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伯爵家

レイハントに捕まりピンチの多恵。フィラの助けはまだ無くて…

「レイハント様。お離し下さい」


アダムさんが止めるが首元に顔を近づけ私の匂いを嗅ぐレイハント様。フィラが対策してくれるって言ったのに!嘘つき!

続くピンチに正体がバレるのを覚悟で、ビンタしてやろうと手を上げた時


「若様。急ぎ伝えたいことが!」


レイハント様に抱きかかえられた私の視界はゼロだが、誰か来たのは分かった。やっとレイハント様の腕が緩み直ぐにアダムさんが助けてくれた。戻った視界には従僕に耳打ちされているレイハント様。


「予定より10日も早いではないか!間違いでは無いのか⁈」

「否。早馬で花弁が届きました故に間違い無いかと」


“ちっ!”


舌打ちしたレイハント様は足早に私の前に来て


「残念だが火急の用向きができ、貴女から話を聞く時間がない。城勤の女官だったな⁈名を聞いておこう」

「はい。エリカにございます」

「落ち着いたら貴女の香水の話に聞きに登城しよう。今日発つのだろう⁈道中気を付けて向かわれよ」

「お心遣いありがとうございます」


そうしてレイハント様は足早…いや、走って行ってしまった。残された私達はポカーンだ。とりあえず危機を脱し疲れ切った体を引き摺り大広間に向い朝食をいただいた。

そして食べ終わり部屋に戻ろうとしたら、屋敷が騒然としている。それが少し不気味で部屋付きの侍女さんに聞くと


「私も詳しくは存じておりませんが、この領地の特産物の主材料になる花がこの時期に咲き収穫するのですが、今年は予定より早く咲いた様で屋敷中大騒ぎになっております」


どうやらその花は年一度しか咲かず、花の寿命も短く1日で花びらが散るそうだ。花が開花すると領民総出で収穫し10日かけて花びら・蜜・花粉と分けて加工するそうだ。その総指揮をレイハント様が担い、屋敷の使用人も最低限の人を残し作業中は畑と作業場に寝泊まりするそうだ。もちろん当主の侯爵様は屋敷を残って守り、レイハント様が収穫と作業の責任者となる。

この時話を聞いた私は『ふーん』程度に思っていたが、これがフィラの対策だった事を翌朝のフィラの訪問で知る事になる。


身支度を急ぎロビーに向かうと皆さん揃っていて、侯爵ご夫妻がお見送りに来てくれていた。また代表のシリウスさんが御礼を述べて


「何やらお忙しいご様子。我らはすぐ立ちます故、お見送りは必要ございません」

「申し訳ございません。帰路もこちらを通られるとお聞きしております。その時は落ち着いておりますので、お気にせずお立ち寄り下さい」


そして皆さんと一緒にお辞儀をして馬車に乗り込む。すると何故か侯爵様が馬車に来て


「愚息が貴女に付き纏ったようで申し訳ない。あれは《香り》の事になると見境が無くなる所がある。当主としてお詫びを…」


謝る侯爵様を使用人が唖然とし見ている。ヤバいと思い


「そんな!私の様な身分の低い者に謝罪など必要ございませんわ」


そう言い最敬礼した。使用人に背を向け私を見ている侯爵様は私の意図が分かった様で、焦りながら頷き小さい声で


『乙女様の旅路の無事をお祈りいたします』

『ありがとうございます』


こうしてやっとレッグロッドに向け出発となった。


朝一からハプニングに遭った私はヘトヘトで出発と同時にシートに寝転がり眠ってしまった。そして休憩と食事以外は馬車で寝て過ごした。そして…


「多恵様」

「へ?」

「間も無く本日の宿泊する伯爵家に到着いたします。ご準備を」

「はぁ…ぃ」


長かった馬車移動も終わり、今日はここで宿泊をするそうだ。お世話になるのはどこかの伯爵家。先日のサーヴァス侯爵家は事前に聞いていたが、今日泊まる伯爵家の事は何も教えてもらってなくて、人見知りが発動したのは言うまでも無い。


「フィナさんはお世話になる伯爵家の事は聞いてる?」

「え…一応は…ですが口止めされておりまして…」

「口止め⁈なにそれ」


私に内緒で何か企んでる?少しは不機嫌になったところで馬車が止まり扉が開いた。扉前にはシリウスさんが微笑み手を差し出す。疲れと仲間外れにイラっときた私は


「シリウスさん。私に言う事はありませんか?」

「はい。ございますが、まずは出迎えをいただいた伯爵殿にご挨拶を」


確かに先にご挨拶しないといけない。後で尋問してやると鼻息荒くシリウスさんの手を取り降りて前を向くと…


「へ?」


そこには見覚えのある殿方が!


