惜しい!
サーヴァス侯爵領に着いたはいいが…
今晩はサーヴァス侯爵邸にお世話になる。応接室に案内されるが、エスコートするシリウスさんは超不機嫌。元々仏頂面なのに更に凄味が増している。でも美形はどんな表情も美しいく、屋敷中の女性達の視線を独り占めしている。
そんな視線に晒されながら歩いていると、シリウスさんが顔を寄せて来て
「どうやらレイハント殿は多恵様の正体を知っているようだ。ですがご自分から明かされる必要はないかと」
「そうだね。それに自分から"女神の乙女です"なんてこっぱずかしいもん」
「取りあえず困られたら私かアイリス嬢に視線を送って下さい。我々が話に割ってはいりますので」
「ありがとうございます。頼りにしていますね」
一抹の不安を持ちつつ応接室に着き、ソファーに座りお茶をいただく。暫くすると侯爵様とレイハント様が入室され着席された。斜め前に座ったレイハント様はずっと視線を送って来て、目が合うと眩しい微笑みを向けられ嫌な汗が出てきた。隣から咳払いが聞こえ視線をシリウスさんに移すと目が合い
『他の男を見ないで』
と口パクでやきもちを妬く。二人の美丈夫の熱い視線に挟まれ困っていたら、咳ばらいをした侯爵様からレッグロッド視察に労いの言葉を貰う。そして世間話を少しした後に部屋に通されることになった。
この後シリウスさんは明日の帰路の確認と騎士の皆さんと打ち合わせがあるらしく、アイリスさん迎えに来てくれたが…
「専属侍女の私がお連れ致しますので、レイハント様のお手を煩わせる事はなく…」
「この屋敷の者として乙女様をご案内するのは当然の事なので気にしなくていい」
今度はアイリスさんとレイハント様が睨み合いを始めてしまった。間に挟まれて困ってしまい、お助けマンを探していたら
「レイハント様。王城より文が届いております」
執事さんが手紙を持ち声をかけてくれた。苦笑いをしたレイハント様が後ほど時間を取って欲しいと言い執事さんと去っていった。ほっとして大きな溜息を吐くと、アイリスさんが特大の舌打ちをする。
『聞こえたら不敬になるからやめて!』
と心の中で叫んでいた。しかしそんな私の気苦労も知らず、アイリスさんは私の手を取り部屋に向かう。
やっと部屋に着くと先にアイリスさんが荷ほどをしてくれていて、部屋は居心地よく整えられている。一息吐こうとソファーに寝転がりてん君を呼んで抱きしめ癒される。
今日は先日と違い乙女として来たから1人部屋な上に、多分屋敷の中でも一番いい部屋が用意されている。それに嬉しい事に扉続きでアイリスさんの部屋と繋がってて安心感が半端無い。アイリスさんに出してもらった焼き菓子を食べながらやっと春真っただ中?のアイリスさんをあれについて聞いてみる事にした。仕事をするアイリスさんに座ってもらい、どう切り出そうかと悩んでいたら
「もしかしてケイス殿との事でしょうか?」
「!」
まさかアイリスさんの方から話してくれると思っていなくて目が点になってしまう。すると微笑み姿勢を正したアイリスさんが
「きっと私と共に来た騎士から聞いたのでしょう。お聞きの通り求婚をしお返事をいただく事が出来ました」
「求婚したの?されたでは無くて?」
「はい。私からケイス殿に」
流石アイリスさんめっちゃ男前だ。アイリスさんの話ではケイスさんはゴリマッチョで大きな体されているが心はとても繊細で乙女。そんかケイスさんは堂々とし男前なアイリスさんに好意を向けていたそうだ。しかしご自分に自信が無く求婚できずにいたようだ。
「彼はとても優秀な騎士でありますがとても可愛いのです。このお方との縁を逃したらきっと私の理想の相手は金輪際出会えないと思い、はしたないと言われようとも私から求婚したのです」
そして甘い二人の恋バナを聞くが、甘すぎて微熱がでてきたかも。そろそろ高血糖で倒れそうになっていたら、アイリスさんがケイスさんのご両親に挨拶に行った時の話を始めた。
『適齢期を過ぎている息子を選んでくれ感謝するよ。私達は出来るだけ早く婚姻してもらいたんだ』
ケイスさんのご両親から懇願されたそうだ。
「だったら私の侍女は他の侍女さんでいいので、早く婚姻の準備して…」
「否。多恵様がモーブルに滞在なさっている間は専属侍女は続けますわ。ケイス殿も理解下さっておりますし」
フィナさんといいアイリスさんといい仕事に目覚めたの?
