ニキビ
大好きなホワイトチョコを沢山食べ大満足な多恵。しかし少し心配な事があり…
「チェイス様チョコありがとうございました。美味しく頂きました」
朝一部屋にチェイス様とエルビス様がお見えになった。昨晩頂いたチョコのお礼を言うと、エルビス様が港町のチョコラーテの店主が献上してくれて物だと教えてくれた。どうやら開発中だったホワイトチョコが完成したらしく、献上してくれたそうだ。ホワイトチョコは他のチョコに比べ生成が難しいらしくまだ大量に作れないとの事。それなのに沢山のホワイトチョコを献上してくれた。
『私が大好きだと言ったからだ。後でお礼の手紙を書かないと…』
「早速ではございますが…」
チェイス様が本題に入りすっかりチョコ頭になっていた私は慌てて姿勢を正し、頭をお仕事モードに切り替える。そしてエスビス様から資料を受取り目を通すと…
「こんなに貯め込んでいたのですか⁉︎」
「はい。これを売却すれば見舞金の財源は十分あります。ただ…」
「?」
そう、逃亡したオーギス侯爵家とキーモス侯爵家から没収した財産はかなりの額になり、問題無く見舞金が用意できそうだ。後は見舞金を幾ら支払うかを決めなければならない。
話を聞きながらふと疑問に思った。没収した領地はどうするのだろう?
チェイス様に聞くと領地は元々は王より与えられたもので、陛下の承認を得ないと勝手に売却をしてはいけないそうだ。
「では今回の二つの領地はどうなるんですか?」
「次の領主が決まるまで国が管理し、後に功績を上げた者に与える事となるでしょう」
今回の問題が全て解決したら貢献した者達の陞爵、そして領地や褒賞が与えられる事になる。それを含む後処理が多いお二人は痩せてしまい心労が見て取れ、心の中で『お疲れ様です』と呟いた。
「見舞金についてですが…」
チェイス様の資料を見ながら見舞金の算定基準について話し出した。お二人は遺族に対し一律で払えばいいと言うが、それでは遺族から不満が出そうだ。だって半年で亡くなった人と長期間働き亡くなった人が同額なのは納得できないと思う。そこで提案してみる
「《基本額+モーブル在留期間(年)×保障額(年)》とし、長く滞在した人には多く支払うのはどうでしょう」
流石宰相と宰相補佐を勤められるだけあり、私の意図を直ぐに理解いただき賛同してくれた。こうして算出方法は決まり後は基本額と保障額(年)を決める事となった。お二人はモーブルの労働者の賃金を調べてくれていて、その額を基準に算出しようと言う。しかし…
「モーブルとバスグルでは物価が違いますよね。モーブルの基準で支払うと多すぎるのでは? 反対に見舞金を多く払い過ぎると帰国する者との差が大きくなり、遺族との間に軋轢を生む可能性があります。その辺も考慮しなければ新たな火種を生んでしまいます」
「「!」」
お二人は驚いた顔をしてメモを取っていた。やはりリリスの言った通り新しい事を考え出すという事を、してこなかった彼らにはそこまで思い付かなかった様だ。
こうして再考した後にまた打合せする事としお二人は退室された。気が抜けソファーに寝転がり一息吐くとモリーナさんが甘い香りのお茶を入れてくれた。本当はチョコが食べたいけどあと少しでお昼なのと、昨晩チョコを沢山食べたので我慢している。だってこれ以上食べるとニキビが出来てしまう。
『もしかしたら、この世界に【ニキビ】は存在しない?』
そう箱庭の皆さんは肌が綺麗。思春期の若者も肉体労働のおじさんもツルツルできめの細かい肌をしている。きっと虫眼鏡でないと毛穴も見えないだろう。
でも私は異世界人だから気を付けないと直ぐ出来てしまう。だからチョコを食べたいけど甘いお茶で我慢した。
昼食後、少ししてグリード殿下の執務室へ。食後で眠い目を必死に開き廊下を歩く。隣でエスコートするリチャードさんがずっと半笑いだ。仲良くなって分かったがリチャードさんは私の事を愛猫か愛犬の様に見て密かに和んでいる。いつか淑女っぶりを見せつけ"ぎゃふん"と言わせたい。そんな事を思いながら歩いていると、向かいからシリウスさんが歩いて…いや走って来た。そして周りからため息が上がるほどの微笑みを湛え手を取り口付けた。不意打ちに頬が熱くなるのを感じ思わず手を引いた…がぎゅっと握られてしまう。
「どちらに?俺は任務明けなのでお送りしましょう」
「あ…お疲れ様でした。グリード殿下の執務室へ行くところです。ありがとうございます。でも騎士の皆さんが居て下さるので大丈夫です」
そう言ったのに微笑んで誤魔化したシリウスさんにエスコートされ歩き出した。リチャードさんに視線を送るとまた含み笑いをしている。気力も無く諦めて執務室へ急ぐ。
シリウスさんは道すがらグレン殿下の様子を教えてくれた。周りは心配していたが、案外落ち着いていらっしゃるそうで安心する。でも2日ほどしたらまた不安になり、夜にお呼ばれするかもしれない。すると覗き込んだシリウスさんが
「お聞きしてはいけないのかもしれませんが、グリード殿下にどのような用向きなのですか?」
「私も分からないんです。お話があるとだけ… ちょっと怖くて戸惑ったら"大した事ではない"と仰ったのですが…」
そう言うと少し表情を曇らせたシリウスさんは怖い事を言い出した。どうやらグリード殿下の”大した事ない”はあてにならないそうだ。やっぱり面会を断ろうかと思ったが、既にグリード殿下の執務室に着いてしまった。
私の顔色が変わった事に気付いたシリウスさんは同席しようかと聞いてくる。でもバスグルの話ならシリウスさんが立ち会うのはまずいはず。
「大丈夫です。多分…」
自信なさげにお礼を言い執務室の前で分かれた。そして
「お時間いただきありがとございます」
「いえ、移動の疲れは取れましたか?」
殿下と簡単な挨拶を交わし着席したら人払いがされた。緊張しながらグリード殿下の話を聞くと、バスグルでの生活は問題ない様で、着々と人脈を作り王配となるべく努力されている様だ。少し安心し本当に大した事ないのかもと思い出したら
「恐らくビビアンから聞いていると思いますが、このモーブルとの問題が解決したら婚姻式を挙げ、バスグルに永住する事になる」
「おめでとうございます」
これについてはビビアン王女から手紙をもらい知っていた。知り合いが幸せになるのは本当に嬉しい。ほっこりしていたら
「今回の帰国でシャーロットにこの事について話をしたかったのだが、城内が何かおかしいのです。多恵様何かご存じありません?」
『!!』
無防備な私はフリーズしてしまう。
シリウスさん。やっぱり大した事じゃなかったよ! どうするよ!私…
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