パンランキング
シリウスに蜂蜜漬けにされながらも、やっと王城に戻ってきたら誰かが待ち構えていて
グレン殿下とフィル殿下を王都端まで送りやっと王城に戻って来た。シリウスさんに馬から下してもらうと文官さんが待ち構えている。猛烈に嫌な予感がし
「多恵様お疲れのと…」
『先手必勝!』
「はい。疲れています。だから部屋に戻ります。陛下に"話がお有りなら明日の出発前にして下さい"とお伝えください」
「でっですが!」
慌てだす文官さんが勘違いしている事に気付き
「ちなみに私怒って無いですよ。そこは間違わないで下さいね。本当に疲れているんです。急ぎでない事は後にして欲しいだけですから。分かりました⁈」
「え…あ…はい」
「OK!では伝達よろしくお願いします」
そう言い切り踵を返して部屋の戻ろうとしたら、リチャードさんが手を差し伸べてくれた。その手を取るとシリウスさんが反対の手を取り口付けて名残惜しそうに
「まだ貴女と居たいがアラン団長に呼ばれておりますので、こちらで失礼いたします」
「あっはい。送っていただいてありがとうございます」
甘い微笑みを向けられドキッとする。いつもポーカーフェイスの人の微笑みは攻撃力が強く恥ずかしくなる。偶々近くにいた下女の皆さんが仕事の手を止めてシリウスさんをガン見していた。
「さぁ…ふふ…いや、申し訳ございません。お部屋に戻りましょうか」
何故か半笑いのリチャードさんにイラっとして眉を顰めたら
「あの氷の騎士があんな甘い表情をしたので、彼も男なのだと認識した次第で…失礼いたしました」
リチャードさんはいかにシリウスさんが私に惚れているかを熱弁しだし困ってしまう。何故ここでシリウスさん推しをするのか疑問に思い聞いてみたら…
「シリウス殿は同じ時期に聖騎士団に入隊し謂わば同期なのです。まぁ実力は彼の方が上なので上官になりましたが、心根がまっすぐで同性から見ても気持ちのいい奴です。沢山の女性に想いを向けられてもその気が無く、生涯独身なのかと心配していました。私は早くに心から愛する女性に巡り合え愛し愛する喜びを知った。彼にもその喜びを知って欲しいと思っていたのです」
シリウスとリチャードさんが同期なんて初耳だ。確かに同じ年位だとだと思っていたけど。リチャードさんはがシリウスさんを心配するのは理解できるけど、でもその想いに答えるかは別だから… 私が黙り込むとリチャードさんが
「多恵様の想いは多恵様のもの。ご自分に素直に思うままでいいんですよ」
「はい…今はリリスの役目でいっぱいいっぱいなんです」
「本当に素敵な女性だ。私にできる事があれば何でも仰って下さい」
「じゃぁ…自室まで最短でエスコートお願いします」
「はっはは!やはり貴女は可愛い」
そうして人目もはばからず大笑いするリチャードさん。すれ違う人が二度見…いや三度見していて、こんなに笑うリチャードさんは稀なんだと実感する。
そしてやっと部屋に戻りてん君を呼んでこの日はのんびりと過ごした。
「…?」
目が覚めると周りが騒がしい?
顔を上げるとてん君とフィラが思念で喧嘩している。何を言い合いしているのか聞くために2人?に意識を向けると…
『何故だ!』
『フィラ くる レックロッド けんか だめ』
『否!俺は行くぞ』
どうやらてん君がレックロッド視察中は(レックロッドに)来るなと注意している様だ。てん君の言う通り未だ妖精VSレックロッドの構図は変わりなく揉めるのは目に見えている。
『朝から喧嘩しないで』
思念で声をかけるとフィラとてん君の視線が一斉に私に向きびっくりする。するとてん君が後ろ足でフィラを蹴り私の胸元に擦り寄って来た。そして私の手を叩きもふもふを要求する。甘えるてん君が可愛くてもふっていたら、やきもちを妬いたフィラが荒々しく口付けて来た。
今日はレッグロッド出発する日だから朝から揉めないで欲しい。
結局フィラとてん君の機嫌取りをし既に疲れている。結局二人と一匹で話し合い、不満の多いレッグロッドの妖精たちを刺激しない為に、レッグロッド滞在中のフィラの訪問は禁止となった。
こうして暫く会えない事を理由に朝からかなり際どい絡みをされ、いつも通りてん君に噛みつかれフィラは帰って行った。
そしてやっと起き上がりガウンを羽織り部屋に行くと、アイリスさんが忙しそうに走り回っていた。
「多恵様ご起床でしたらお呼びくださいませ」
「おはよう。忙しそうだね…ごめんね、ありがとう」
アイリスさんはお茶を入れてくれ、ソファーで朝食の用意が出来るのを待っていたら?
