城下へ
最終日。城下散策が楽しみで準備をし部屋を出ると…
「さぁ!最終日だよフィナさん!」
「はい。長い様であっという間にでしたね」
そう今日は最終日で城下視察後に少しだが街ぶらが出来る。城下へ行くので女官のお仕事着では無く普段着で城下に向かう。今日の装いはシンプルなライトグレーのワンピースにコルセットベルトを着け大人し目のスタイルだ。朝食事に集合場所へ向かっていると進行方向からエミリア嬢と従者が歩いて来た。
『げっ!』
初日に遭遇してから会う事が無く油断していた。エミリア嬢からは強烈な視線を送られ、慌ててフィナさんと廊下の端に寄りカーテシーをし通過するのを待つ。何事も無く通り過ぎ安心して顔を上げると、エミリア嬢がいきなり振り返り私の元へ歩いてくる。侍女の習性でフィナさんが私を護る為に前に出ようとしたが、フィナさんの手を掴んで首を振った。エミリア嬢が再度近づいたので頭を下げると
「やっと帰るのね」
「…」
「許すわ顔を上げなさい」
そう言われたので仕方なくフィナさんと顔を上げる。呼び止めてまで私に何を言いたいのだろう。少しの沈黙の後に
「乙女が来る必要が無い事が良く分かったかしら?」
「はぃ?」
「我が国が敬愛するレベッカ様の加護がある限り他者の手助けは不要。悲しいかな我が国の者でもそれを分かっていない者が多すぎるわ」
「…」
乙女だとバレて無いのに何故か初めから敵視されていて、もう苦笑いするしかない。エミリア嬢は私の態度が気に食わないのか、一歩前に出て私の髪を鷲掴みにし引っ張り上げた。
「痛っ!」
「おっおやめください!」
フィナさんが必死に手を放す様にお願いするが一向に放す気配はなく、プチプチと髪が切れる音がする。じっと耐える私に余計に腹を立てたエミリア嬢は
「そもそも偽物の乙女と同じ髪色が目につくだけで腹立たしいのに!早く自国に帰りなさい!」
エミリア嬢がヒステリックにそう叫ぶとてん君が
『たえ フィラ いかりしんとう こっち くる』
『ダメ!視察を終えるまで来ないで!私は大丈夫だから!』
髪引っ張られる痛みに耐えながら、思念でフィラを制止していたら…
“ビュー!”
城内なのに突風が吹きエミリア嬢が数メール吹っ飛んだ。唖然としていたら光の玉が無数に現れて私の前に集まった。まるで私を守るかのように…
『たえ かぜのようせい がまん げんかい きた』
『あちゃ…』
倒れて起き上がらないエミリア嬢に従者が駆け寄り大きい声で彼女を呼び、フィナさんは近くにいた下女に人を呼んで来るように指示をした。直ぐに近くを巡回していた騎士さんが駆けつけてくれ、彼女の容態を確認してくれ、気絶をしたが怪我はしていないようだ。
怪我の無い事を聞き胸をなでおろす。そして駆け付けたカイルさんが彼女の従者と目撃していた下女から話を聞き頭を抱え青い顔をする。
「カイルさん。何してるんですか!早く令嬢を医務室へ」
「あっはい!お連れしなさい」
『何で被害者の私がこの場を仕切ってんのよ』
エミリア嬢が退場した瞬間
"ドン"
床が付き上げられ数秒揺れた。
『箱庭にも地震があるの?』
久しぶりの地震にビク付いていると、目の前でカイルさんが変な動きをしている。よく見ると光の玉に邪魔され近づけない様だ。妖精達の怒りは治まらず怒りをカイルさんにぶつけている。収拾がつかなくなってきて困っていたら、また風が吹き温かい腕に抱え込まれる。見上げると綺麗な琥珀色の瞳と目が合い、その瞳は揺れていた。
「フィラ!」
「痛みはないか?」
