建国祭
レイハントから建国祭で王妃が付ける香水の成り立ちを聞くことになり
「お疲れのところ面会をお受けいただき、ありがとうございます」
応接室に着くと満面の笑みのレイハント様に迎えられた。着席すると従僕さんがお茶を入れてくれ…
「凄くいい匂い!」
いただいたお茶はハーブティー?フルーツティー? 香りが良く飲んだ後に鼻に抜ける香りが爽やかで頬が緩む。ティーカップを凝視していたら
「この茶葉は我が領でブレンドしたものです。多くは作っておりませんが昔から作られているフレーバーティーです。お気に召しましたか⁈」
「はい!疲れが飛んでいくようです」
そう言いお茶を飲み干すと微笑んだレイハント様がお代わりを入れてくれ、また部屋にいい香りが充満し気分よくソファーに深く座る。するとレイハント様が
「先程、今年の香水を陛下に献上してまいりました。陛下は愛する多恵様の香りに大変お喜びになられ、私もいい仕事ができ満足しております」
「毎年新作を作るのは大変ではありませんか?」
「産みの苦しみは有りますが新たな香りと出会えるのは喜びですよ」
そう言った後に何故か表情を曇らせるレイハント様。そして少し考えて
「国母であらせられる王妃様に今年の香水をお付けいただきたかった…」
前に聞いた時も疑問に思ったけど何故王妃様が付けるの? 何か願掛け? それとも意味があるの? 気になったのでレイハント様に聞いてみる。
「何故建国祭で毎年新しい香りを付けるんですか?」
するとレイハント様は足を組み替えこの香水の成り立ちを教えてくれる。
遥か昔にモーブルで高熱と発疹を伴う病が流行り多くの若い男性が患った。そして働き手が減った農地は収穫量が減り食糧難に陥る。翌年流行病も治まり穀物の収穫量は戻ったが、何故か翌年から出生率が下がった。このままだと人口が減少する事を危惧した王妃が、女神の台座に赴き女神リリスに祈りを捧げたのだ。
「祈りを終えた王妃が女神の台座から引き返す時に、女神の丘で見た事も無いハーブを見つけたのです。手に取り香りを嗅ぐと甘く胸をくすぐる香りであったと文献に残されています」
王妃はそのハーブを持ち帰りサーヴァス侯爵家の調香師に香水を作らせ、その香水は建国祭の前日に出来上がり王妃に献上され、王妃は建国祭にその香水を付け家臣の謁見を受けた。
謁見した貴族達は王妃から香る芳し香りに魅了され、香水を作ったサーヴァス侯爵家に香水の調合を依頼し、その香水は瞬く間にモーブルに広がって行った。
その後緩やかではあるが出生率も上がりモーブルに子供が増えて行った。王妃の祈りがリリスの届いたのか、それとも香水の効果なのかは未だ分かっていない。
「その香水は今は婚姻式を終えた夫婦に贈られ、初夜に身に付けると子宝に恵まれるとされ、今でも調合されて愛用されております」
「ふーん」『所謂ところの媚薬的なものかなぁ⁈』
こうして王妃が女神の丘で見つけたハーブから作られた香水で、新たな命が生まれ国難である少子化が改善した事から、毎年建国祭で新しい香水を王妃が身に付け国の安寧を祈る事になったそうだ。しかし恐らく王妃様の建国祭の出席は無理。
「今年の建国祭はいつ行われるのですか?」
「半年後です…」
『無理じゃん!』
私が黙り込むとレイハント様が困った顔をした。その表情から既に国内の貴族が王妃様の容態が良くないのを知っているのが窺い知れる。先程の清々し部屋の空気は一気に重々しくなり、どうしていいか分からない。するとレイハント様がいきなり私の手を取り
「建国祭の香水はとても重要な物。国母が付け国の安寧を願わねばなりません。私の口からは申し上げるべきではありませんが、今年は王妃様が香水を付けられるのは無理でしょう。ですから多恵様が!」
「それは出来ません」
「!」
