ドライフルーツinモーブル
トーイ殿下、カイルさんと続いて来城し城内は大忙し。名代を務めるグレン殿下を見守る多恵は…
謁見の間に入ると玉座の隣に雅な椅子が用意されグレン殿下が着席し、その後ろにチェイス様が控えアルディアの使者であるトーイ殿下をお迎えになる。
トーイ殿下が広間の真ん中に着くと、シリウスさんが私を迎えに来て上座端に案内してくれる。
グレン殿下、トーイ殿下のご挨拶が始まり、私はドキドキしながら一生懸命挨拶を受ける殿下を食い入る様に見つめていた。グレン殿下は難しい言葉を辿々しく時につまりながらも述べられている。見ている私は母親を通り越して祖母の気持ちになり、気がつくと泣いていた。そんな私にシリウスさんがそっとハンカチを渡し手を握ってくれる。その手が温かく落ち着いて見守る事ができた。
「陛下不在故、多恵殿の事については宰相であるチェイスと話してもらう事になるので了承いただきたい」
了承したトーイ殿下のグレン殿下を見つめる眼差しは優しい。その眼差しは年長者が一生懸命な下の者を応援するかの様だ。
そして公式な挨拶が終わりここからは、普段通りの会話が始まり場が一気に緩む。するとトーイ殿下はレオ様に合図を送り、レオ様は従者から荷物を受け取り宰相補佐のエルビス様に渡した。
「今我が国で注目されているを菓子をお持ち致しました。これは【どらいふるーつ】と言い、果物を乾燥させた菓子にございます。日持ちしそのままでも美味しく食せますが、パンや菓子に入れても美味しくいただけます。レシピもお待ちいたしましたので、お試し下さいませ」
どうやら手土産に私が教えたドライフルーツを持ってきたようだ。サリナさんの手紙にもサイラス侯爵家がドライフルーツを開発した事を教えてもらっていたが、ブロスの実で干しぶどうを作っていたのには驚いた。
『これでレーズンパンが食べれるぞ!』
また新しいパンが食べらると思うと口元が緩む。するとトーイ殿下はグレン殿下に
「サイラス侯爵領の干した果物は元は多恵殿の世界の知識であります。我が王は多恵殿の知識は独占せず、リリスの箱庭で共有するものだとお考えでございます。故に…」
そうアルディア王は私の考えを理解してくれ、マスクに港の検疫に防御靴の全てをモーブルとレッグロッドに情報開示をしている。そして今回新たにドライフルーツの製造法もモーブルに開示したのだ。
「ルーク陛下に感謝をお伝え頂きたい。代わりに我が国に多恵様が齎した物である【ポテチ】の調理法とそれに合う茶葉をお贈り致しましょう」
チェイス様がそう答える。すると【ポテチ】と聞いて首を傾げるトーイ殿下に、ドライフルーツが気になっているグレン殿下。そんな2人を見ながら私が教えた物が食べ物ばかりでなんか恥ずかしくなってきた。
そんな事を思っていたら謁見は終わり、グレン殿下が一旦退室される。退室後直ぐにエルビス様が来て従僕達にアルディアの皆さんを部屋に案内を指示し、トーイ殿下とはここで一旦お別れする。
「多恵殿宛の手紙を沢山預かって参りました。お時間をいただき食事を共にしていただきたい」
「はい。ではチェイス様に調整をお願いしておきます」
こうしてトーイ殿下も退室された。この後の事をエルビス様に聞いたらカイルさんが来るまで後半刻ほどあり、私も部屋に戻る。部屋に着くとお茶と茶菓子が用意されており一息つく。そしてソファーで微睡んでいたら文官さんがレッグロッドの使者到着を知らせに来た。急いで謁見の間へ。
アルディアは王族の来城だったので正門までお迎えに行ったが、レッグロッドの使者はカイルさんでお迎えは不要らしい。アッシュさんにエスコートされ再度謁見の間に来た。広間にはすでにカイルさんもグレン殿下も揃っていて、慌てて定位置つく。そして先程と同じ様に謁見が始まる。
殿下も慣れられた様で言葉が詰まる事なくご挨拶され安心して見る事が出来た。恙無く謁見が終わるとグレン殿下が視線を送ってきた。それは上手く出来たかの確認の様で、可愛い殿下に思わず両手で丸を作るとキョトンな殿下。
でも意味は伝わった様で満面の笑みを湛え退室された。
『きっとご褒美にドライマンゴーが茶菓子に出るよ殿下』
そんな事を思いながら殿下を見送ると、カイルさんが駆け寄り懐から手紙を取り出し渡した。
「オーランド殿下からお預かりして参りました。是非お返事を…」
「ありがとうございます。ゆっくり読んでお返事しますね」
カイルさんはいつもと同じ屈託のない笑顔を見せ、従僕さんに案内され滞在する部屋に向かった。侍女さんと従僕さんが片付けを始め私も部屋に戻る。大した事をしていないが城内の移動が多く疲れた。王城は広く大型アウトレットモールの様に広い。溜息まじりトボトボ歩いているとアッシュさんが両手を差し出した。これは…
「疲れましたが大丈夫です」
「分かりました。ですがご無理なさらずいつでも仰って下さい」
そう。お疲れ気味の私を気遣い陛下から私を歩かせるなと護衛騎士さんにお達しが出ていたのだ。しかしアッシュさんは私の気持ちを優先し無理に抱っこしない。彼のこういう所は好きだ。
そしていつもの倍かかりやっと部屋に辿り着いた。今日のお仕事はこれで終わり。アイリスさんが気を利かせ大好きなクロワッサンを夕食に用意してくれていた。
食事をしながらアイリスさんに話し相手になってもらい、グレン殿下の謁見の挨拶が上手く出来た事や、レーズンをアルディアから贈られたから葡萄パンが作れると話すと、果物大好きなアイリスさんがドライフルーツに食い付く。
こうして楽しい夕食後は早めに就寝準備をしベッドへ。
「アルディアからまた沢山手紙が有るだろうから、先にオーランド殿下の手紙を読んでおこう」
てん君を膝の上に乗せオーランド殿下手紙を開封し目を通す。すると私達視察団が帰った後の事を教えてくれた。
大半の貴族が大人しくなり、私に対する反発は減ったそうだ。しかし…
「やっぱり彼女と公爵は一筋縄では行かないのね…」
やっぱり嗅覚破壊者は懲りずにいる様だ。殿下は根気強く説得して行くと書かれている。そしてそのエミリア嬢に思いもよらない事が起ころうとしているようで…
「そんな話が出てるの⁉︎ 聞いていたより仕事多くない?リリス!」
天井に向かい文句を言う。そして大きなため息を吐いて、また私がバスグルに行っている間に一波乱も二波乱も起こりそうなレッグロッドに遠い目をし、カイルさんと早々に面会の必要を感じ慌てて部屋にいるアイリスさんに予定の調整をお願いし、明日に備えて早めに休んだ。
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