そう言い頭を優しく撫で口付けた。どうやらフィラは自分が駆け付けたいのを我慢しつつ妖精達を止めていたが、風の妖精達はフィラの制止を無視してやってしまった訳だ。フィラ曰くまだ怒りがおさまらない妖精達にフィラの声は届かず、何をし出すか分からない状態だと言う。珍しく困り顔のフィラから妖精達を説得して欲しいとお願いされた。これ以上問題を起こされるとマジで正体がバレるので、心を落ち着かせ妖精に話しかける
『あの まがいものレベッカ たえ きずつけた ゆるせない』
『私は大丈夫だからやめて』
『まだ たりない もっと もっと』
『気持ちは嬉しいけど、これ以上は私が辛いわ』
『・・・ たえ つらい だめ わかった』
何とか妖精達を宥め落ち着いた頃に、約束時間に待ち合わせ場所に来ない私達を探しにシリウスさんとアダムさんが来た。そしてフィラを見るなり真っ青な顔をしている。
そしてカイルさんから事情を聞いたアダムさんが怒りを露わにする。
「これではっきりした。多恵様を任せる事が出来ないと判断せざる負えない。我が王に報告しレッグロッド訪問中止を進言致します」
「いや!あれは一部の者の暴挙で…」
そこへ事情を聞き駆け付けたオーランド殿下も加わりは弁明するが、あの温厚なアダムさんが烈火の如く怒り手が付けれない。でも不思議な事に一番に吠えそうなシリウスさんが何故か冷静で、端でフィラと何か話している。そして青い顔をしたフィナさんが傍に来て私の肩に落ちた抜けた髪とちぎれた髪を払いながら声無く泣いてている。
『あ…最終日にやっちまったよ。これどう治めるのよ』
もうどうしていいか分からずに遠い目をしていた。すると悪い顔をしたフィラとシリウスさんが近づいてくる。何故だろう?この二人の組合せって悪者感が半端ない。表情を緩めたフィラが私の前に来て抱きしめ額に口付け耳元で
「後はシリウスに任せたから心配するな。俺は妖精連れて一旦帰る。多恵!シリウスは案外腹黒いぞ。お前の相手としてまだ認めないが、まぁ…オーランドよりマシかもな」
「はぁ?」
意味不明な事を言いフィラはチークキスをして妖精達と帰って行った。そしてまだ怒り続行中のアダムさんをシリウスさんが宥めているを見ていた。
「アダム。まだ多恵様の正体はバレていない。お前の気持も分かるがここは治めてくれ」
「しかし!」
「大丈夫。これで終わらせるつもりは無い。今は俺を信じ任せてくれ」
「?」
結局。この場はシリウスさんが治めてくれた。私に謝罪しようとするオーランド殿下をシリウスさんが時間が無いと拒み、謝罪は帰国時の謁見で受ける事になった。時間は押したがこのまま予定どうり城下視察に向かう事になり、時間短縮の為に馬での移動になった。そうなると乗せてもらうのが…
「多恵様もっと私に身を預けて下さい」
「あ…はい」
背後からがっしりとシリウスさんに抱きかかえられ城下を目指す。目的地到着まで少しあるのでシリウスさんに
「フィラと何を話したの?」
「あぁ…後にわかりますよ」
「なんか疎外感…」
そう言い少し拗ねるとシリウスさんは更に強く抱き寄せ。耳元で
「ちゃんと妖精王と相談し対策していますのでご安心下さい。オーランド殿下とも話す時間をちゃんと持ちますから」
「本当に?」
そう言うと微笑むシリウスさん。今は2人を信じ最後の視察に集中する事にした。
城下に着き自警団の詰所に馬を預け3班に分かれ城下を散策しながら乙女について聞き込みを始める。聞き込みと言っても街頭アンケートなんていきなり始めたら怪しまれるから、各自お土産を買うついでに世間話をし、さりげなく異界から来ている乙女について聞き込みをする事になった。
