来るのでこれ以上追及しないでおきます」
「グリード殿下…」
察してくれた殿下がこの話題の終了宣言をしてくれ、全身の力が抜けて軟体動物の様になる。すると目の前の殿下は笑いながら
「そんな悲壮な顔をしないで下さい。貴女を責めている訳では無いのです」
そう言いテーブルの焼き菓子を私の前に置いた。疲労困憊の私は無意識にクッキーを口に運び紅茶で流し込み糖分をチャージする。殿下も一息ついたようでお茶を飲み暫し休憩。少しすると殿下は徐にベルを鳴らし従者を呼び何か指示をした。暫くすると従者が荷物を持って入室し殿下に荷物を渡す。
「遅くなりました。ビーから多恵殿に贈り物です」
殿下からプレゼントを受け取りお礼を言うと殿下は、ビビアン王女が友好国の第5女神の箱庭に行った際に、私の為に買い求めてくれた物だと話した。それはリリスの箱庭には無く大変珍しいモノらしい。どんなモノなのか殿下に聞いたら何故か真っ赤な顔をし珍しくしどろもどろになる。王妃様の話しを回避できて気がゆるゆるの私は、何も考えずにプレゼントを開けようとリボンに手をかけたら
「あっ開けるのはお部屋に戻ってからにして下さい」
そう言いリボンを持つ私の手を掴み開封の阻止をした。
「?」
殿下の態度が気になったがまた何も考えていない私は、素直に頷きテーブルの隅にプレゼントを置いてまたクッキーを頬張った。
ほっとした顔をしたグリード殿下はバスグルの現状を話してくれる。
バスグルは農作物が育ちにくく自給率が低い上、財政がよく無く常に食料が足りていない。農業大国で育ったグリード殿下には衝撃的だったようだ。
「アリアの箱庭にはバスグルの他に2国とこの箱庭と同じく妖精国がある。他の2国は産業を発展させ輸出に力を入れ外貨を得て食料を輸入している。詳しくは知らないが過去の柵に囚われているバスグルは時が止まったままなのだ」
殿下の話を聞き脊椎動物に戻り姿勢を正す。殿下の感じから聖人の話やアリアが召喚をしなくなった経緯までは聞かされていないようだ。
『そうだろうね。いくらビビアン王女が夫に望んでいても、まだ婚約者すらないグリード殿下に国の黒歴史を話せるわけが無い』
まだ事実を知らない殿下はバスグルの内情が理解出来ない様で難しい顔をしている。全て知っているのに言えないのは中々辛いものがある。早くモーブル側と話をつけてバスグルに渡らないといけない。
まだまだ問題山積で改めて思う。歴代の異世界人でこんなに働いているのは私だけのような気がする。気が付きたくなかったがリリスの箱庭はかなりブラックかもしれない。遠い目をしていたら誰か部屋に来た。グリード殿下が入室許可を出すと文官さんが入ってきて、殿下に面会の申し込みがあったと伝える。
粗方話が終わっていたので私はここで失礼する事にした。立ち上がると殿下はハグし見送りをしてくれる。そして何故か何度もプレゼントは部屋で1人で開封するように念押ししてくる。
『なになに⁈ そんなにやべーモノなの?』
少し恐怖を覚えプレゼントをリチャードさんに持ってもらい部屋に戻る。確か第5女神のカノの箱庭は気温が高く陽気な人が多いと本で読んだことがある。そんなお国の土産って? 色々想像しながら部屋に着き、寝室に籠りドキドキしながらプレゼントを開封する。
「箱庭に来ていろんな事があったから、ちょっとの事では多恵さんは驚かないよ!」
そう言いながら箱を開けると…
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