置いてけぼり
城内見学で疲れ切り夕食に向かうが…
案内してくれる従僕さんの後ろをフィナさんと雑談しながらついて歩いているとある事に気付く。フィナさんも同じ事を思っているで
『順路が違う』
どんどん城内の奥に行き、廊下を歩く人も減った薄暗い場所に来た。そして従僕さんは振り返り人懐っこい笑顔を湛えて
「申し訳ございません。少しこちらでお待ちいただけますか?」
「何故ですか?それに初めて通るこの場に置いて行かれては、私達迷子になります」
「急用を思い出したので、代わりの者に案内させますので」
そう言いこちらの了承を得ず立ち去ろうとした。慌てたフィナさんが従僕さんを止めようと手を伸ばしたら、彼は態度を豹変させ
「乙女を慕うあんたらの世話を進んでしたがる者は、この城にいないんだよ。いい加減嫌がられてるのを理解し、視察などせず帰国の日まで部屋で大人しくしていればいい」
そう言い敵意を向けて来た。フィナさんが私の前に立ち
「それはレッグロッド王の意向ですか」
「王家は対外的には言えんが、この国では前乙女様が絶対なのだ」
そう言い従僕は足早に立ち去ってしまった。フィナさんの元に行くと体を震わせ泣きそうな顔をしている。震えるフィナさんを抱きしめると
「悔しいです。こんな素晴らしい乙女様をこの様な扱いをするなんて!」
「私なら大丈夫だよ。嫌わるのはある程度は想定していたし、身に危険が及んだ訳では無いしね」
ある意味陰湿ではあるがいじめのレベルだ。それにこんなあからさまな事しても、問題無いと思っている思考も幼稚だ。本当に害そうとするなら足のつかない様にするし、もっと物騒な事もするだろう。
そんな事を思いながらこの後どうするか考えていたら、廊下の向こうから誰か来た。薄暗くて分からないが、3人いて1人がもう1人に引っ張られている。一応警戒すると…
「スコット様とウィルス様?」
そう私の専属騎士(の予定)のスコット様と、昨日のナンパ男のウィルス様だった。そしてスコット様が先程私達を置いてけぼりにした従僕の首根っこを掴んでいた。唖然とする私達にウィルス様が胸に手を当て深々と頭を下げて謝罪される。
「この者が悪意を持って貴女方をこの様な場に置き去りにした事を謝罪致します」
「私は偉大な乙女の為にしたのだ。褒められても責められる謂れは無い!」
そう言い暴れ出した従僕の足を払い、スコット様が従僕を押さえ込んだ。あまりもすごい力で押さえ込まれた従僕はうめき声をあげる。
『だめだよ!それ以上したら危ないから』
思わずスコット様を止めた。すると駆け寄る沢山の足音が聞こえ、カイルさんとアダムさんが悲壮な顔をして走ってくる。
「あ…大変な事になっちゃった」
そう呟くと緊張が解けたフィナさんが小さく笑う。
直ぐにモーブルの騎士3名とカイルさん、レッグロッドの騎士2名駆けつけ現場検証?が始まってしまった。
意地悪された当の本人は何とも思っておらず少し離れて遠巻きに現場検証を見ていた。すると騎士さん達に現場を任せたウィルス様が私達の元に来て
「あの従僕はレッグロッドでも大きな商会の親族籍の者で、行儀見習いに来ております。その商会は前乙女がお造りになった地下道のお陰で富を得た一族なのです。だから熱狂的なレベッカ信者で、乙女の為に来た貴女方を敵視したのでしょう」
「そうなんですね」
あまりにも私があっさりしているので、驚いた表情でウィルス様は
「ショックでは無いのですか?」
「はい。想定内ですから」
「はぁっ!それは残念だ。ショックを受け怯えた貴女をお慰めできると下心があったのですが残念ですね」
そう言い無邪気に笑うウィルス様。案外いい奴なのかもしれない。そうしているとアダムさんがフィナさんを呼び、現場検証に向かいウィルス様とツーショットになってしまう。すると…
“ぐぅ〜”