自分の事を聞くのは中々辛いものがあるが、同行しているシリウスさんが上手く話をしてくれ案外順調にレッグロッド国民の本心を聞けている。性別も年齢も違う市民から話を聞き終えた所でシリウスさんが飲み物を買ってくれベンチに座りいただく。
「やはり貴族より平民の方が(乙女に)好意的ですね。それに貴族の前乙女崇拝をよく思っていない平民が多いと感じます」
「そうだね。結局は前乙女の恩恵は貴族の方が多く受けているから仕方ないのかなぁ…」
そんな事を話していたら何処からとなくいい匂いがして来た。すると広場の皆さんがぞろぞろと1件の屋台に並び出した。気になって並んだいる人に何を売っているのか聞いたら
「お嬢ちゃんレッグロッドは初めてかぃ?みんなレッグロッド名物のタロズのつぼ焼きを買うのに並んでいるんだよ。今日はそんなに並んで無いから買って食べてみな。食べなきゃ後で後悔するよ」
『焼き芋みたいなものかなぁ?』
興味が出て来たらシリウスさんが手を引き噴水の縁に私を座らせ、騎士さんに付き添い命じウインクしてあの行列に並んでくれた。どうやらタロズのつぼ焼きを買ってくれるようだ。ワクワクしながら座って並んでいるシリウスさんを見ていたら…
『ん?』
シリウスさんの前に並んでいる女性2人が振り返りシリウスさんに声をかけている。猛アプローチする肉食女子にいつも以上の仏頂面のシリウスさんを観察する事にした。するとシリウスさんは少し会話をした後に徐に私の方へ視線を向けた。つられて女性達も私を見て露骨に鼻で笑い何かシリウスさんに言っている。
「へ?」
シリウスさんが冷気を発しながら女性達に何か言ったら、2人の女性は顔を赤くして前を向いて静かになってしまった。紳士の彼が女性達に酷い事を言ったとは考えにくいが…嫌な予感がする。不安になって護衛のコリンさんに視線を送ると彼は苦笑いをして
「恐らくあの女性達が多恵様を蔑む発言をしたのでしょう。シリウス殿は多恵様に対する悪意は何者で有っても許さないので」
「…」
苦笑いし視線を向けた先にには眉間に皺を寄せた厳ついシリウスさん。私のせいで嫌な思いをさせたと思い申し訳なく思っていたら、視線に気づいたシリウスさんは表情をやわらげて何か言った。
「!」
こんな時に限って普段できない読唇術がまた出来てしまい顔が赤くなる。
『そんな色っぽい視線で愛を囁かないでよ!』
1人悶絶していたらタロズのつぼ焼きを買い終えた例の女性達が私の前を通りかかり、明らかに私を見て寄って来た。嫌みや悪口を覚悟したら素早くコリンさんが私の前に立っち壁になってくれた。急に大柄な男が現れ驚いて逃げていく女性達。嫌みは言われなかったけど、驚かせて悪い事してしまったと少し罪悪感。すると戻って来たシリウスさんがコリンさんに手を上げ、コリンさんは会釈した。そして…
「貴女の様に甘く蕩ける様な香りのいもをどうぞ」
「あ…いも…」
失言に全く気付いていないシリウスさんをみて残念そうな顔をしたコリンさん。まぁ…私は芋っぽくてもっさりしているのは否めないから敢えて何も言わない。そして買ってもらったタロズのつぼ焼きは、やっぱり焼き芋で香ばしい香りに濃厚な甘さ。先ほどの嫌な気分もぶっ飛び幸せを感じながら食べていたら、別行動していたフィナさんとアダムさん班が合流。タロズのつぼ焼きに釘付けなフィナさんとタロズのつぼ焼きをシェアし得た情報を報告し合う。
そしてほんの少しシリウスさんが時間を取ってくれ、フィナさんが見つけた可愛い雑貨のお店に寄ってもらい、沢山お土産を買い満足して城下の視察を終えたのでした。
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