料理長
城内見学をするが…
厳しい侍女長がここからの案内を申し出て、焦るカイルさんを後目に案内を始めてしまう。侍女長がご一緒しているからか、私たちを見ると礼儀正しく挨拶されてしまい、普段の様子を見る事が出来ない。横目でカイルさんを見ると遠い目をしている。
『また別の日にこっそり探索しないとね』
時間をかけてまわり見学は下男下女の皆さんがお仕事している場所にきた。丁度洗濯場横を通りかかると、こちらに気付いていない下女さんの雑談が聞こえてきて
「乙女様は本当に来るのかね?」
「リリスの使命があるんだもん来るじゃないの」
どうやら私の噂をしているようだ。これはレッグロッド国民の生の声を聞けるチャンスだと聞き耳をたてていると
「でも乙女が来てもあの女性にいびられるんじゃないの」
「そこは殿下がお守りするでしょ」
「でもこの前に中庭を掃除していたら、あの令嬢の取り巻きが乙女は醜女だと言い、いびりる準備は出来ているって言ってたわ」
「「!!」」
思わずフィナさんと顔を見合わせ息をのんだ。すると
「その話はいつ何処で聞いたの⁈」
侍女長が一歩出て下女さんを問い詰める。いきなり侍女長登場だけでもびっくりなのに、私達がいて下女の皆さんは顔を青くし深々と頭を下げた。唖然とする私とフィナさんの前で誰がそんな事を言ったのか問い詰めだした侍女長。下女さんは怯えながらその令嬢の名を告げると、カイルさんが溜息をつき険しい顔をする。そして侍女長は下女さんに仕事に戻る様に言いカイルさんに
「後ほど事実確認をし陛下と殿下にご報告いたします」
青い顔のカイルさんが何か言おうとしたら、侍女長は私とフィナさんに向って頭を下げ
「まずはこの様な恥ずかしい話をお耳に入れ謝罪いたします」
「いえ…」
「陛下より視察団の皆様にはありのままをお見せする様に言われております。お恥ずかしながら城内には乙女様によくない感情を持つ者も多く、陛下や殿下は改善するため手を尽くされておられます。この事はモーブルへ報告いただいた結構でございます。しかし、乙女様をお迎えするまでに必ず、改善致します事も合わせて報告いただきたい」
侍女長の真摯な言葉を受け、完全にアウェーで無いと実感でき少し安心した。そして洗濯場を離れ今度は調理場へ向かった。アルディアやモーブルは食材が豊富で何を食べても美味しくて、食事で困った事はなたっか。でもレッグロッドは大半を輸入に頼り保存食が多いと聞き、どんな食事が出るのか少し不安だった。でもこちらに来て食事をしたが、普通に美味しかった…でも若干野菜が少ない気はする。そんな事を考えながら城奥の調理場に着くと、昼食準備の真っ最中でいい匂いが調理場に充満している。お邪魔になるので入口から覗いていたら、調理服に身を包み顎髭をたくわえたイケおじが私に気付いて
「丁度良かったそこの可愛いねーちゃん」
「「?」」
騎士かと思う位に立派な体格のそのイケおじがこっちに向って歩いてくる。すると侍女長が私たちの前に立ち
「この方々はモーブルからお越しになった視察団の方々です。失礼の無い様に事前に通達したあった筈。それなのに"ねーちゃん"とは失礼にも程があります!」
侍女長が吠えているのに気にもしていないイケおじ。そして侍女長越しに
「乙女の好みを教えてくれないか?以前殿下とモーブルに行った侍女から、乙女がパン好きなのは聞いたが味の好みを知りたいんだ」
「だからその態度!」
更に吠える侍女長にフィナさんと苦笑いをしてカイルさんに視線を送る。するとカイルさんが間に入ってくれ、料理長と少し話をする事になった。
なんとイケおじは総料理長で第2女神イリアの箱庭ベイグリー出身。若いのに実力があり最年少で料理長になったそうだ。
この後料理長から乙女について色々質問を受ける。自分の好みに関する質問だから素直に答え、事前に好きなものを伝えられて反対に良かったのかもしれない。すると少し困った顔をした料理長は
「う…ん。前の乙女は野菜が嫌いで野菜を使う料理があまり多くない上に、自国で野菜の採れないレックロッドは生の野菜の入手が困難なんだ。乙女が野菜が好きなら輸入する品と入手ルートも考え直さないといけない」
「!」
私の好みに合わせてもらったら迷惑をかけてしまう。だから