夕食が未だの私のお腹が空腹を主張し出した。驚いた顔をし笑い出すウィルス様。そしてポケットから小さい小瓶を出し、中からべっこう飴?の様なモノを取り出し差し出した。
空腹で何も考えて無かった私は思わず口を開けた。すると顔を真っ赤にしながら飴を私の口に入れてくれたウィルス様。やっぱり飴はべっこう飴の様で、濃厚な甘味が空腹を抑えてくれる。お礼を言うと破顔したウィルス様が私の手を取り
「貴女の名をお聞きしていなかった。お伺いしても?」
助けてもらったしどうせ偽名なので警戒心なく
「エリカと申します」
「綺麗いな名だ。貴女にはいい人はいらっしゃるのでしょうか?」
あ…忘れては君はナンパ君でした。どう返事しようかと考えていたら、カイルさんとフィナさんが来てカイルさんから謝罪を受ける。
するとフィナさんが私を見てカイルさんに耳打ちし、カイルさんはスコットさんに指示を出し私の手を取った。
「?」
「申し訳ございません。食事がまだでしたね。この件については全容が分かり次第ご報告させていただきます」
「あ…分かりました」
いいタイミングでカイルさんが入ってくれ、ウィルスさんのナンパから逃げる事ができた。
こうして【置き去り事件】は解決して7刻過ぎに夕食にありつく事ができたのでした。
夕食時間を過ぎていたので、夕食は部屋に用意されていて部屋でフィナさんとゆっくり食べていた。するとシリウスさんが部屋に来るなり私の前に跪き、守れなかった事を謝罪する。そんな事を気にしなくていいのに…
「今回は身分を隠しありのままのレッグロッドを見に来たんです。だから何も無い様に守られるのは違いますよ」
そう言うと驚いた顔をするシリウスさん。何故か思考停止している。間違った事は言ってはいないと思うが、思っても無い反応に
「とは言え刺客とか送られたら流石に守って欲しいですけどね」
「…」
「多恵様それは飛躍しすぎだと…」
とフィナさんが苦笑いをしてフォローしてくれる。そしてまだ固まるシリウスさんに困り戯けてみる。
「あれ?間違えた?」
すると急に立ち上がったシリウスさんは手を引き、強く抱きしめて来た。小さい悲鳴を上げたフィナさんは、食事の途中なのに寝室の方へ走って行ってしまった。慌ててシリウスさんの胸元を叩いて
「シリウスさん。まだ食べている途中です」
「申し訳ございません。少しだけでいい…このままで…」
先程の会話のどこが琴線に触れたのか私には分からなかった。でもシリウスさんは絶賛感動中の様だ。暫くして腕を緩めたシリウスさんは
「貴女の仰る通りありのままのレッグロッドを見聞きする為に来ています。だから多少の悪意や反感はあって当然なのは分かっていたはずなのに、己の気持ちを押さえされなかった。そんな未熟な俺に呆れましたか?」
「心配してくれているのも分かるし、何よりダラス陛下からの命もありますしね。立場的に当然だと思いますよ。それより私が無防備に好き勝手するから、気苦労おかけして申し訳なくて」
「そんな貴女だから愛さずにいらないんだ」
そう言い熱も困った視線を向け、色っぽいシリウスさんの顔が近づく。鼻先が触れそうなくらいシリウスさんのご尊顔が近づいた時、シリウスさんの左目尻に小さい黒子を見つてしまい逃げ遅れ…唇に何か触れた
“コンコン”「失礼致します」
「「!」」
『あっ?今キスした?』
焦ってパニくる私に真っ赤な顔をして見つめてくるシリウスさん。そして外からノックし続けるカイルさん。
そんな変な空気に包まれた部屋を恐る恐るフィナさんが覗き、申し訳なさそうにカイルさんに入室許可をしていいか聞いて来た。まだ緩まないシリウスさんの腕を叩きながら許可するとカイルさんが入って来て固まる。
『もう!誰かこの場を治めて!』
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