検問所
あと少しで国境。やっと帰ってきました。
「フィナさん今からそんなに緊張していたら、ケビンさんの所に着く前に倒れるよ」
「だっ大丈夫ですわ」
お世話になったブルズ子爵邸を朝早く出発しトンネルを通りもうすぐ国境の検問所に着く。行きは女官の身分証明証で入国したけど大丈夫なの⁈ 少し不安に思っていたら馬車が止まった。シリウスさんの手を借り降りると…
「何これ⁉︎」
検問所には甲冑を着た騎士達が一列に並び、貴族らしい男性が正装して待ち構えていた。ビビりながらシリウスさんを見上げると
「どうやら昨日1日でレッグロッドの貴族に"女神の乙女"の事が伝わり、検問所を管理するグレゴール男爵が自らお見送りに来たようです」
「…」
逃げ腰の私をシリウスさんがエスコートし、待ち構える男爵様の前へでる。するとブルズ子爵様と同じく知らない事とはいえ、挨拶できなかった事を謝罪された。こちらが黙っていたのだから謝らなくてもいいのに、礼を重んずる貴族そうはいかないようだ。無難に謝罪&ご挨拶を受ける。そして後で聞いた話だがグレゴール男爵はゴリゴリの貴族派で、レベッカ嬢を崇拝しているそうだ。しかし昨日の謁見の間での事が伝わっているらしく、手のひらを返し私にゴマをすりを始めた。
『小者ほど方向転換が早いのよね…』
挨拶が終わると男爵様に屋敷に招かれたが、帰路を急ぐとお断りをして検問をパスし、国境を越えやっとモーブルに入った。モーブルに入り心なしか体の力が抜けたような気がする。そしてケビン様が待つワイズ子爵領に急ぐ。
いつも馬車の中ではフィナさんと恋バナや他愛もない話をして過ごすが、今日は告白TIMEがあるからかフィナさんは何を話しても空返事。苦笑いをしそっとしてあげる事にした。
「フィナさん。寝不足なので次の休憩地まで少し寝ますね」
「はい。もう少しブランケットをお掛けしましょうか?」
こうして子爵邸まで仮眠を取りHPの回復を図る。目が覚め目の前に座るフィナさんを見ると、緊張し過ぎてエライ事になっている。倒れないか心配していたら御者の小窓が少し開いて
「ワイズ子爵邸が見えて参りました。フィナ嬢。多恵様のご準備を」
「はっはい!畏まりました!」
もう色々バグってるフィナさんは声のボリュームもおかしくなっている。そして私はフィナさんに身なりを直してもらい馬車が停まるのを待っていた。馬車はゆっくり止まりシリウスさんの手を借り降りると、目の前にはケビンさんと中年男性が迎えて下さった。中年男性は多分初めましてだ。するとシリウスさんが現ワイズ子爵家当主のバルドー様だと教えてくれる。
恐らくフィナさんが来るのを聞き駆け付けたのだろう。そして子爵様から丁寧なご挨拶を頂いていると、隣にいるケビンさんは火傷しそうな熱い視線をフィナさんに向けている?
私の位置からフィナさんは死角で表情を見る事は出来ないが、恐らく真っ赤な顔をしてあたふたしているのだろう。
こうしてご挨拶が終わり侍女さんが部屋に案内してくれる。勿論フィナさんはケビンさんと感動の再会中。もちろん邪魔はしません! 2人の様子を窺った後にいい気分で部屋に向かう…と?