「ようこそ我が領地にお越しいただきました。歓迎いたします」

「バートンさん?」


予想外の人が目の前に居てフリーズする私にシリウスさんが小声で


「多恵様の事はバートン殿しか知りません。後ほどお時間をお取りいたしますので、まずは女官としてご挨拶を」

「あっごめんなさい」


慌ててフィナさんと視察団の最後尾に並びバートンさんから挨拶を受けお辞儀した。家督を継がれ伯爵になられたバートンさんは、騎士の時の凛々しさでは無く当主の風格を持ち別人みたいだ。なんか甥っ子が成人したみたいで感慨深い。


エリカ(多恵)まずは部屋に移動よ」

「はい」


すっかり【エリカ】呼びが慣れたフィナさんと侍女さんに部屋へ案内してもらう。部屋は昨日と同じくフィナさんと同室。今晩も楽しいガールズトークができる。

フィナさんと荷解きしていたらシリウスさんが部屋に来た。恐らく…


「バートンさん!ご無沙汰です!」

「多恵様!」


嬉しくて思わず抱きついた。すると一瞬驚いたバートンさんは抱きしめてくれる。怖いもので初めはハグや抱きしめられる事が恥ずかしくて仕方なかった私も、気負わずできる様になっていた。騎士を辞めたのに分厚い胸板と腕に少し恥ずかしくなってきて、離れようとしたけどバートンさんの腕は緩まずとうとう…


「バートン殿。それ以上は抜刀する事になるぞ」


地を這う様な低音イケボが炸裂し残念そう?に腕を解いたバートンさん。すかさずシリウスさんが抱え込みバートンさんとフィナさんが苦笑いをする。

そしてソファーに座り聖騎士を辞め領地に戻ってからの話をしてくれた。キーモス元侯爵の柵が無くなり、まだ細々だが領地運営も持ち直しているそうだ。一時期心労で寝込んだ前伯爵様(お父様)もお元気なられ、領地の別宅で余生を過ごされているそうだ。全ていい方に向かっていて安心したら


「後は妻を迎えるだけです」

「バートンさんなら素敵な女性が来てくれますよ」

「叶うなら貴女が良かった…」


そう言い熱い視線をいただくと急に真っ暗になりびっくりする。このオリエンタルな香りは…シリウスさん。

悋気やきもち全開のシリウスさんが手で私の視界を塞いだ。すると楽しそうに笑ったバートンさんが


「今の気持ちは私の本心です。しかしそれが叶わぬのはよく分かっています。貴女の様な女性を妻に迎えれれば幸せだ。だからシリウス殿ご心配無用です。ですがあまり悋気やきもちが過ぎると小鳥は逃げますぞ」

「要らぬ心配に感謝する。貴殿にも多恵様の様に素晴らしい女性との縁をお祈りいたします」

「あはは…」


笑って誤魔化しバートンさんは退室して行った。この後聖騎士の皆さんと積もる話があるのだろう。いい再会に気分よくこの日は何も無く過ぎて行った。


そして翌朝。流石にフィナさんと同室の為、フィラはベットには来ない。身支度を終えた頃に風が吹き


「おはよう」

「今日もお前は可愛いなぁ…レッグロッド行きを辞めて俺の所は来い」


いつもの会話をスルーし手を出して


「目薬は?」

「お前最近俺の扱いが雑じゃ無いか?」

「そんな事ないよ。これが本来の私だから。嫌なら婚約解消してくれていいよ」

「そんな()()()()()愛してるぞ」


そう言い口付けてくるフィラ。慌ててフィナさんが後ろを向いた。そして色変わりの目薬を点眼してもらい。


「あっ忘れていた。レイハント様の対策してくれてありがとう。でも何をしてくれたかよく分からなかったんだけど」

「あ…あれはな」


フィラから事情を聞き


「はぁ?」


あまりの話に思わず絶叫し、外から騎士さんが駆け込んできて部屋の中はカオスな状態。挙げ句の果てにシリウスさんまで部屋に駆け込んできた。何も無かった事に安心して騎士さんは退室したが、ここぞとばかりにシリウスさんは部屋に残りフィラを牽制している。


「そんな事よりそんな事していいの?」

「お前より優先するものなどこの世界に無い」


嬉しい言葉だけどやっぱりダメだと思うよ…

お読みいただき、ありがとうございます。

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