改革
シリウスVSウィルスに困ってしまい…
シリウスさんとウィルスさんの睨み合いが起こり側が慌てだす。一番初めに動いたのはカイルさんで、視察団のスケジュールが詰まっていて無理だと言い、ウィルスさんに諦める様に告げると
「貴殿が我が国の女官になんの用向きがあるというのだ。彼女は陛下から拝命した任がある故、遊んでいる間は無い。伴侶探しがしたいなら他ですればいい」
シリウスさんは高圧的な態度で冷たくそう言い放つ。シリウスさんは公爵家嫡男に対し、ウィルスさんは子爵家の次男坊で身分差があるので自ずとこのような対応になる。するとウィルスさんは怯む事無くシリウスさんに
「噂に聞けばモーブルは労働の基準を設け、労働者に一定の休憩を与えるようになったと聞きおよんでおります。それは乙女様の助言で取り入れられた事ではないのですか⁈ それなのに城勤め彼女が休憩も取れないとなれば、乙女様の意に反するのでは?」
そう言いウィルスさんは一歩前に出てシリウスさんに対峙する。痛い所と突かれ言葉を無くすシリウスさんに彼は
「話す時間を頂きたいだけでごさいます。それにエリカ嬢が拒めば諦めます」
そう言い熱を持った視線を私に向けて来る。箱庭に来て何度も思ったけど、【無知って無敵】だ。恐らく初めから乙女だと知っていたらナンパなんてしなかっただろう。そんな事を考えながら私は他人事でいた。するとシリウスさんが
「分かった。エリカ嬢が了承すれば認めよう」
シリウスがそう言うとみんなの視線が私に向く。その視線の圧が強く後ろによろけると、フィナさんが支えてくれる。モーブル側の皆さんの視線は"断れ"と言っていて、困って視線をウィルスさんを向けると彼は声を発せず何か言った。普段は読唇術なんて出来ないのに、何故かこの時は読めてしまった。それは…
『お・と・め・様』
と言ったのだ。正体がバレている。これって脅されているの? そう思ったが彼の表情からはそんな感じは無かった。でも何か思惑があるのかもしれない。ちょっと怖いけどカイルさんが信頼できる人だと言っていたから大丈夫だと判断し
「口説かない事と、長くならないと約束して下さるなら…」
「!」
私が応じると思っていなかった様で、シリウスさんはじめカイルさんも固まっている。
「たっ…エリカ嬢!断っていいのですよ!」
「いえ、応じた方が話が早い気がして…ウィルス様。口説くのは無しですよ」
「ありがとうございます。約束は守ります」
そう言い破顔したウィルスさんは私の手を取り腰に手を当てエスコートを始めた。するとぞろぞろとシリウスさんはじめモーブルの皆さんが後をついて来る。見上げるとご機嫌のウィルスさん。
『私の勘では悪い人では無いと思うんだけどなぁ…』
そう思いながら彼の横顔を見ていたら、私の視線に気づき顔を寄せた彼が
「その視線は口説いてOKと取っていいのでしょうか?」
「だっダメですよ!」
すると背後から沢山の咳払いが聞こえ苦笑いする。そしてやっと応接室に着きドアを開けたウィルスさんがついて来たシリウスさんに
「エリカ嬢との約束は必ず守り、紳士であると誓いますのでお戻りを…」
「いや!ここでまっ…」
"バタン"
渋るシリウスさんを無視して扉を閉めたウィルスさん。そして着席するとまたポケットからあの飴を取り出しまた"あーん"をしてくるが、手を出すと笑いながら手の平に飴を一つ乗せてくれた。
「まずはお時間をいただきありがとうございます」
「いえ。ではお話をお聞きしましょう」
すると優雅に足を組んだウィルスさん。彼は婚約者や求婚者ほどでは無いがこの人もかなりの男前で福眼だと思っていたら
「私の親友2人がアルディアとモーブルで文官をしており、乙女様の事を手紙で知らせてくれ、良く存じ上げております」
「…」
今の発言で彼が私の正体を知っている事が確定しました。反応に困っていたら、彼は上着のポケットから封筒を取り出し、中から1枚の紙を出しテーブルに広げた。
「!」
その紙は私の絵姿でとても上手で完全に私だと分かる。焦っていたら急に私の手を取った彼が
「親友の手紙を読み貴女の世界の話を聞きたく、お会いできる日を楽しみにしておりました。そして送られた絵姿を見てから貴女に恋をしておりました」