『あれ?誰もダイニングテーブルに行かない?』
いつも朝食は専任の侍女さんだけでなく、お手伝いの従僕さんや侍女さんが来て用意してくれる。でも今日は皆さんレックロッド視察準備をしているのか忙しそうだ。
『もしかして朝は抜きなの?』
昨晩は早く寝たからお腹が空いている。少し不安になって来たらモリーナさんが来て衣裳部屋に連れて行かれる。そしてあれよあれよという間にキレイ目のワンピースに着替えさせられ、部屋に戻された。すると
「おはようございます。本日の朝食は陛下と共にしていただきます」
昨日陛下の遣いで来た文官さんが鼻息荒くそう言い手を差し伸べて来る。疑問符を頭上に付けた私に文官さんが
「昨日、陛下のお誘いをお断りになられた時、多恵様は明日すなわち今日にと申されました。ですので…」
「あ…イイマシタネ…」
確かに"明日にして”と言った。でも朝一から?
『仕方ない。逃げ口上でも自分が言ったんだから責任持たないと』
引きつった表情で頷くと扉前にいるリチャードさんが横を向いて静かに笑っている。そんなリチャードさんを一睨みして高圧的に手を出しエスコートを促す。すると表情を引き締めたリチャードさんは胸に手を当て礼をしエスコートをしてくれる。陛下の部屋に向かう道すがらまだ不貞腐れている私はリチャードさんに小声で
「あんまり揶揄するならリチャードさんのエスコートは受けませんよ」
「これは失礼いたしました。揶揄したのではなく、反応が愛らしく微笑ましかったのです」
「今日はそういう事にしておきます」
「恩情に感謝いたします」
こうして仲直り?をし陛下の部屋に着いた。入室許可を得て入るといい匂いにお腹の虫が盛大に鳴る。
『この匂いは…』
そうダイニングテーブルの中央に籠一杯のブブ豆パンが鎮座していた。王妃様の元へ行っていたから最近ブブ豆パンに会えておらず、一気にテンションが上がる。ブブ豆パンに目を奪われていたら急に視界に陛下のお顔が入って来て驚き仰け反る。すると陛下に手と腰を取られ抱きしめられる。
「貴女を想う男が目の前に居るのに、パンに目が行くとは思わなかった…私はパンに劣るのか?」
「あ…陛下おはようございます。お招きありがとうございます」
間近にある綺麗な陛下の顔に焦り仰け反るが、更に腰を引き寄せられ密着し朝から深夜臭が濃い。するとここ一番役に立ってくれる私のお腹の虫は盛大に鳴いてくれた。
部屋の隅に控えるリチャードさんがまた笑っている。
こうしてお腹の虫の機転?で陛下の激甘から逃げる事ができ、やっと朝食にあり付けた。昨日陛下の誘いを断った事がショックだったようで、料理長に私の好物を聞き朝食を用意させたそうだ。
陛下はブブ豆パンは初めてで微妙な顔をされていた。癖のある豆だから貴族や王族の方は口にしない庶民の味だ。
「これは初めて食した。多恵殿はこれが好きなのか?」
「はい。私のパンランキングの1位です」
「そうか…」
『やっぱり高貴な方のお口にはあわないよね~』
私の求婚者達はこのブブ豆パンチャレンジをしてくれるが、今だこのパンの良さを分かち合える人はいない。こんなに美味しいのになぁ…
こうして和やかに朝食を食べ終え、デザートのフルーツを食べていたら人払いされて陛下と2人っきりになる。もう何度も経験したから理解している。重要な話があるんだ。
座り直し陛下に向き直ると
「午後にレックロッドに向け出発となる。道中の休息地や宿泊は忠誠心の強い家臣の元にしたので安心して欲しい。しかし今回の視察団に貴女が同行している事は秘密にされ、城内にも箝口令を出している。だがアルディアの例もあり、いつどこで漏洩するか分からん。だからいつ何時も自分の身を一番にして欲しい」
「はい」
陛下の言う"アルディアの例"は秘密裏にサリナさんの実家のバース領に同行をした事を王妃様の侍女がポロリして、帰路で貴族に追い回された事を言っているのだろう。どうやら私の行動は全てこの箱庭で共有されている様だ。
『変な事出来ないじゃん』
そう呟き少し不機嫌になる私だった。
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