マスター
香りから正体がバレそうになり焦るが…
「これはシリウス殿。お迎え出来ずに失礼いたしました。相も変わらぬその美貌で女性達を魅了してらっしゃるようだ。屋敷の女性達が騒いでおりました。それに貴方の香りが以前と変わり甘さが増した。王都から離れたこの地にまで、貴方と乙女様の噂が届いておりますよ」
「ご無沙汰しております。相変らず鋭い嗅覚で調香師としても磨きがかかっておられるようだ。それよりウチの者が何かいたしましたか?」
私とフィナさんと案内の侍女さんはどうしていいか分からず、5m程離れてお2人の様子を見ていた。すると侍女さんが小さい声で
「レイハント様はモーブル国内で唯一【調香師】の称号を与えられるほど優秀な調香師なのです。エリカ?様でしたか若様は貴女のお使いの香水に興味を示されたのです。これはとても光栄な事で誇れることですわ」
「へぇ…フィナさんここは香水が有名なの?」
「はい。このサーヴァス領は香水をはじめアロマオイルに石鹸と香りに関するのもを多く産出してお…いるの。そして国内外の調香師は定期的にここに修行に来るくらい有名なのよ」
だから私の香りが気になったんだ。確かフィラが私はこの世界の人と違う香りがし、フィラの香水で抑えているって言ってたなぁ… そんな事を考えていたらフィナさんが隣で険しい顔をしている。侍女さんは美丈夫2人に意識が向きフィナさんが小声で話しかけて来た。
「恐らくレイハント様は多恵様に興味を持ったようです。明日の朝出発まで気が抜けませんわ。無難に躱さないと…」
「あ…だね…もしかして香水の事聞かれるかなぁ?」
「その辺も口裏を合わせておかなければ…」
そしてまだ話が終わらない2人とそれを見つめる侍女さんに気にしつつ、フィナさんと香水の出所の設定を考える。フィナさん曰くマスターのレイハント様は市販されている全て香水が分かるはずだから市販とは言えない。でも自作や貰ったと言ったら作り方や作った人を紹介しろとか言われる。
『『困った…』』
フィナさんと手を取り合い悩んでいたら…
「レイハント。こんなところで何をしている」
ここで救世主の登場!サーヴァス侯爵様が来て下さった。どうやらシリウスさんが従僕に呼びに行かせていたようだ。侯爵様は足止めしたレイハント様を諫め、案内の侍女さんに私とフィナさんを大広間に案内するように命じ、レイハント様とシリウスさんを連れて会食の部屋に誘導してくれた。やっとこの場から離れられて足取り軽くレイハント様の横を通り過ぎようとしたら凄く小さな声で
「後で行くから話を聞かせてくれ」
「!」
あ…ロックオンされてしまった。この後の食事は騎士さん達と楽しく食べるはずが、全く味がしなかったのは言うまでもない。食後警戒しながら部屋に戻ると部屋の扉の下に手紙が挟んであった。猛烈に嫌な予感がして半泣きで手紙を見ると案の定レイハント様だった。フリーズ中の私を見てフィナさんが挟まれた手紙を拾い私の手を引き部屋に入る。そしてベッドに座り2人で手紙を見つめて固まる。
「多恵様。取りあえず開封します?」
「ごーとぅーだんろ はあり?」
青い顔をしたフィナさんが首が取れそうな勢いで首を振って目を通すようにお願いしてくる。
仕方なく開封して読み出すと、帰るまでに会って私の香水の出所と、出来れば香水を分けて欲しいと書いてあった。半泣きでフィナさんを見ると
「私、シリウス様に相談に行ってきます!」
「いや、まだ会食が終わってないかもしれないよ」
「う…」
『取りあえずこの手紙を燃したい…』
そんな事を考えている間にフィナさんは浴室の準備をしてくれ、私は手紙が目に付かない様に部屋の隅のチェストと壁の間に隠した。そして湯浴みの準備をしていたフィナさんが戻って来て湯浴みを勧めてくれ、湯に浸かり体の疲れを癒す。湯から上がると眠すぎて動きの鈍い私をフィナさんがお世話してくれ、髪をフィナさんが拭いてくれていた。すると
"コンコン"
無音の室内にノック音が響き目が覚めた。誰かが来た? 警戒しているとフィナさんが応対し扉を開けるとシリウスさんが入って来た。お疲れなのかシリウスさんの機嫌は頗る悪い。私は何もしていないのに気まずくて逃げ出したくなる。そんなシリウスさんにめげずにフィナさんがレイハント様から手紙が届いた事を報告し、シリウスさんに見せる為に手紙を探している。
「多恵様。レイハント様の手紙は?」
「あ…ここ」
そう言い隠した場所に取りに行くと、フィナさんとシリウスさんが苦笑いしている。そして手紙を受け取ったシリウスさんが手紙を読み…
「今から侯爵に話をしてきます。流石にこの遅い時間に紳士であるレイハント殿が部屋までは来ないと思いますが、私が退出した後は誰が来ても応対せず、施錠しお休みして下さい」
