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お仕事着

モーブル城に戻ったのも束の間。直ぐに視察団の準備が始まり…

『背中が暖かい…』


耳元に吐息を感じ寝返りを打ってフィラの首に抱きつき自分からキスをした。

一瞬驚いた顔をしたフィラは蕩ける様な微笑みを向けてくれる。


「どうした?」

「う…ん…なんか寂しくて」

「ダラスとシャーロットか?」


図星に口籠もると強く抱きしめてくれフィラの高めの体温に癒される。陛下の立場も分かるし王妃様の気持ちも分かり、なんとも言えない気持ちになる。


「番いの事は当事者達にしか分からん。側は見守るしかないぞ。だかお前は優しいからな…」


フィラのは言う通り私にできる事はない。でも簡単に割り切れるものではなく、このもどかしい気持ちはどうにもならない。そして不安な気持ちを優しい婚約者フィアンセに慰めてもらい気持ちの整理をしていた。

暫くしてフィラは帰りベッドから出てガウンを羽織り部屋の方へ行くとモリーナさんがお茶を入れてくれる。ソファーに座りお茶を飲んでぼーとしていたら、外の騎士さんが文官さんが手紙を持って来たと知らせてくれ、モリーナさんが対応してくれる。


手紙を受け取るとエルビス様からで、明日の説明に来たいとの事だった。時計を見たら3刻半前だから、4刻半にお会いすると返事をしてもらい用意された朝食をいただく。


「お疲れのところお時間をいただきありがとうございます」

「いえ、こちらこそ色々と手配いただきありがとうございます」


きっちり4刻半にエルビス様が部屋に来て何故かレックス団長も一緒だった。

着席しレックロッド視察の詳細が説明される。

レックロッドに同行するしてくれるのは侍女のフィナさんと騎士団と聖騎士から各5名。そして文官さん2名の計13名だ。


「この視察団の責任者はシリウス殿で、多恵様の身分は女官として同行いただきます。今ゴードンが早急に女官のお仕事着を製作中でございます」

「!」


確か…女官さんのお仕事着って…


「マジか…」

「多恵様?」


そう女官さんのお仕事着はロングタイトスカートでヒップラインが目立ち、スタイルが良くないと似合わない。トップスも同じように体のラインが出るもので、常日頃女官さんのスタイルの良さに感心し自分が着る事なんて無いと思っていた。私の表情が曇るとレックス様が心配し、私の目の前に来て跪き手を取り優しく話しかける。


「ご心配事は何でも仰って下さい。変更可能な事もございます」

「レックス様…」


顔を上げるとエルビス様もモリーナさんも優しい眼差しを向けてくれ、勇気を出して言ってみる。


「実は自分の容姿に自信が無いので、()()女官さんのお仕事着を着る自信がありません」

「「「!」」」


私の発言に3人とも固まる。


『今絶対皆も似合わないと思っているよね…だけど”女神の乙女”にそんな事言える訳なく…』


もう気分テンションは地の底まで落ち、自分が視察に同行すると言ったのにやめたくなって来た。するとそこに…誰か部屋に来て外の騎士さんが通すと


「多恵様!お仕事着が仮縫い出来ましたのでご試着を!」

「えっ!もぅ?」


そう部屋に来たのはゴードンさんで女官のお仕事着が出来て試着の為に来たようだ。今回はリメイクでは無いので圧が凄い。そうでなくてもテンションが低空飛行中の私は試着できる気分ではない。だがそんな事ゴードンさんに通じる訳も無く、モリーナさんと私はゴードンさんに連行され衣裳部屋に押し込まれた。戸惑いながらモリーナさんが試着を始める。泣く泣く着替えると…


「多恵様とてもお似合いですわ!」「…いい意味で裏切られたよ」


そうゴードンさんが仕立てた女官のお仕事着は見た目は他の女官さん同じお仕事着に見える。しかし実際はヒップに腰、胸元もゆとりがあり、体のラインが出てそうで出ていない。絶妙なところをいっている。鏡の前で感心してたらゴードンが確認したいと声をかけてくる。


「ゴードンさん。天才だよ」


部屋に移動し開口一番ゴードンさんを称賛したが、ゴードンさんは私の回りをぐるぐる回り手直し箇所の確認をしている。一頻確認が終わった様で顔を上げて


「多恵様は控えめなデザインを好まれますので、見た目は他の女官と同じにしてありますが、実際はゆとりを取り着心地を重視致しました」

「嬉しい。ありがとう!」


低空飛行の気分テンションが急浮上し、思わずゴードンさんにハグをした。すると興奮状態のゴードンさんは思いっきり抱きしめ、ゴードンさんの腕の中に閉じ込められる。すると…


「いてて!」

「お前何をしている!」

『この声は…』


そう遅れてきたシリウスさんが私に抱き付くゴードンさんの腕をねじ上げた。確か前にもこんなことがあったような… ゴードンさんのうめき声で我に返り、止める為にシリウスさんの腕に抱き付いた。やっと視線が私に向いて蕩けるような微笑みを向けてくれる。

