秘密の話
予期せぬフィラの登場に焦ったが…
フィラはてん君を見て状況が分からない様で戸惑っている。フィラが突然登場したのに全く動じないアイリスさん。彼女はフィラにお茶を出して一礼し、あっという間に部屋の隅に下がって行った。相変らず完璧な侍女さんに苦笑いしていると、フィラが隣に座り抱き寄せて
「てんが狼狽えているが何があったか?」
「実はね…」
フィラの嫉妬心に火を着けたくなくて、かなり話を希釈して話した。すると珍しくフィラの膝に座ったてん君が思念でフィラに
『たえ シリウス ごめん しよとした でも シリウス なきそう たえ ごめん やめた』
まだまだ幼児並みの会話のてん君の話をすぐ理解したフィラは溜息を吐いて
「相変わらずお人好しだなぁ多恵は」
「だって!」
「てんには複雑な人の感情を理解するのは難しい。まぁ俺も苦手だがな」
フィラはそう言いてん君を珍しく優しく撫でた。てん君も嫌がらずフィラに身を任せる。そして反対の手で私の頭を撫でて微笑んでくれた。そして少しの沈黙の後に
「てんが言う様にアーサーとシリウス。何が違う? 俺ほどでは無いが2人共に容姿や身分、能力も高い。他の女なら飛び付く縁組だ」
「言葉にしにくいけど、感覚?相性的な?」
自分でもはっきり分からないのに、フィラが分かるはずがない。そう思ってまた黙ってしまった。
「俺は多恵がどんな奴を選ぼうと興味がない。多恵に不義な事をしたり泣かせ無い限りとやかく言うつもりはない。どんな時もお前が幸せならそれでいい。俺が思うに多恵は元の世界の常識に執われ初めから諦める所がある。お前は女神の乙女なんだ。人や生き物を殺めたり呪ったりしなければ、何をしても許される。だから愛した男は皆んな夫に迎えればいい。極端な話100人でも誰も文句は言わないさ」
「そんな事したら確実に早死にしちゃうよ」
そう言うとフィラは笑った。
フィラの見立ては案外合っていて、やっぱり元の日本の基準でものを考え無意識にブレーキをかけてしまう所が私にはある。フィラは婚約者や求婚者がいいと言うなら気にする事は無いと言う。
「でもそうなると夫が増えて、フィラとの時間が減っちゃうよ」
「俺は妖精王だぞ。他の夫達より優先されるべきだ」
当たり前だというフィラに残念なお知らせ。
「私の夫達に身分・順番は関係なくみんな平等だよ」
「!」
目を見開き固まるフィラをてん君が見上げて呆れた顔をしている。その表情が面白くて一人笑う。するとフィラは触れるだけの口付けをして微笑んで
「まぁ深く考えずいつもそうやって笑っていろ。問題は夫達で考え対処する。俺らはお前がいつも笑い幸せならそれでいい」
フィラがそう言ってくれた事で少し気が楽になった。リリスの役目は予想していたより難しく、危険な目や悲しい思いも沢山した。頑張ってる私はフィラが言ったみたいに好きにしていいよね。
『たえ やっと いいかお それ いいこと』
てん君はフィラの膝から私の膝の上に移動し、尻尾を振ってすり寄って来た。最上級の可愛い顔にキュン死しそうだ。
やっとてん君も私も落ち着いたところで、フィラは帰って行った。
フィラが帰るとアイリスさんが茶器を片付けながら視線を送ってくる。何か話だろうか? アイリスさんに耳を傾けると
「私などが意見するべきではありませんが…」
「いいよ言って」
すると片付ける手を止めて姿勢を正し
「私は妖精王のご意見に同意いたします。女神リリスが複数の伴侶を迎える事をお認めなのです。それに罪悪感を感じる事はございません。多恵様を想う者達はそれを全て受け入れた上で、多恵様の伴侶になりたいのです。多恵様は愛する者に愛を与えればいいのです」
アイリスさんもフィラと同じ考えだ。でも私は女神じゃ無いから、皆んなを平等に愛せないと思う。それなのに沢山迎えても… またもやもやしてきたら
「人は自分の精神状態や環境、立場で心持ちが変わります。昨日はその男性の事でいっぱいだったとしても、翌日ふとした事で気持ちが半減したりするもの。則ち人の気持ちは変動します。だから沢山話し互いを知り、時には距離を置いて自分の気持ちを再確認し愛を深めるものなのです」
アイリスさんは一生懸命思いを伝えてくれる。言いたい事はよく分かるけど…
どうしていいか分からず俯くと、視線の先にてん君がいて眉間に?皺を寄せて前脚で私を叩いて
『たえ むずかしい かんがえ すぎ』
『へ?』
『すき きもち いちばん それだけ なに なやむ?』
てん君はうじうじする私にイラついたのか、パンチを連打している。それを受けながら
「私が好きになったら受けていいのかなぁ…」
そう呟くと表情を明るくしたアイリスさんとてん君が同時に頷き、シンクロする2人に笑いそうになった。
「てん君。女の子だけの話をアイリスさんとしたいから、戻って少しだけお耳塞いで待ってて」
そう言うとてん君は頷き、私の膝から降りてアイリスさんの足元に行き、アイリスさんにすり寄り尻尾を振った。アイリスさんはてん君の言葉が分からないけど、嬉しそうにてん君を撫でて
「多恵様の事はお任せ下さいませ」
『アイリス たえ おねがい』
こうしててん君には一旦戻ってもらった。そしてアイリスさんと2人きりになり、女の子の秘密の話をする。アイリスさんはとてもいい顔をして耳を傾けてくれたので…
「閨に関する事なんだけど、ここだけの話にしてね」
「勿論ですわ。主人の秘密は死んでも話しませんわ」
アイリスさんを信用し話をした。最後まで口を挟まず聞いたアイリスさんは
「女は気持ちが伴わないと、あの行為は苦痛でしかありません。夫達の欲を満たすために妻が我慢する事はありません。多恵様が心身共にお迎えにしたいと思えた時だけでいいのです。それが不満なら離縁し新しい妻を迎えればいいのです。まぁ皆様は多恵様にご執心ですから、そんな事言うお方はいらっしゃりませんわ」
「そうかなぁ…」
そう言うと溜息を吐いたアイリスさんが自己評価が低いと嘆き、恥ずかしくなるくらい褒めてくれた。
沢山フィラ達に話を聞いてもらい複数の夫を迎える事に前向きになったけど、夜の方が不安になりアイリスさんに話を聞いてもらったのだ。恐らく絶倫の彼らをまともに相手をしていたら、その先は腹上死がまっている。それは嫌すぎる。
アイリスさんはフィラと同じ様に、私の好きにすればいいと言ってくれた。少し気持ちが前向きになった所で夕飯の時間になった。給仕の手伝いの侍女さんが来たので話を終え、食事を用意してもらい美味しい食事をいただき早めに休む事にした。
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