「その必要はないかと…乙女様は好き嫌い無く何でも召し上がられます。それに特別扱いされますと気をお使いになられますから、今まで通りのレックロッドのお料理で問題無いかと…」
「へぇ…レベッカ嬢とは違うのだな。レベッカ嬢は好き嫌いが激しく、その時の料理長の記録にはメニュー作りが大変だと書かれていた。我儘を言わない今の乙女はいい女性なのかもしれんな」
料理長のその発言にまた侍女長が吠える。苦笑いしたフィナさんが料理長に、アルディアからブブ豆の輸入を依頼してくれた。隣で思わず顔が綻ぶ。すると目ざとく私の表情を見ていた料理長が
「黒髪のねーちゃんもブブ豆が好きなのか?」
「はい。癖があるので高貴なお方のお口には合わないようですが私は好きです」
そう言うと笑いながら料理長が
「ねーちゃんの名前は?」
「あ…エリカと申します」
「エリカちゃんはいい人は居るのか?」
「は?」
それまで存在感の無かったカイルさんが慌てて割って入り、調理場の見学を強制終了させ私の手を引っ張てその場から離れた。顔色の悪いカイルさんに侍女長の小言が炸裂する。どうやら私は料理長に気に入られたようだ。そしてこの後の食事から、私は皆さんより1品多く出されるようになりました。
そしてお昼休みを挟み城内見学は続き、気が付くと日が暮れ出し寒くなって来た。今日はここで城内見学は終わりにし部屋に戻る事になった。1日お付き合いいただいた侍女長にお礼を伝えると
「エリカさんだったからしら、貴女は人に好かれるようね。所作をしっかり覚えれば高位貴族との縁も望めますわ。レックロッドに居る間に教えて差し上げますから、空いて居る時間に私の所にいらっしゃい」
「えっと…お時間がありましたら…よろしくお願いいたします」
そう言いお辞儀したら、早速背に手を添えられお辞儀の角度を直された。その様子を黙って見ているカイルさんをフィナさんが睨んでいる。やっと侍女長の所作指導が終わり、疲れた体を引きずり部屋に戻り、フィナさんとソファーに沈み込む。
「多恵様。やっぱりレッグロッドに多恵様を任せるのは不安でなりません」
心配してくれるフィナさんに心配かけまいと
「想定内だから大丈夫だし、それにまだ2日あるよ」
心配するフィナさんにそう告げ、疲れてぼんやりする頭で色々考える。
『でも嫌とか不安だとか言ってられないのよね…。早くレッグロッドをなんとかしないとフィラの負担も増えるしなぁ… 』
“コンコン”
ノック音がしフィナさんが応対してくれると、殿下と打ち合わせを終えたシリウスさんだった。入ってもらうと彼も疲れている様で目の下に薄っすら隈が見て取れる。そしてまた気を利かせたフィナさんが寝室の方へ行ってしまった。
「先ほどカイル殿から報告を受けました。やはり貴族の令嬢達の反発はまだ強いようですね」
「はい。想定していたのであまり驚いてないですよ」
そう言うと手を引かれシリウスさんの腕の中にINする私。シリウスさんは優しく私の頭を撫で大きな溜息を吐く。
どうやら騎士さんチームの城内見学でも、私に反発する貴族を多く見かけた様で、騎士さん達が憤っていているらしい。そんな騎士さん達を宥めるのに苦労したようで、シリウスさんの眉間の皺が深い。
『私が提案した視察だけど、余計にレッグロッド行を反対される事になるかもしれない』
のっけから前途多難な状況に不安が増していった。そして抱きついて離れてくれないシリウスさんに困っていたら、アダムさんが打合せの時間だと呼びにきて渋々帰って行った。
恐る恐る寝室のドアを開け様子を伺うフィナさんに大丈夫だと言い、部屋に来てもらい一緒に今日の報告書を纏めていた。すると…
「失礼致します。そろそろ夕食の時間でございます」
「はぁ〜い」
返事をして書類を片付けて扉を開けると、いつもの侍女さんでは無く従僕さんが待っていた。
『大広間の場所は覚えたから、案内はいいと言ってあったのになぁ…』
そう思いながらも案内してくれる従僕さんについていくと…
お読みいただき、ありがとうございます。
続きが気になりましたら、ブックマーク登録&評価をよろしくお願いします。
『いいねで応援』もポチしてもらえると嬉しいです。
Twitter始めました。#神月いろは です。主にアップ情報だけですがよければ覗いて下さい。




