将来
心を痛めているグレン殿下の元へ急ぐ多恵。しかし…
ケイスさんの抱っこは毛布に包まれている様に心地いい。ふと見上げると優しい瞳と目が合い…
『!』
こんなに近いならあの話を聞けるかも!
『ケイスさん。アイリスさんから聞きました。おめでとうございます。私、お二人はお似合いだから嬉しくて!』
そう切り出すと慌てて周りをチェックしたケイスさんは背中を丸め小声で
『あっありがとうございます。ですがまだ正式な婚約は…』
『でもプロポーズして受けてくれたんでしょ?』
『はい。お受けしました』
そうだった。ここのカップルは逆転でした。メンタル乙女なケイスさんはマリッジブルー中。どうやら私についてバスグルに行くと言うアイリスさんが心配の様だ。ここで花婿のお悩みと愚痴という名のお惚気を聞く事になった。ゔ…んあまい!
『アイリスさんが(バスグルに)同行を志願してくれたのは嬉しいけど、きっとバスグル側も人の手配をされている筈。だからアイリスさんには自分の事を優先して欲しいの』
『多恵様…』
私の一言で表情を明るくするケイスさん。ほんと皆さんには幸せになって欲しい。
こうしてケイスさんと初めて個人的な話を沢山した。楽しいケイスさんとの話もグレン殿下の部屋に到着で終え、ケイスさんに下ろしてもらい
“コンコン”
「多恵です。入室許可を…」
扉がゆっくり開きシリウスさんが顔を出した。目の下にはくっきり隈が見てとれる。私の手を取り抱きしめたシリウスさんは頬に口付け部屋に招き入れた。入室するとソファーにグレン殿下がいて本を読んでいた。私に気付くと走ってくる。
『何だろう⁈雰囲気が変わった?』
いつもは年相応に見え可愛らしい印象の殿下だが今日は雰囲気が違う。戸惑う私に抱きつく殿下。そして私を見上げて
「来てくれてありがとう。多恵殿もお疲れ様なのにすまないね」
「えっあっ大丈夫です」
殿下は私の手を取り食卓へ誘導してくれる。食卓には私の好きな物が並び、殿下の席が私の横に用意され向かいにシリウスさんが着席した。そして給仕が始まり和やかに食事をとる。
『!』
驚く事に野菜嫌いで克服中の殿下がドレッシングもかけずにサラダを食べていた。思わず目が点になり凝視してしまうと
「母上のところで野菜嫌いは克服しました。今はモーブルの野菜は全て食べれますよ」
「ご立派です。じゃあ私も沢山いただきますね」
こうして美味しく昼食を食べ終わると、殿下にまた手を引かれソファーに移動。殿下は隣に座り私に身を預けた。どう話をすればいいか悩んでいたら
「多恵殿。聞いてくれるか⁈」
『きたっ!』「はい」
そう言い座り直したグレン殿下は真っ直ぐ私を見て
「私は叔父上の子だと母上から聞いた」
「!」
「そこはいいんだ。家臣の噂や見た目も陛下より叔父上に似ていると思っていたから」
やはり殿下は薄々気づいていたんだ。取り敢えず口を挟まず殿下の話を先に聞く事にした。すると殿下はグリード殿下の子である事にはショックは受けていない様。どうやら戸惑っているのはデスラート公爵家を継ぐ事を悩んでいるようだ。
「陛下は私の事を実の子だと仰ってくれ、次期王の素質のある方に王位を継がすと仰った。つまり私に素質があれば王にすると」
「はい。当然の事だと思います」
「母上の気持ちを汲むなら公爵家を継いだ方がいいのだろう。しかし私は多恵殿と出会いこの国をより大切に想う様になった。そして立派な陛下の様にモーブルを守りたいんだ」
元の世界なら小学生程の年の子なのに、将来の事でこんなに悩んでいる。初めで会った時は可愛い印象の子だったのに… そう思うと目頭が熱くなり涙目になる。ふと向かいに座るシリウスさんと目が合うとシリウスさんも目が赤い。意外に涙脆いのだと知りドキッっとしてしまう。所謂ギャップ萌えってやつ⁈