「あの…口説かない約束をだし、私はエリカです」
そう言うとウィンクした彼はまた飴を取り出し飴で私の唇を優しくつつく。それはまるで食事が進まない幼児に食べさせる様に。甘い微笑みを湛えた彼に飴を餌付けされ、恥ずかしくてどんどん汗が出てくる。彼は止める気はないようで、私が先に折れて口を開け飴を食べた。するとやっと離れてくれ胸を撫で下ろす。そして座り直した彼は
「恋焦がれていた貴女が視察団に同行している事に気付き、ずっと陰から見つめておりました。しかし貴女を知れば知るほど私では役不足なのを痛感しております。ですから安心して下さい。貴女に言いよる気はございません」
「…」
どう返事していいか分からず押し黙ってしまう。暫くの沈黙の後に彼は
「立場上正体を明かさないのは理解しておりますが、ひとつだけ教えていただきたい」
「…」
『だから返事できないんだって!』
まだまだ続くピンチに胃が痛くなって来たら
「モーブルに齎した【九九】なるものや、アルディアで話された【義務教育】なるものを教えていただきたい」
「!」
驚く私を気にせず話しを続ける。彼は今は文官をしているが本当はアカデミーの講師になりたかったそうだ。しかし彼は子爵家の次男。アカデミーは高位貴族の者しか講師にはなれず、仕方なく城勤をしているそうだ。夢を諦めきれない彼はアルディアかモーブルの貴族に婿養子に入りをし他国で講師になりたいと考えていた。
そんな時に親友から私の話を聞き興味をもち、さらにモーブルでは労働基準や四則演算などの知識を披露した乙女に会ってみたいと思うようになったそうだ。
「レッグロッドは男女問わず1年アカデミーに通いますが、令嬢達は学ぶ事より婚姻相手探しに必死なのです。それに高位貴族の令嬢はアカデミーで学ぶより、祖母や母親からレベッカ嬢の女性学を学ぶ事を優先し偏った知識を持ってしまうのです。これでは国の繁栄はあり得ない」
そう言い眉間に皺を寄せ俯いてしまった。ウィルスさんから話を聞き、改めてレベッカさんの影響の大きさを知る。これに関しても改善が必要な様だ。でも今は…
「分かりました。モーブルに帰り乙女様にウィルス様の訴えをお伝えし、乙女様か正式にレッグロッドに渡られた時に、面会できる様に私が直々に乙女様にお伝え致します。それでいいですか?」
真っ直ぐに彼の目を見て伝えると、破顔したウィルスさんに抱きつかれる。そして許可もなく頬に口付け耳元で
「では近いうちに乙女様としてお越しになるのをお待ちしております」
「!」
やっぱり正体はバレているけど、言質は取られていない。誰か頑張った私を褒めて褒めて!
“ドンドン!”
いきなり大きなノック音がし驚いてウィルスさんに抱きついてしまうと、彼は強く抱きしめてくる。慌ててウィルスさんの背を叩くと耳元で
「もし貴女が望んでくれるなら、貴女の傍に私を置いていただきたい…」
「えっと無理ですよ!貴方には素敵な女性がいらっしゃいますわ」
そう言うと腕を緩めた彼は溜息を吐き
「はぁ…完全にフラれましたね…って初めから相手にされてなかったですね」
そう言い微笑み彼はまた飴の入った瓶をくれた。そして手を引きエスコートしてくれ応接室の扉を開けた。すると目の前に鬼の形相のシリウスさんと、不安げなフィナさんが立っていた。
「エリカ嬢お時間ありがとうございました。後少しですが何かございましたら、いつでもお声をかけて下さい。貴女の助けとなりましょう」
「えっと…はい。あっ!飴ありがとうございます」
そう言い手を出して握手を求めると、横からシリウスさんが私の手を取りウィルスさんを牽制する。苦笑いしたウィルスさんはシリウスさんに丁寧にお礼を述べ、私にウィンクして颯爽と立ち去って行った。
『教育改革か…難しいけとレッグロッドには必要かもね。やっぱりウィルスさんは味方になってくれる人だったよ』
いい出会いに気分がいい。そして部屋までの帰り道はモーブルの皆さんの機嫌が悪く、いい気分が半減してしまうのだった。
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