「はい…レイハント様は本当に私の事知らないんですよね⁈」
「先ほど侯爵に確認しましたが伝えて無いそうです。しかし彼の嗅覚を甘く見ていました。乙女の"芳しい香り"に気付いてしまった。貴女の香りは妖精王の香水でも隠せない。きっと彼が真実を知れは、貴女に付きまとい香水の女神だとか言い心酔するでしょう」
これ以上攻略対象を作りたくなくて、思わず嫌な顔をすると
「大丈夫です。明日の出発は早い。今晩会わなければ直ぐ出発です」
「はい。部屋に籠って貝になります」
「そうして下さい」
そう言ったシリウスさんは抱きしめてチークキスをして足早に退室して行った。するとフィナさんが直ぐに施錠し、念の為?扉の前に椅子と荷物のトランクを2つ置きバリケードを作った。そして11時なり灯りを落としベッドに入り就寝。疲れていたのかお休み5秒だった。
翌朝3刻過ぎに過ぎに目覚めると既にフィナさんが起きていて直ぐにお茶を入れてくれる。お茶を飲んでいたら
「多恵様は直ぐお休みになられましたが、私は暫く起きていて報告書を書いていました。そうしていたら8刻近くに誰か部屋に来てノックをしたんです。怖くて息を潜めていたら直ぐに戻って行きました。あれはレイハント様だったのでしょうか⁈」
「えっ!そうなんだ。全然知らなかった」
フィナさんがと顔を合わせて苦笑いし身支度を急ぐ。そうしていたら誰か来てフィナさんが恐る恐る応対すると聖騎士団のアダムさんだった。慌てて支度を急ぎバリケードを取り払い扉を開けると、朝から爽やかな微笑みでご挨拶頂く。
どうやらシリウスさんの指示で朝食の大広間まで一緒に行ってくれるそうだ。すると少し躊躇したアダムさんが…
「多恵様。瞳のお色が…」
「?」
そう、目薬の効果が切れかけていていた。慌てていたら風が吹き…
「待ったか?」
「あ…おはよう。うん目薬を待ってた」
「そこは"俺を待ってた"って言うべきだろう。どうやら俺の愛が足りないようだな⁈」
「!」
フィラは意地悪な顔をして抱き寄せ、アダムさんとフィナさんに退室するように言い、慌てて2人は部屋の外へ行ってしまった。嫌な予感がし変な汗が出てきたらフィラは笑いながら
「約束通り今日の目薬だ」
珍しく冗談を言うフィラに安心し、目薬をさすのが下手な私はフィラに頼む事にした。
「ありがとう。さしてくれる?」
そう言い顔を上げると目薬の前に口付けされる。予想通りだから動じないもん。そして点眼を終え鏡で瞳の色をチェックして準備完了。すると私の顔を覗き込んだフィラは
「何か困っているのか?」
「あ…分かる?」
私の変化に敏感なフィラは気付いている。そこでフィラにレイハント様の事を話すと
「自分で分からないけどそんなに臭う?」
「あぁ…お前の香りは胸の奥がムズムズし高揚する。他に者に嗅がせたく無いが、その香りは俺の妖力でも香水でも消せない。俺の調合した香水で抑えてはいるが、彼奴は人の中でも優れた嗅覚をし感が鋭く感じるのだろう」
「何か手は無いの?」
暫く考えてフィラは急に表情を明るくし、そして悪い顔をして
「俺に任せておけ。安心してレイハントに会えばいい」
「大丈夫なの?」
そう言うとフィラは口付けてから首元を嗅ぎ、吐息が首元に当たり身震いする首と耳に口付けた。私が怒ると笑いながら外に控える2人を呼び
「多恵様。本当に大丈夫なのですか?」
「フィラが何か対策してくれるみたい?」
「俺を誰だと思ってるんだ」
そう言い偉そうに胸を張るフィラは子供の様でかわいく見えた。そしてフィナさんとアダムさんに声をかけ珍しく直ぐに帰って行った。この時は何とも思って無かったけど、レイハント様対策にフィラは、飛んでも無い事をしていたのは後で知る事になる。
そしてまだ不安げなフィナさんと警戒中のアダムさんに付き添われ廊下を歩いていると、廊下の角から突然レイハント様の登場! まさかの待ち伏せ?
アダムさんが背に庇ってくれフィナさんが手を繋いでくれる。すると壁のアダムさんから覗き込んだレイハント様が
「手紙は読んでくれたか?」
「えっと…はぃ…」
「そうか!なら今から」
困っていたら廊下の向こうから侍女さんが数名が歩いて来た。一瞬気を取られたアダム様の隙をついたレイハント様が私の手を取り引っ張る。咄嗟の事で抗えずレイハント様の腕の中に! すると私に顔を近づけたレイハント様。リリスの箱庭の住人には珍しく塩顔で端整なお顔をされかなりの美形だ。そんな綺麗な顔が近くにありテンパる私。
『ピンチじゃん!フィラ!本当に大丈夫なの⁈』
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