「あれ?何で?」
戸惑っていたら従僕さんから私の荷物を受け取ったアイリスさんが荷ほどきを始めた。
「何でここに居るの?」
「驚かれましたか?」
「もぅ!びっくりだよ。ちゃんと説明してくれるんでしょう⁈」
そう言うとアイリスさんは微笑み、私の手を取ってソファーに誘導する。座るとワゴンに用意された茶器でお茶を入れてくれる。温かいお茶で落ち着くと
「フィナ嬢がワイズ子爵邸到着を持って休暇に入ります。そうすると多恵様のお世話する者おりません。そこで陛下が私にこちらに向かい多恵様のお世話をする様に命ぜられました」
「お世話がなくても問題無いって言ってあったのに…」
そう、ワイズ子爵領から一人になるけど大丈夫だと何度も陛下に言ってあったのに、陛下の過保護が発動した様だ。苦笑いしていたらアイリスさんが手紙をテーブルに置いた。手に取り差出人を確認するとダラス陛下からだった。状況が状況だけに開封するのが怖い。
戸惑っていると優しい微笑みを向けたアイリスさんが
「私が出発する直前にグレン殿下とフィル殿下がお戻りになられました。殿下はとても優しい表情をされておられ、王妃様といい時間をお過ごしになられたのだと感じましたわ。陛下も安心なさっておられました」
「そう…よかった」
レッグロッド視察で忙しかったけど、殿下達の事が気になっていた。アイリスさんの言葉に気が緩みだらしなくソファーに寝転がると、アイリスさんが笑い出し
「モーブルに戻りやっと気が抜けた様ですね。色々大変だったとお聞きしております」
「そうなのよ!」
ここから気を許しているアイリスさんに愚痴をこぼした。アイリスさんが絶妙な相槌をするから饒舌になり、直ぐにカップのお茶が無くなってしまった。
するとアイリスさんは思い出した様に手紙をもう1通取り出し私の前に置いた。差出人は宰相補佐のエルビス様だ。
手紙の内容はケビンさんとフィナさんがすれ違いになった原因であるモニカ嬢のご実家クーパー伯爵家の不正調査の報告書だった。まずはこちらを先に読む事にした。
結果から言えばクーパー伯爵はオーギス侯爵の不正に加担はしていないが、貴族派に便宜を図り賄賂を受け王城に届いた手紙を奪い、中を読みそこから情報を売り、密会を阻止する為に応接室を利用させない様に邪魔をしていた。
フィナさんの件で職権濫用が発覚し激怒した陛下により、クーパー伯爵家現当主は領地に幽閉され、奥方の遠縁から養子を迎え当主を交代する事でお家は存続させ、爵位は男爵にまで落とされたそうだ。
2人の邪魔をしたモニカ嬢は侍女を解雇になり、ベイグリーの親戚の家に身を寄せる。そして親戚が決めた男性と縁組をするか修道院に入るか選択を迫られているそうだ。
報告書を読み終えなんとも言えない気持ちになり、アイリスさんが入れてくれたお茶のおかわりを飲み天井を仰ぐ。暫く目を閉じて心を落ち着かせてから、陛下の手紙を手に取った所で部屋に誰か来た。アイリスさんが対応してくれると
「多恵様。夕食の時間でシリウス様がお迎えに参られました」
「あっはい。行きます」
シリウスさんに手を取られダイニングに着くと皆さんお揃いで、部屋は和やかでとてもいい雰囲気に思わず顔が緩む。すると…
“くぅ〜”
私のお腹も緩み最大に鳴ってしまった。恥ずかしくて手で顔を覆うとシリウスさんが抱きしめて、耳元で甘い言葉を炸裂させる。皆んなの前で恥ずかしく必死でシリウスさんの腕から抜けると、シリウスさんに負けず劣らのずケビンさんがフィナさんの手を握り見つめて甘い世界を創り出している。
その様子を見ていて人のラブラブは目のやり場に困る事を改めて実感し、これからは気をつけようと反省した。
給仕に困っている使用人を見て子爵様の大きな咳払いをし、慌てて着席しやっと美味しい食事をいただく。久しぶりに楽しい食事会となり、調子に乗り食べ過ぎて後悔した。そしてお腹を摩りながらベッドに入り、てん君に説教を受けながらこの日を終えた。
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