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出立

シリウスを慰める事になり

どの位経っただろう。シリウスさんの心が整うまで私の短い腕で抱きしめていた。すると私の腕の中で小さく笑ったシリウスさんが


「抱擁は男が女性を護り愛情を示すものだと思っていました。しかし…こうして愛する女性に抱き締められるのは悪くない」


やはりモーブルの男性は女性に頼られるべきという概念が根強いようだ。勿論力の弱い女性が男性に護られる事が多いかもしれないが、抱きしめてあげたい気持ちに性別は無いと思う。そう思い片腕をシリウスさんの背から頭に移動し撫でてあげると、シリウスさんは私の肩に頭を預けて目を閉じる。


「陛下と王妃様から信頼を得ている多恵様ならお聞きになりご存じだと思いますが、グレン殿下は私の親友グリードの血を引く子。真実を知らず愛してやれない親友の為に、殿下が生れてからずっと側で見守って来ました。だからこの辛い状況の時に側に居れないのが歯がゆいのです」


シリウスさんの発言になんて返していいか分からず返事に困る。すると急にシリウスさんが顔を上げ鼻先が触れそうな位近くに綺麗なお顔が!

間近で見るシリウスさんのブルーグレーの瞳は一見冷たく感じるがとても優しい。慌てて仰け反ろうとしたら後頭部を固定された。


『近い!近い!』


心の中で叫び抗うが屈強な騎士様にひ弱な私が敵う訳も無く、頬にシリウスさんの吐息が当たる。そして


「口付けてもいいですか⁈」


シリウスさんの声は元々低音で艶っぽいに、更に色香を持ちお尻がムズムズして来た。

もうマタタビを浴びた猫だ。ぼんやりしているうちに唇に何か触れた。


「!」


意識が戻ると破顔したシリウスさん顔が更に近づき思わずシリウスさんの唇を手で覆った。

ぼんやりしているうちにキス(ちゅー)されてしまった。初心なティーンじゃないから、これ位で騒ぎはしないけどめっちゃ動揺している自分がいる。頭で色々考えていたらシリウスさんの唇を封じた手を取られ、また綺麗なお顔が近づく。


”コンコン”


外の騎士さんがノックをし文官さんが来たことを知らせてくれる。目の前のシリウスさんは眉間の皺を深め舌打ちした。そして私の首筋に口付け立上り扉に向かう。

突然の事にソファーになだれ落ちてだらしなく寝転がる。今アイリスさんが居たら怒られそうだ。やっと落ちついて来て扉を注視するとシリウスさんが戻って来た。


「残念だがグレン殿下とフィル殿下の出発の準備が整い、陛下への挨拶が始まるそうです。多恵様も御同席いただきたと陛下が申されておられます故ご準備を」

「はっはい」


未だ動揺していて声が上ずった。すると令嬢が見たら卒倒しそうな色っぽい微笑みを称えて私を抱きしめ、耳元で


「続きはまたの機会に…俺は今最高に幸せだ」

「!」


目を白黒させた不細工な私の頬に口付けたシリウスさんが退室し、代わりにモリーナさんが入って来た。超挙動不審な私に苦笑いしたモリーナさんが湯浴みと着替えを急かす。

こうして湯浴みで気分をかえ、リチャードさんと謁見の間に急ぐ。


謁見間に着いたらエルビス様が待っていて挨拶もそこそこに中に案内される。緊張した面持ちのグレン殿下と乳母に手を繋がれ意味が分からず佇むフィル殿下が立っていた。

エルビス様にエスコートされ定位置に着くと出立の挨拶が始まり、緊張したグレン殿下がしっかりとした口調で陛下に出立を告げる。

陛下いつも通り挨拶を受け殿下に


「王妃は長く其方らと別れ心細く思っている。成長した姿を見せて安心させなさい」

「はい」


胸を張り返事をするグレン殿下を見ていて泣きそうになる。ふと部屋の隅で見守るシリウスさんが目に留まり、父性溢れる眼差しに複雑や気持ちになる。

そして正式な挨拶が終わり別室で陛下と殿下は父と子としてお時間を持つことになる。私はお見送りの為に馬車の停泊場まで行こうとしてリチャードさんのエスコートを受けているが?