開放されたゴードンさんは懲りずに私の手を取り手の甲に口付けそして


「手直しと、後洗い替えに数枚縫いあげるので、これにて失礼いたします。俺の女神ミューズご期待ください」

「えっと…無理しないでね。ちゃんと寝て食べてくださいね」

「はい!では失礼」


嵐の様なゴードンさんはお仕事着を持って退室して行った。不安要素のお仕事着もクリアして後はスケジュールと、私の設定をエルビス様からお聞きする。

当たり前の様にシリウスさんが私の手を引き隣に座るとレックス様が苦笑いしている。

咳払いをしたエルビス様が続きを話し出す。


「多恵様の身分は伯爵家令嬢の女官とし、レッグロッドでは侍女のフィナ嬢と行動を共にしていただきます。全行程は約10日を予定しており、片道3日かかります故 実際の滞在日数は4日しかございません。公爵領の時ほどタイトではございませんし、馬車移動ですのでお身体の負担も少ないかと」


良かった…いくら十代の若い体とはいえ馬は結構体に堪える。馬車なら疲れたら寝ればいいし。エルビス様の話では王都は位置的にレッグロッド寄りでまだ近く、モーブルでも辺境地からレッグロッドに向かうと片道10日はかかる。馬車移動が長いからクッションやお布団を持ち込もうと考えていたら


「後1つ先にお決めいただきたい事が…」

「?」


身構えていると現地での仮名を決めて欲しいと言われた。何故なら行く前に同行する人達に慣れてもらう為。でもいきなり仮名言われても…

悩んでいたらエルビス様が紙を1枚取り出し渡して来た。よく見ると女性の名前がいっぱい書いてある。まるで生まれた子の名付で悩む親の様だ。


『アナスタシア、ウラウ、キャス…』


どれも純日本人の私には似合わない。他の皆さんは候補を見ながら提案してくれるが…


『この顔にジュリエッタなんて罰ゲームでしかないよ』


このまま決まらないと勝手に決められそうで必死に考えて…


『はぃ!エリカにします』

「「「「エリカ?」」」」


そうこの名前は娘の幼馴染の名前。ご両親が学校先生で将来世界に目を向けて欲しくて、海外でも呼びやすい名前にしたと聞いた事がある。この名前なら呼びやすいし違和感なさそうだ。


初めはキョトンとしていた皆さんも納得してくれ仮名が決まった。こうしてエルビス様とレックス様は退室されシリウスさんが残り、気がつくとモリーナさんもいない。

また甘い雰囲気に持っていかれると警戒すると、シリウスさんは眉間に皺を寄せ静かに話し出した。


「急遽グレン殿下とフィル殿下が王妃様が静養するデスラート公爵領に昼一に向かわれます。これは王室始まって以来異例の事。本来私が護衛の任に就くべきですが…」

『そっか…昨晩陛下が用意が出来次第って言ってた。でもなんで異例なの?』


多分私が間抜けな顔をしていたらしく、シリウスさんが説明してくれる。やっぱり王族は共に外出する事が出来ない。でもそれは陛下と王子の事だと思っていたけど、王子や王女も同じ理由で行動を共にする事はないそうだ。確かに王位継承権が上位の王子2人が一緒にいて不測の事態が起これば、継ぐ人が一気にいなくなってしまう。分かる様に話してくれているシリウスさんの表情は何故か曇っている。その表情を見ていて


『もしかして王妃様の病気の事しっているの?』


でも陛下は他に知る者はいないって言ってた。まだ確証がないから発言には気を付けないといけない。でもシリウスさんの話しぶりでは知っていそう。この後の会話に困り誰か突入してこないかと扉を見ていたら、シリウスさんは眉尻を下げて微笑み”可愛い”を連呼し抱きしめて来る。


「なんだ!焦りましたよ」

「本当に愛おしい女性ひとだ」


やっぱりシリウスさんは王妃様のご病気を知っていた。実は王妃様が静養されている公爵邸からシリウスさんに手紙を送られていた。恐れくグレン殿下が一番慕うシリウスさんに殿下の支えになってもらう為だろう。同じ子を持つ母親だから王妃様の気持が分かる。


「私は貴女がこの後向かわれるレックロッドを確認する任がある。だが殿下が王妃様に会われ病気を知った時にお傍にいて差し上げたい。グレン殿下はやんちゃで負けず嫌いですが人一倍寂しがり屋です。だから心配でなりません」

「やっぱりグレン殿下と共に…」

「いえ、今回の人選は陛下がお決めになられたので異を唱える事は…」


シリウスさんの殿下に対する愛情を感じ、葛藤するシリウスさんに私は何か出来るだろうか⁈

陛下に直談判?いや、陛下は私を優先するだろうし、後1刻もしないうちに出発してしまう。

やっぱり何か出来る訳も無く、シリウスさんのお心に寄り添う事しか出来なと思い、目一杯腕を伸ばし彼を抱きしめ落ち着くまで側にいた。

お読みいただき、ありがとうございます。

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