帰省
視察から帰り一息つけると思ったが、そんな訳もなくまた厄介ごとが?
食後ソファーに座り他愛の無い会話を楽しむ。陛下はいつもと違い甘い雰囲気はなく、いい意味で大人の会話が出来ている。そして暫くすると陛下が座り直し
「予定を早め明日デスラート公爵領へ出発する事にした」
確かグレン殿下の様子を見る為、数日後だと聞いていたから驚く。すると陛下は予想以上にグレン殿下が冷静なのと、グレン殿下から反対に早く王妃様の元へ行く様に言われたらしい。
「陛下と王妃様が愛情を持ってグレン殿下をお育てになられたのが分かります。まだ親に甘えたい年頃なのにとてもしっかりされておられます。グレン殿下は大丈夫です。まだ私もお傍にいますから、安心して王妃様と向き合って下さい」
「貴女は私の女神だ。感謝しかない」
そう言い深々と頭を下げる陛下に恐縮してしまう。こうして明日の昼前に出発が決まった陛下は、ご不在時の連絡事項とお願い事をされた。そして気が付くと7刻を過ぎていて文官さんが陛下を呼びに来た。立上りお見送りすると扉の前でハグをし
「シャーロットと話し合って来る。そして正式に貴女に求婚しよう」
「えっと…その話はお帰りになられてからで…」
そう返事すると頬に口付け陛下は帰っていった。この後疲労困憊の私は湯浴み後はベッドへまっしぐら! てん君も呼ばず5秒で眠りについた。
『たえ おきる!』
『もう少し…』
『だめ てん もふもふ ない!』
そうだ昨晩は疲れすぎててん君をもふっていなかった。慌てて起きようとするが起きれない。この状況は…
「フィラ。放してくれる」
「てんなら呼んでここで撫でればいい」
「いや!もう起きる時間だし」
そう言い時計を見ると2刻半になっていた。部屋の外では朝の準備をしている音が聞こえる。言い合いしている時間ももったいないので、てん君を呼び胸元で撫でると何故かフィラが私を撫でだす。満足したフィラとてん君は視線を合わせ思念で会話している。仲間外れは寂しくて会話に加わろうとしたが入れない。
「私に内緒話をするくらい仲良くなったの?」
「もうすぐバスグルに行くんだろ? てんにバスグルの現状を伝えておいた」
フィラのがそんな事を言い出す時は決まっていい事は起きない。すると抱き寄せ口付けたフィラが
「危険な事ではない。寧ろ面倒くさい事だ。まぁ…振り回されない様に根回しをいているから安心しろ」
「主語が無くて全く分かりません!」
『てん いる だいじょう』
また出たてん君の"大丈夫"。大丈夫だった例がないから油断できない。そう思いながら見ていたらご機嫌でフィラは帰って行った。そしててん君はベッドから下り部屋に続く扉に向かい前脚で扉を叩く。
扉から顔を出しのはアイリスさん。あれモリーナさんは?
「陛下が急遽デスラート領に出発されるのと、アルディアからの使者をお迎えする準備があり、他へ手伝いに向かいました。少し早いのですが今から私がお仕え致します」
「そうの?みんな大変だね。今日は予定ないからアイリスさんも行ってくれていいよ」
『って言うか1人にしてください』
そう心で呟く。でもやっぱり1人にはしてもらえなかった…
視察から帰り予定もない1日。ダラダラと寝室に籠り時間を気にせずうたた寝をし1人を満喫中。
『てん いる』
『そう。てん君とラブラブだもんねー』
そう言えと嬉しそうに私の背中で丸くなるてん君。てん君が温かくまた夢の中…
“ぺしぺし”『たえ アイリス よんでる』
「へ?」
てん君の前脚パンチで目が覚め、返事をするとアイリスさんが来て、陛下のお見送りの準備を始める。寝過ぎた様で湯浴みする時間が無く着替えて急いで部屋を出る。
「多恵殿」
「遅くなりました」
既に出発準備が出来ており、馬車前には陛下とチェイス様が待っていた。陛下に道中の無事を祈ると陛下に抱きしめられる。皆んなが見てるけど、短い腕で陛下を抱きしめて背中をポンポンする。すると耳元で
「悔いのなき様しっかりシャーロットと話してくる。待っていてくれ」
「素直な気持ちで想いを言葉にして下さいね」
「あぁ…」
こうして陛下はデスラート領に向けて出発した。馬車が見えなくなるまで見送ると、チェイス様が話があると言う。
予定もなくそのままチェイス様の執務室へ。
ソファーに座ると資料を見ながら
「アルディアからはトーイ殿下がお見えになり、レッグロッドからはオーランド殿下の側近のカイル殿。そしてバスグルからグリード王弟殿下が帰国なさいます」
「グリード殿下ですか!」
アルディアとレッグロッドは想定していたが、まさかグリード殿下が帰国されるなんて思ってもみなかった。
『なんでまたこのタイミングなの?』
固まる私に眉間の皺を深めたチェイス様が
「グリード殿下の帰国は多恵様迎える為の打合せと、バスグル人の帰国手続きか主な目的です」
「では王妃様の事は…」
「恐らくご存知ないかと… ですから」
チェイス様は王妃様の事やグレン殿下に関する事は内密にして欲しいと願い出た。勿論私の口から言うつもりはない。
モーブルに移ってからもビビアン王女から手紙を貰っており、バスグルの問題が落ち着き次第グリード殿下と式を挙げ王位を継ぐと聞いている。それに手紙には惚気話満載でお二人の仲が順調なのが分かる。
「グリード殿下はどの位滞在予定なのですか?」
「期間は明言されておられません。出来得るなら陛下が戻られるまで滞在いただき、是非陛下とお会いいただきたい」
「陛下はご存知なのですか?」
どうやら昨晩遅くに連絡ががあったらしく、陛下も対応出来なかったようだ。また厄介ごとが増え頭が痛くなってきた。とりあえず頭に糖分チャージする為に、お茶に砂糖を大量投入するとチェイス様が苦笑いする。そしてチェイス様もお茶を一口飲んで
「当初はバスグル側からの使者は宰相補佐殿の予定で、訪問も2週間先で連絡を受けておりました。宰相補佐殿であれば陛下不在を理由にお断りもできるのですが、グリード殿下は帰省も兼ねての事なので…」
「”来るな”とは言えませんね」
チェイス様は頭を抱える。チェイス様曰くレッグロッドに視察団を派遣した(する)事がバスグルに伝わったらしく、私が次にレッグロッドに行くと懸念しての事の様だ。
グリード殿下は5日後に到着予定らしくまだ時間はあるし、恐らく殿下滞在中に陛下も帰ってくる。私的にはグリード殿下にも王妃様の事は知って欲しい。愛した人の事を亡き後に知らされるのは辛いし後悔するのは目に見えている。沢山の人の想いが重なると複雑で皆んなhappyは無理で、少し傷付いたり涙することになる。
『難しい…』
そう心で呟きこの後到着する使者の出迎えの為に一旦部屋に戻った。
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