「あれ?リチャードさん?」

「はい」

「どこに行くの?」

「陛下が同席を求められておられます」


親子の会話の邪魔になるから、このまま停泊場に行こうと何度も言ったのに聞き入れてもらえず、最後は手を離して1人で行こうとしたら…


「失礼致します」

「あ?」


リチャードさんに抱っこされ強制連行された。もうここまでされると逃げようがない。あっという間に陛下の執務室に着いてしまった。そして入室許可を得ようとしたら中から鳴き声が! 慌てて入室すると


「や!」

「フィル。父上を困らせるんじゃ無い」

「や…うぅ…」

「…」


部屋に入るとフィル殿下が部屋の真ん中で寝転がり泣いている。そしてその横で自分も泣きそうになりながら困っているグレン殿下。そして立ち尽くす陛下がいた。 

なんだこれ?


「多恵様!よく来てくださいました」

「何があったんですか?」


フィル殿下の乳母のエマさんご困った顔をして私に駆け寄り助けを求めてくる。とりあえず子供達を落ち着かせないと!

直ぐにフィル殿下の元に行き手を差し伸べると抱きついて来たので抱っこをし、反対の手でグレン殿下を抱きしめた。

状況から推察し陛下が子供達を不安にする様な事を言ったのだろう。


グレン殿下の手を引きソファーに座り2人を宥める。すると落ち着いた2人に甘い飲み物を用意してもらう。王妃様がご実家に行かれてから、時間がある時はフィル殿下の元に行っていてので案外懐いてくれている。

2人とも事情は分かってないけど、大人の雰囲気で只事で無い事を感じ不安なのだ。子供は言葉や思考が幼いが感がいい。

落ち着いたグレン殿下に話を聞くと


「僕はフィルの様に小さくないから、父上が一緒に行けないのは分かっています。しかし父上が…」


言葉を詰まらせたグレン殿下に王妃様の事が薄々わかっている事を感じていると、陛下は罰が悪そうに目を逸らした。


『あ…陛下らしくなく失言したなぁ』


現実は辛いものでも母に会い話せば理解し向け合えるはずだ。だから


「殿下はゆくゆくモーブルを支える者になるのです。良き事も悪い事も曇りなき目で見聞きし受け止めねばなりません。まずはお母様にお会いし、しっかり話をするのが一番です」

「できれば多恵殿も一緒に行って欲しい…」


すると身を乗り出した陛下が


「多恵殿はリリスの役目がある」


そう冷たく言うと身を強張らすグレン殿下。そんな殿下を抱き寄せ額にキスをして


「私は先日王妃様にお会いしてきました。王妃様はお二人の成長を聞き1日でも早く会いたいと仰っておられました。その勇ましくなったお姿を見せてあげて下さい。それに今回お二人が会いに行けるのは陛下のお許しになったからですよ」


そう言うとハッとしたグレン殿下は立ち上がり陛下にお礼を言っている。素直なグレン殿下をみて表情を柔らかくする陛下は父親の顔をしている。

腕の中のフィル殿下も落ち着き辿々しくお話をしてくれる。

やっと両殿下が話を聞ける様になったところで陛下が


「王子よ。お母様は体調を崩され心細く其方らに会いたがっている。其方らの元気をお母様に分けてくるのが役目だ…」

『またそんな言い方をする。父親なんだからもっと…』


私の念が届いたのか陛下は


「母様に甘えてきなさい。父は一緒に行けないから母様を頼むよ」


やっと陛下ではなく父親から言葉を聞いた両殿下は納得し出発する気になった。その様子を見ていた乳母のエマさんとチェイス様が慌しく出発の準備を始め出す。私はまだ私から離れない両殿下を連れて馬車の停泊場まで移動する。


「…申し訳ございません」

「いえ…でも良かった」


結局フィル殿下が私から離れてくれず大泣きし、これ以上出発を遅らす事ができず、私はチェイス様に馬車に押し込まれ出発となった。どうなるのかとヒヤヒヤしたが、王都端に着く頃に疲れた2人は寝てしまいエマさんに任せ馬車から降りた。そして馬車について来ていたシリウスさんとリチャードさんと共に王城に戻る事に。シリウスさんに乗せてもらい城へ急ぐ。


「ありがとうございます」

「?」


シリウスさんは出立の挨拶でグレン殿下が不安なお顔をされていたので心配だったそうだ。


「貴女はまるで子育ての経験がある様にみえ驚きました」

「えっと…親戚の子のお世話をする事が多かったから?」

「貴女はきっといい母親になるでしょう…できれば俺の妻になり俺の子を産んで欲しい」


こうして疲れた上にシリウスさんの口説きに合い、レッグロッド出発前にへとへとになってしまった。


お読みいただき、ありがとうございます。

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