そんな事出来る訳ないじゃん! いくら陛下に求婚されているとは言え私は王妃じゃ無いし、それに陛下の求婚を受ける決心も付いていない。こんな大切な役目を簡単に引き受けていい訳がない。必死なレイハント様に説得されるが、こればかりは本当に無理だなんだよ。彼は調合師として毎年国の安寧を願い香水を作っている。だから建国祭で香水のお披露目をしたいのだろう。気持ちは分かるけど…
圧の強いレイハント様に困っていたら
“コンコン”
「「?」」
応接室に誰か来た様だ。レイハント様が返事をすると従僕さんが青い顔をし入って来てレイハント様に何か伝えると
「早くお通ししなさい!」
そう言いレイハント様は立ち上がり扉の方を向き左胸に手を当て深々と頭を下げた。状況が分からない私はソファーで固まっていると
「陛下?」
そう陛下が来たのだ。慌てて立ち上がろうとするけと、深く座っていた為にソファーで溺れ直ぐに立ち上がれず、あたふたしていると陛下が私の前に来て手を貸してくれる。
「レイハント様に御用でしたら私は失礼します」
ちょうど困っていたらから渡りに船だ。そのまま退室しようとしたら、陛下にソファーに座らされてしまった。そして当然の様に隣に陛下が座りレイハント様に着席を促す。
レイハント様も私も何が起こっているのか分からず目が泳いでいる。すると陛下がレイハント様を見据えて
「マスターと言われ建国祭の香水作りを任されている其方の事だ。王妃の代わりに多恵殿に香水をつけて欲しいと懇願しているのではないかと心配になってな」
『陛下!正解!』
「…」
図星で黙り込むレイハント様。そしてレイハント様が陛下に何が言おうとした時
「真面目な其方の心配は分かっているし、建国祭の大切さも重々承知している。だか多恵殿はモーブルだけで無く他の国を助ける役目をお待ちだ。建国祭の頃には他国へお渡りになる」
「陛下!不敬承知で申し上げます。今年の建国祭の香水はどうなるのでしょうか? 貴族達の間では王妃様のが容態が良くないと噂になっております」
額に汗をかきながらレイハント様は陛下に不安をぶつける。すると陛下は表情を引き締めて
「近々はっきりするだろう。それに過去に色んな事情で建国祭で王妃が香水を付けなかった時もある。だからと言ってモーブルが危機に面した事は無い」
そう言い名言を避けた陛下。レイハント様はそれ以上は何も言わず出過ぎた発言を謝罪されていた。陛下登場で建国祭の話は終わり胸をなでおろす。私の様子に気付いた陛下がレイハント様に退室を言いここでレイハント様とお別れする事になった。まだ不安げなレイハント様と握手をしてお別れした。やっと緊張から解放されぼーとしていると陛下がエスコートし部屋に戻る事になった。時刻はもう6刻前で陛下はそのまま私の部屋で夕食を召し上がる事になった。
部屋に着くと食事が用意されているけど今日は忙しすぎて食欲が無い。モリーナさんが気を利かせブブ豆パンを用意してくれたが、いつもの半分しか食べれ無かった。陛下に心配されながら食事を終えソファーに座ると
「私がデスラート領に行っている間にアルディアから使者が来る事になった。チェイスが対応してくれるから心配ない」
突然のアルディアからの使者に驚く。すると陛下は私の手を握り微笑んで心配ないと言う。使者の訪問は次に私が行くバスグルの同行者についてだ。【女神の乙女】に各国から護衛を付ける事になるらしく、その打ち合わせで使者が来るのだ。また大所帯になると思うと心の旅に出たくなり遠い目をしてしまう。サクッと行ってサッと帰って来たいけどダメ?
お読みいただき、ありがとうございます。
続きが気になりましたら、ブックマーク登録&評価をよろしくお願いします。
『いいねで応援』もポチしてもらえると嬉しいです。
Twitter始めました。#神月いろは です。主にアップ情報だけですがよければ覗いて下さい。




