父親
美味しい野菜をたくさん食べて、モーブルに帰ってきたと実感する。
モーブルの問題に目処が立ちホッとした反面、先送りにしていた求婚者達の事を考えていた。
今私には3人の婚約者がいる。3人とも悋気と独占欲が強くそれに恐らく夜の方も…
そんな状況で新たな婚約者を迎えるのは無理。それは分かっているけど、ダラス陛下・シリウスさんに好意を向けられるのは嫌じゃ無いから困っている。
「多恵様。謁見の間に着きました…大丈夫ですか?顔色が良くない」
「あっ大丈夫です。少し考え事していて」
気がつくと謁見の間に着いていた。私が無理を言って視察に行ったんだ。ちゃんと帰城の挨拶をしないと。気持ちを入れ替え”大丈夫だ”とシリウスさんに言い謁見の間に入る。
玉座に陛下が座りチェイス様や騎士団長達がお迎えしてくれた。シリウスさんにエスコートされ定位置に来てカーテシーをし陛下にご挨拶する。
「ただいま戻りました。視察を許可していただいた陛下及び、同行してくださった視察団の皆様。そしてご準備いただいた城内の皆様に感謝申し上げます。それに道中お世話なった貴族の方々のお陰で有意義な視察となりました。既に陛下のお耳に届いていると思いますが、後日お時間をいただきましてご報告さていただきます」
「無事に戻られ安心した。まずは旅の疲れをとり休まれよ」
私の挨拶が終わると続けてシリウスさんが正式な挨拶をしてくれ公式の挨拶は終わった。ここで解散となりシリウスさんと騎士の皆さんは団長に報告へ行き、アイリスさんは侍女長の元へ。そして文官さん達はエルビス様の元へ報告をしに行った。やっと全て終わり肩の力が抜けるとリチャードさんが来てくれ部屋に…
「多恵殿」
「!」
リチャードさんの前に陛下が来て私の手を取り
「急ぎ伝える事がある。夕食を共にしてくれぬか?」
真剣な面持ちに私が居ない間に何かあった様だ。とりあえず部屋に戻り湯浴みと着替えがしたくて、遅めの夕食ならお受けすると伝えると、7刻に私の部屋で夕食を共にする事になった。いつもは人目を気にせずデレてくるのに、陛下はハグだけして足早に退室された。陛下の表情はいつもと違い固く嫌な予感がする。唖然として陛下を見送るとリチャードさんが
「多恵様。お疲れでございましょう。お部屋へ」
「あっはい」
やっと部屋に戻ると満面の笑みのモリーナさんが迎えてくれた。彼女の表情からプライペートが充実しているのが分かる。彼女のお見合いの経過を聞きたくて口がムズムズするけど、それより先に旅の疲れを取りたくて湯浴みをする。
「あっサーヴァス領で頂いたバスソルトがあるので入れて欲しいの」
「畏まりました」
作りたてのバスソルトは香りが良くて疲れが湯に溶けていくようだ。時間をかけて湯に浸かりモリーナさんのマッサージで8割がた回復したところで陛下がお見えになった。陛下付きの従僕さんとモリーナさんが食卓の準備をしてくれ夕食をいただく。
「やっばりお野菜はモーブルが一番美味しいです」
レッグロッドは輸入に頼り生鮮食品は少なくて日持ちする加工品が多く生野菜などはとても少ない。野菜大好きな私には物足りなかった。機嫌良く野菜を頬張る私を温かい目で見つめる陛下。普段より言葉少ない陛下に違和感を感じつつ、デザートが出されるのを待っていた。そしてやっとデザートが出されると給仕をする皆さんが退室し緊張が走る。
「王子達は王妃と数日過ごし無事戻ったよ」
「はい」
「私も事後報告になり困惑しているのだが…」
「!」
なんと王妃様はグレン殿下に本当の父親を明かしたそうだ。それだけでも仰天なのに、王妃様はグレン殿下に王妃様のご実家のデスラート公爵家を継いで欲しいと願ったそうだ。
「…」
唖然として言葉が出ない。それよりグレン殿下は? まだ受け止めれる歳では無い。不安になり陛下に聞くと
「私も心配したがグレンは冷静に受け止めていたよ。そして私に『私の父上は陛下です』と言ってくれた。それを言われた時は泣きそうになったよ」
