真珠の髪飾り
王妃の見舞いを終え、後は帰るだけだけど…
「はぁ…やっと落ち着いた」
部屋に通されるとおやつが用意されていて、アイリスさんが待っていてくれた。着いた時は顔色が悪かったアイリスさんも公爵家の侍女さん達からマッサージを受け復活したようだ。おやつは木の実ケーキでとても美味しそうでたくさん食べてしまい、食べ終わると睡魔に襲われソファーで船を漕ぎだす。満足していると誰かが部屋に来てアイリスさんが応対してくれた。ぼんやりと扉を見ていたらアッシュさんが入って来て、ソファーで寝落ち寸前の私を見て笑っている。そして先にアイリスさんに何かを渡して話し始めた。
「その方がよろしいかと。このままではお体を壊してしまわれますわ」
「では閣下にお伝えして宿泊の準備と伝書鳥の手配を」
『伝書鳥?』
辛うじて残っている意識で何の話か考えるが、強力な睡魔と攻防中で頭が回らない。ぼんやりアッシュさんを見ていたら目の前に来て跪いて
「当初の予定ではこの後直ぐここを出発し、子爵領と伯爵領の境の街で宿泊予定でしたが、予定が遅れている事から朝一に伝書鳥を飛ばし予定の延長を申し出ておりました。そして先ほどチェイス様から返事があり、レックロッド出発を2日遅らせることが決まりました。帰路は多恵様の体調を考慮し休憩を増やし進むます。今日はこちらでお休みいただくので… このままお休みになられて構いませんよ」
「へ…このまま寝ていいの?」
「はい。後はお任せ下さい」
アッシュさんはそう言い頭を撫でて微笑んで退室して行った。するとアイリスさんが就寝準備を始め、すぐに公爵家の侍女さんがわらわら入って来て身ぐるみは剥がれ湯船に入れられて…
ここから記憶が断片的にしか無く、気が付くと大きなベッドで眠っていた。目が覚めると部屋は真っ暗で時計を見たら8刻を過ぎていた。どうやら夕方からずっと眠っていた様だ。夕食も食べてなくてお腹が空いたので部屋の方へ行くと、アイリスさんがテーブルで書き物をしていた。私に気付いたアイリスさんがシュールをかけてくれお茶の準備をしてくれる。
「ごめんなさい。私何もせず寝ちゃって」
「多恵様は頑張ってらっしゃいますわ。お体大丈夫ですか?」
頷くと私のお腹が盛大に鳴り焦ると、アイリスさんが侍女さんを呼び食事を用意してもらう。そして私の寝ている間にあった事をアイリスさんから聞きながら食事をし、明日の予定を聞いていた。
「また早朝の出発になりますので、召し上がったら早めにお休み下さいませ」
「うん。アイリスさんも早く休んでね」
こうしてお腹がふくれ満足して再度ベッドに入り寝む。
『たえ あさ おきる』
『ゔ…んもう少し』
『だめ もう かえる みんな まってる』
頬に温かい肉球を感じ目を開けると険しい顔のてん君が私の頬を前脚で叩いている。そして部屋の方が騒がしく慌てて起きてガウン羽織り部屋に行くと、アイリスさんをはじめ侍女さん達が慌しく帰り支度をしている。
時計を見ると2刻前で窓の外はまだ薄暗い。私に気付いたアイリスさんに手を取られソファーに座らされると侍女さんがお茶を入れて入れた。
「2刻半前には出発いたします。朝食は途中の街でいただきますので…」
「大丈夫です。我慢できますから」
こうして身支度を急ぎエントランスへ向かうと、公爵様はじめ屋敷の使用人の皆さんがお見送りに集まって下さった。本当は王妃様にもう一度会いたかったが、昨日お疲れになられた様で、まだお休みなさっていると公爵様が謝られていた。
「多恵様。王妃様がこちらを貴女様に…」
「?」
公爵様が渡したのは手紙と綺麗な真珠の髪飾りだった。驚いていたら公爵様が王妃様の愛用品だと教えてくれる。そんな大切なものいただけないと断るが、返せる雰囲気では無くて