『今はそんな事を考えている場合では無かった!』
姿勢を正し
「飽くまでも私の考えですが、まだ決めなくていいと思いますよ。だって殿下はこれから沢山の事を学び色んな経験をし考え方も夢もその都度変わります。だから色んな経験をし視野を広げてからでも遅くは無い。だから今は必ず来る決断の時までご自分の磨き鍛えて下さい」
「でも母様は…」
やっと子供らしい表情をした殿下。幼いながら状況を理解し母の願いを聞き入れようとしている。でも…
「親はね。子供に期待をするものです。でも自分の思い通りにして欲しいとは思ってないんですよ。一番の願いは子供が幸せである事。もし自分の望まない道を子が進んだとしても、子が幸せならOKです」
「お祖父様も多恵殿と同じ事を言い、公爵家は気にしなくていいと言われた。僕は…父様の様になりたい…」
殿下の真っ直ぐな瞳に両陛下が愛情をもってお育てになったのが分かる。この年で冷静に状況を理解しようとする姿勢は立派だ。よく分からないけど王の素質あるんじゃないの⁈
そんな事を考えていたら、身を預ける殿下の体温が高くなった。殿下の顔を覗き込むと視点が合ってない。シリウスさんの話ではデスラート領から戻ってから、熟睡していないそうだ。既に母性全開の私は
「殿下。お昼寝しましょ!はい抱っこ」
そう言い殿下の前で屈み腕を伸ばすと、素直に抱きついてきた。気合を入れて抱っこし、立ち上がり寝室に向かう。後ろからシリウスさんが不安気に付き添う。シリウスさんを一瞥し頷いた。
『大丈夫!お子は絶対落とさないから!』
母は強し!です。でも本当の母じゃないけど…
寝室に入りベッドに下ろすと、私の手を握り離さない殿下。シリウスさんが用意してくれた椅子に座り、殿下が熟睡するまで付き添う。
どの位経っただろう。やっと手が離れたのでそっと離脱し部屋の方へ向かう。お疲れ様MAXのシリウスさんをハグし背中をぽんぽんし労う。彼も視察から帰ったばかりでお疲れだ。女官さんを呼び殿下が起きるまで付き添ってもらう。そしてシリウスさんの手を引き殿下の私室を出て、シリウスさんを騎士棟まで送る。騎士棟には仮眠室があるはず。
「不安定な殿下を支えるには周りもしっかりしないと。今は休んで下さい」
「俺は自分で心身共に強いと思っていました。今回の事は一人では対処出来なかった。貴女の優しさが殿下だけでなく俺も癒してくれた」
シリウスさんはそう言い後ろから私を抱きしめる。きっとシリウスさんも殿下を息子の様に想っているのだろう。沢山の人が殿下を心配している。だから私がバスグルに渡っても大丈夫だと思える。
緩んだシリウスさんの腕から抜け手招きし、シリウスさんの頬に口付ける。シリウスさんは微笑みやっと表情が明るくなった。安心した所で後ろに控えていたケイスさんが
「多恵様。そろそろ…」
「あっはい」
察したシリウスさんは再度ぎゅっと抱きしめてから、ケイスさんに会釈し騎士棟へ向かって行かれた。その背中はいつもより小さく感じ、何とも言えない気持ちになる。そんな背中を見送っていたら
「わぁ!」
またケイスさんに抱き上げられレイハント様との面会の為に応接へと急いだ。移動しながら
『1週間…いや3日でいい。部屋でヤドカリになって一人で過ごしたい』
と暫し現実逃避中。考えてみたらこっちに来てからプライベートな時間が無かった事に気付く。
すっかり社畜になっている自分に気付きブルーな気分のままレイハント様との面会に向かった。
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