ふる?
意を決しある事を告げる事にした多恵だが…
デレだしたシリウスさん。思わずご立派なシリウスさんの胸を両手で押して距離を取る。
そして深呼吸して
「グリード殿下が帰城されグレン殿下とお会いになる時は事情を知る誰かが付き添い助けてしてあげてください。恐らく変に意識した殿下は挙動不審になると思うので」
シリウスさんのアプローチを逃げる為にそう言うと、不機嫌な顔をしたシリウスさんは溜息を吐いて
「貴女は俺の想いを知りながらそれを告げる機会をくださらない。俺は不快なのか?」
「そんな事ないけど… 貴方は優しく素敵な男性です。でも今はリリスの役目でいっぱいいっぱいで誰かの想いを受ける余裕がありません。それに…」
"これ以上婚約者を増やすつもりはない!"と言いきればいいのに何故かその一言が出ない。だってシリウスさんに想ってもらえるのは正直嬉しい。日本での私は容姿はイマイチでモテた事が無く、恋愛経験も少ない。だから男性に想ってもらえるのが嬉しい。
『なんか相手の気持ちを知っていて拒まないって性格悪いよね…。後少しでバスグルに行き、多分シリウスさんはモーブルに残るはず。だって今のグレン殿下にはシリウスさんが必要だから。だったら今振ってしまった方が』
咄嗟にシリウスさんを振る決心をした私は座り直し、真っ直ぐシリウスさんを見据え大きく息を吸って…
「待って下さい」
立ち上がったシリウスさんは指で私の唇を押え発言を遮った。思っても無かったシチュエーションに固まると、眉尻を下げたシリウスさんが泣きそうな顔をして
「俺は今から…フラれるのか⁉︎」
そう言い肩を落とした。高速で罪悪感が押し寄せ決心を鈍らず。でも本当にこれ以上伴侶を増やす訳には行かなくて… 次の言葉が出て来なくてお互い見つめ合い沈黙する。私の決意はもうへなちょこになり、逃げようとしたら
「俺は…嫉妬深いが貴女の夫になれるならどんな事も我慢できる。他の夫達を優先してくれていい。貴女の気が向いた時だけ俺を愛してくれればいい。多くは望まないし子も産まなくていい。【夫】という名誉が欲しいんだ。あ…でも1度だけでも夜を共に出来ればそれでいいんだ」
あんなに勇ましい騎士のシリウスさんがおやつを強請る小さい子供の様に、上目づかいで見上げて懇願する。またしてもギャップにやられてしまった。今から振るのに思わずシリウスさんの頭を撫でてしまった。
『私ってチョロい?』
ホストクラブとか行ったことないけど、行ったら確実にホストにはまり貢んだろうなぁ…。知らない自分の一部を知り考え込んでしまった。すると頭を撫でている私の手を取ったシリウスさんは顔を上げた。目尻を下げ甘い顔をしたシリウスんは私を腕の中に閉じ込めた。
『しまった。お断りするはずだったのに!』
大きなシリウスさんの腕の中に閉じ込められ、もうお断りする雰囲気ではない。こうなると小心者の私は拒む事が出来ない。
困っているうちに他の求婚者と違うシリウスさんの香りに心は落ち着き、もうどうでもよくなって来た。きっといつもあのマントをひざ掛けにしているからだ。
『困った…バスグルに行く前に決着をつけて、バスグル行っている間に気まずさが無くなると目論んだのに…』
意思の弱い自分に溜息を吐く。結局現状維持のままとなり、激甘なシリウスさんに甘やかさて考えるのをやめた。少しすると心配したアイリスさんが部屋に突入し、疲れ顔の私を見てシリウスさん追い返した。何も言わずアイリスさんは甘い香りのお茶を入れてくれ部屋の隅に控えてくれる。
『こんなんじゃ陛下も振る事が出来ないのでは…』
自分の意思に反し婚約者が増えて行きそうで怖い。思考停止した私にてん君が呼んで欲しいと何度も声をかけてくる。あまりにも必死なので呼ぶと…
『たえ こまってる?』
そう思念で話しかけ首をかしげるてん君。最上級の可愛さに癒されていると再度質問してくるてん君。返答に困っていたら
『ひと ひと すき いいこと なに なやむ?』
『でも沢山の人を受け入れる度量が私にはないし、夫同士が喧嘩になってしまうのは嫌だ』
『てん わからない アーサー たえ すぐ ごめん した』
てん君にそう言われ固まる私。確かにアーサー殿下やヒューイ殿下は早くから《違う》と感じ断る気満々だった。狼狽えていると更に質問するてん君。
『シリウス アーサー なに ちがう? どっちも たえ だいすき』
『…』
尻尾を振って私の返事待ちをするてん君。中々返事をしない私に顔を覗き込んで慌てだす。どうやらてん君の質問で私が悲しんでいると思った様だ。そして…
"バン"
『なにしてるの!』
てん君は自分の前脚で自分の顔を叩いている。慌てて止めると
『てん たえ まもる でも かなしい した わるい』
そう言い耳と尾を下げ瞳を潤ませ謝って来る。てん君は悪くないと何度も言い聞かせるが、人の機微に疎いてん君に中々分かってもらえず困ってしまう。一頻てん君を宥めたがダメで困っていたら
「多恵様。何かお困りですか?」
隅で控えていたアイリスさんが心配し話しかけて来た。思念で会話しているから内容が分からないが、ただならぬ様子に声をかけてくれたようだ。傍から見たら涙目のてん君を私が叱責している様に見えるだろう。まだてん君は落ち着かずテンパる私。するとアイリスさんが
「状況が読めませんが、てん殿がお困りの様子。妖精や聖獣の事なら妖精王にお越しいただいた方が…」
「いや!待ってそれは…」
"ビュー"
風が吹いてあのお方が登場してしまった。
『あ…シリウスさんの件、話す事になっちゃったじゃん』
お読みいただき、ありがとうございます。
続きが気になりましたら、ブックマーク登録&評価をよろしくお願いします。
『いいねで応援』もポチしてもらえると嬉しいです。
Twitter始めました。#神月いろは です。主にアップ情報だけですがよければ覗いて下さい。