「私なんかが頂戴していいのでしょうか」
「常々王妃様…いえシャーロットは娘は授からなかったので、グレン殿下の妃にあげたいと言っておりました。あの子の思い入れ品でございます。ぜひ貴女様に受け取っていただきたい」
そう言うと公爵様はハグをして微笑んでくれた。これ以上断るのは失礼になるので王妃様のお心を受け取り、公爵様にご挨拶とお礼を述べ直ぐの出発となった。
こうして長時間をかけて王都に戻る。レッグロッドへの視察が2日遅らせた事で余裕ができた。休憩も頻繁に取ってくれるので心と体が喜んでいる。
そして…
「多恵様!モーブル城が見えて参りました!」
「やっとーだー!」
両手をあげて歓喜の声を上げたら、向かう先からランプの光が沢山向かってくる。不思議に見ていたら知ってる顔が…
「シリウスさん?」
「多恵様!」
そうシリウスさんを先頭に聖騎士の皆さんが迎えに来てくれた。気が抜けて涙腺が緩みシリウスさんの顔が見れない。すると
「わぁ!」
隣にシリウスさんが来たと思ったら手を引っ張られて、シリウスさんの腕の中に閉じ込められ、背後でアイリスさんが危ないと怒っている。当の本人は何が起こったか分からず、温かくいい香りに包まれ睡魔が召喚され眠い。するとアッシュさんが
「シリウス殿。胸中が察しするが抑えられよ。また城に着いておらず警戒をせねばなりません」
「すまない気持ちがはやってしまた。アッシュ殿私の愛しい人を守って下さり感謝する」
シリウスさんは同行してくれた皆さんに感謝を伝え更に私を抱き込んだ。急いできた様でシリウスさんの体温は高く更に眠くなる。その様子をアッシュさんが笑って見ていた。
そしてやっと城に着き馬が止まり顔を上げると…
「おかえり。待っていたよ」
「えっと…ただいま?」
両手を広げた陛下が待ち構えていた。どうしていいか分からず固まっていたら更にシリウスさんが私を抱き込む。眉間に皺を寄せた陛下が私の手を引き…
「ぅげっ!」
まだ私の意思を無視し今度は陛下の腕の中に…
『ペットじゃないんだからね!』
疲れていて抗議する気もないから言わないけど、でもやる事をしないと! 殿下の胸を軽く押して自分で立ち
「私の我儘を聞き入れて下さり、ありがとうございました。そして同行いただいた皆さんに感謝を」
そう言い皆さんにお辞儀をし感謝を述べた。こうして強行スケジュールの王妃様のお見舞いを無事に終えたのでした。
この後シリウスさんと陛下が私を部屋に送るのに睨み合いとなり、面倒くさくなった私は出迎に来ていたリチャードさんを手招きして、こっそり部屋に戻る事に成功。
でも部屋に戻る道すがら直ぐにへばってしまい、リチャードさんに抱っこされたのは言うまでもない。
部屋に戻るとモリーナさんが待ち構えていて、湯浴みの後マッサージを受け7割ほど回復した。そして…
暫くすると誰か部屋に来たがモリーナさんに断ってもらう。そして部屋に戻って来たモリーナさんは何故かバツが悪そうに
「あの…陛下自ら夕食を共にとお見えになられて…その…本当にお断りしたしますか?」
一介の侍女のモリーナさんが断るのは可哀想で、仕方なく重い体を引きずり扉を開けると、眉尻を下げた陛下が立っていた。
「疲れているので、陛下の元へ行くのは正直言って辛いです」
「ならば貴女の部屋でいい、食事を共にしたい。私は不快か?」
そう言い悲しそうな顔をする陛下。そんな顔されたら嫌って言えないじゃん!王妃様の様子も話せるから良しとしお受けする事にした。
『本当は明日報告に伺うつもりだったのに…』
自分が“NO!”と言えない日本人である事を痛感しながら、満面の笑みの陛下と向き合っていた。
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