何度もいいと言ったのにアイリスさんの意思は固く、私がバスグルがレッグロッドに移ったら婚姻式をあげるそうだ。
常に傍に居てくれたフィナさんといいアイリスが幸せが訪れ、とても幸せな気持ちになり泣きそうになる。
『後はモリーナさんだな…でも確か視察出発時にお見合いするって聞いた。帰ったらどうなったか聞かないとね〜』
こうして時間も忘れアイリスさんと話し込んでいたら、外が暗くなり夕食の時間になっていた。
"コンコン"
「はい?」
アイリスさんが扉に向かい対応してくれる。少しして部屋に戻って来たアイリスさんは無表情で嫌な予感がする。
「レイハント様が(夕食の)お迎えにお見えでございます。如何なさいますか⁈ お嫌でしたらお断り下さいさせ… いや!お断りいたしましょう」
そう言いながら扉に歩いて行き扉を開けた。
『やばい!止めないとアイリスさんの事だからキツい言い方しそうだ!』
立ち上がり扉に駆け寄ると開いた扉から2人の話し声が聞こえてきて
「私は乙女様に邪な想いは無い。純粋に乙女様の香りを知り調合したいだけだ」
そう言いレイハント様はアイリスさんに詰め寄っている。思い返せばレイハント様の視線は熱を持っているが、欲や情を感じない。どちらかと言えば鑑賞対象や研究対象的な感じだろうか⁈
よくよく考えたら明日の出発まで付き纏われたり、王城まで追いかけて来られたら厄介だ。ならここで終わらせた方がいいのかも…
「レイハント様。アイリスさんと騎士さんが同伴してくれるなら、お話しをお聞きしますよ」
扉を開けてそう言うとレイハント様は跪き手を取って手の甲に口付けお礼を述べた。私の思っている事が分かったアイリスさんは私に耳打ちし、話は夕飯の後の方がいいと助言。とりあえず話は夕食後にしレイハント様のエスコートでダイニングルームに向かう事になった。
道すがらレイハント様は今年の香水は質の良い物が多く出来たと話し、帰りに新作をプレゼントしてくれる約束をしてくれた。
案外レイハント様はちゃんと向き合って話してみると、気さくな上に話題豊富で会話は楽しい。
そしてダイニングルームに着くと眉間に皺を寄せたシリウスさんが駆け寄り、レイハント様から私の手を取り自分の隣に席に座らせた。やきもち全開に苦笑いするとレイハント様が肩をすくめて苦笑いをした。
こうして皆さん揃い美味しい夕食をいただき、侯爵様から沢山お話しを聞かせてもらい楽しい食事となった。
そして食事を終えたらシリウスさんが
「お部屋までお送りしたいのですが、侯爵が話があるらしく呼ばれております。アダム殿を付けますのでお部屋まで真っ直ぐに寄り道せず、お部屋にお戻り下さい」
「えっと…はい」
何度も注意をしたシリウスさんは後ろ髪を引かれなが侯爵様の元へ向かった。シリウスさん退室を見計らってレイハント様が迎えに来た。何も知らないアダムさんは私の前に立ち警戒するが、
「食後にお話しする約束してるんです。アイリスさんや騎士さん同伴なので、アダムさんもお付き合い頂けますか?」
そう言うと何か言いかけたアダムさんだったが、アイリスさんにひと睨みされると頷き同席してくれる。
また広い屋敷をいっぱい歩きレイハント様の執務室にやって来た。そして入室すると部屋の壁一面に資料と香水瓶ご隙間なく並べられ、部屋中にいい香りがする。
そして着席するとレイハント様は小さな小瓶を目の前に置いて、紙を出しその小瓶から一滴落とした。
「!」
「やはり近いですか⁈」
「はい!…でも…」
「やはりなぁ…何か一つ足りない」
そう言い出すレイハント様は天を仰いだ。そうレイハント様が出した小瓶の中は香水で、私の香りととても似ている。
数回会っただけでここまて再現するなんて、やっぱり嗅覚は普通じゃない。でも私の香水はいくら調合師のレイハント様でも無理だと言うと
「やはり妖精王ですか⁉︎」
レイハント様が眉間に皺を寄せそう言うと、室内なのに風が吹きあの人の登場。
「我が番に付き纏うなら容赦いないぞ」
「フィラ!」
フィラ登場で話がややこしくなると思い眩暈がしてた。するとアイリスさんが
「多恵様がお困りでございます。お茶をご用意いたしましたのでこちらへ」
アイリスさんはそう言いフィラを私の横は座らせ、彼の機嫌をとった。
『さすがアイリスさん!』
そう呟きながら話を仕切ってくれるアイリスさんに任す事にした。
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