どうやら城内でもグレン殿下が陛下では無くグリード殿下に似ている事と、王妃様とグリード殿下が昔婚約していた事から、グレン殿下の本当の父親はグリード殿下だと水面下で噂されていた。グレン殿下はそれを聞き弟のフィル殿下が陛下に似てきた事から、自分はグリード殿下の子供かもしれないと薄々感じていたそうだ。
しかし陛下が二人の王子を平等に接し愛してくれている事をちゃんと感じ、グレン殿下は陛下を父だと思っているのだ。
王妃様が何を思いグレン殿下に真実を打ち明けたのかは私には分からない。しかし陛下と王妃様が愛情をもってグレン殿下を育てたから、グレン殿下は真っ直ぐに育ちこの事実も受け止めれたのだろう。
目尻を下げた陛下を見ていたら涙が出てきた。すると立ち上がり私と元に来て跪き、ハンカチで涙を拭ってくれる陛下。
「王である私は感情を出さない。だから私の代わりに泣いてくれる多恵殿は私の心だ」
「陛下…」
「今はダラスと呼んでくれ」
陛下の表情から複雑な気持ちなのが分かる。どんなに推測しても王妃様の気持ちは分からない。やっぱりちゃんと夫婦で向き合わないと。デザートもほぼ食べ終わっていたから立ち上がり、陛下の手を取りソファーに移動する。そして
「私は戻りました。陛下はいつ王妃様の元へ行かれるのですか?」
「当初は貴女が戻った3日後に予定していたが、グレンの様子をもう少し見てからにしようと思う」
「私にできる事があれば言ってくださいね」
そう言うと陛下は私の隣に来て私の肩に頭を預け目を閉じた。陛下は色々抱えている。こんな時に女は母性がでるもので無意識に陛下の頭を撫でていた。
「其方は優しい。その優しさは皆に向いているのは分かっているが、私にだけ向けていると勘違いしてしまう」
「今は陛下に優しくしたいと思ってますよ」
陛下は小さく笑い
「なら、今は貴女の優しさを独占させてもらうぞ」
「はいどうぞ!」
こうして何を話すわけでも無く、ソファーに座り身を寄せ合い静かな時間を過ごす。
暫くするとチェイス様が陛下を迎えに来た。溜息をついた陛下は立ち上がり、私の手を引き抱きしめチークキスをして戻って行かれた。
時計を見ると7刻半を過ぎてて眠くなってきたら、申し訳なさそうに扉の外の騎士さんが来客だと知らせる。
『こんな時間に誰だろう』
断ろうかと思ったら訪問者はシリウスさんだった。明日にしてもらおうかと思ったけど何故か気になり、少しだけならとお受けした。
「夜分に申し訳ない」
「大丈夫です。まだ起きてましたから」
そう言うとシリウスさんはモリーナさんに退室を命じたが、時間が時間だけに渋るモリーナさん。見上げたシリウスさんの表情をみてデレる為ではのが分かり
「モリーナさん。少しだけだし扉は開けてくれていいから」
「畏まりました」
モリーナさんが退室するとシリウスさんは私を抱きしめて
「先程までグレン殿下の元におりました」
「…」
「その様子では陛下からお聞きの様ですね」
どうやらグレン殿下はシリウスさんに王妃様から打ち明けられた事を話した様だ。殿下様子を聞くと
「驚くほど冷静で俺の方が動揺してしまいました」
そう言い苦笑いするシリウスさん。そして明日殿下に時間をとって欲しいと願った。明日は陛下とチェイス様に視察の報告と今後の方針を話し合う。しかしグレン殿下の所に行くくらいの時間はある。
「チェイス様に予定を調整してもらいますね」
「ありがとう」
シリウスさんもチークキスをし
「おやすみなさい。良い夢を…」
「シリウスさんもゆっくり休んで下さいね」
やっぱりグレン殿下の事で動揺しているらしく、デレる事無くあっさりと帰っていった。視察からと戻り自分のベッドでぐっすり眠れると思ったのにまた悩む事になってしまった。
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